第48話 ドロップアイテム
ゴブリン等の魔物による夜襲を見事に切り抜けたヒビキ達。
さて、転生したヒビキの第1日目はどこまで続くのであろうか……。
後書きのミニバグ録も、とうとう第7回!続きます。いや、続かせます。
嬉々としているのは否めないが、得た物の中に気になる点があったのもまた事実。開いたチャット欄に残された通知を、初めから確認する。
確か見たところによると、それは大まかに三つに分けられる。「経験値、ロスト、ドロップアイテムの共有」、「東の魔物連合」、「闇石」の三括りだ。
まず共有についてだが、俺らは元からパーティーを組んでいない。パーティーを組んでいればメンバーが倒した敵であっても、あたかも自分が魔物を倒したかのように、得られるもののほとんどが共有される。しかし組んでいない俺らには関係の無い話なはず。それはなぜか、これが一つ目。
次に、「東の魔物連合」。連合というだけあって、数の暴力を主軸とした集団戦だった。作戦がバラバラだったことが幸い。東ということは、他に西南北があると察する。ゴブリンが大半だったから良かったものを、中位以上の魔物が大多数ともなれば撤退するつもりだ。この懸念が二つ目。
そして残るはドロップアイテム「闇石」。
詳細を確認する前に実際に取り出してみることに。
「なるほど。これが、闇石か」
濃い黒の中に何本かの紫色の細い線がうっすらと浮かぶ、正方形のブロックが現れる。周囲がうす暗い中、一際濃い。
手にはしてみたものの、なにかと邪悪な気を察してしまう。
邪悪というか、混沌というか、禍々しいなにかを。
「ほう、綺麗だな」
デュラハンが羨ましそうに、まるで虜になったような目で闇石を凝視している。言われてみれば綺麗だと思うが。
念の為に、その詳細も捉えておくことにした。手にしただけで状態異常にかかるだなんて効果があれば面倒だと、今更ながら感じた。
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『闇石(?)』《「効果」:?????。錬金不可。*『ヒビキ』のみ所持可》
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「どういうことだ……? 」
級位も効果も伏せられてる上に、末に「『ヒビキ』のみ所持可」として限定されている。ドロップアイテムを共有したのだから、ノーグリードにも闇石は渡っている。
「ノーグリード」
「……なんだ。俺は疲れてんだよ」
「ドロップアイテムが手に入ったみたいだから、お前の所持品から確認して見て欲しい」
「おいおい、マジか!? すぐにやってやるとも! 」
ドロップアイテムの希少性は極めて高く、入手したとあらば絶頂ものである。そんな代物を手にしたと自覚したノーグリードは、喜びのあまり疲れなど感じさせない動きで咄嗟に立ち上がり、自身のステータス画面の、アイテム欄を開いた。
下へ下へと指で操作し、所持品から闇石を探る。
ノーグリードはそんなに多く所持品を確保しておらず、案外早く最下方のアイテム―――最終獲得アイテムにたどり着いた。
ノーグリードの最終獲得アイテムは、『ただの小石(G級)』。
「はっ、ねーじゃねーか」
「そんなはずは……」
俺だけが所持できるドロップアイテム。そんなものがこの世界にあるわけが無い。女神の仕業という線を考えたが、フィーさんが夜襲に手を加えていることはまずない。
夜襲の時、フィーさんには焦りがあった。つまり夜襲はフィーさんでさえも予想だにしていなかった、一種のイベントか何か。
イベントだとしても、奇妙すぎる話だ。
「この闇石が、お前にも与えられたはずのドロップアイテムだ。なぜお前も持ってないのか、全く分からん」
「これが、か。えーなになに……って、効果が伏せ字じゃねーか! しかもお前だけ所持できるって、どうなってんだ」
「それは俺の台詞でもあるからな」
この件は、フィーさんが起き次第尋ねてみることにしよう。俺には処理しがたい案件だ。
「なっ、なんだこれっ。所持金285258ロストだと!? 」
そうか、ロストも大量に手に入れたんだった。
ノーグリードの所持金は5万ちょっとだったわけだ、驚くのも無理はない。
「レベルも97に上がってるし」
そういや経験値も。俺はLv99から一向に上がらないけどな。
「わ、我も」
「キュキュ」
デュラハン、白兎もまたレベルアップしたらしい。俺のMPで召喚された従魔だからだろう、俺の得た経験値を自動的に共有していると察せる。ただし、所持ロストに関しては魔物は所持できないとされているから、条件はある。要は、経験値だけが取り込まれるシステム。
デュラハンはLv83に、白兎はLv52になっていた。それに加え、固有スキルや一般的なスキルが新しく手に入っている。スキルポイントはプレイヤーのみが獲得出来るものであるため、今回は俺とノーグリードのみとなっている。
「今日はもう寝ようか……疲れたし」
怒涛の争いに勝利したとはいえ、それぞれ疲弊している。
休養をとるのが賢い。警備はゴーレムに任せてある。
一日の疲れを取ろうと、大小屋へ向かう。
足が、重い。
精神的な重さではなく、身体的な重さ。
「あれ? 」
身体から、力が抜けていく。
2、3歩歩いただけなのに、勿論脚にさえも力が行き届かなくなっていく。
続いて目眩。
急に酔いが来て、歩くことさえ、膝をつくことさえままならなくなり、俺は、前にバタンと倒れた。
「な、ん……だ」
瞼の筋肉も、弛緩していく。
視界がぼやけるのと同時に、瞼が閉じられていく。
暗闇に慣れた目に、黒い何かがうっすらと映る。
まもなくそれが俺の手腕と、握られた闇石だと分かったところで、意識が潰えた
《第7回 ミニバグ録》
〜『あの人を想う』〜
ミーシャ 「んー! 今日も天気が良くて、気持ちいい! 」
ミーシャは、天気の良好さに気を楽にしながら小道を歩いていた。
村人A 「ありゃ、ミーシャ様でねーか」
ミーシャ 「おはようございます」
村人A 「ああ、おはよう。そうだべミーシャ様、この採れたてのランジュル、どうぞだべさ」
ミーシャ 「ええ、いいのですか!? ありがとうございます」
村人A 「いいんだいいんだぁ。いつもミーシャ様には元気を分けてもらってるからぁなぁ」
ミーシャ 「いえ、そんな、」
ミーシャは天気の良い日にはいつも出掛けるなり村人達に挨拶をする、そんな習慣に倣って今日もこうして回っている。
村人B 「そうさね、ミーシャ様の元気は、私らの栄養でもあるからね。太陽のようなお方でさぁ」
ミーシャ 「恐れ多いですよー」
村人C 「おはようだぁ、ミーシャ様」
村人D 「あ、そうだべさ、おらのミョルも上げるべ」
村人E 「おらもおらも」
そしていつも、こうなる。
村人達に愛され、慕われるミーシャの運命でもある。
だがミーシャは少しだけ、どこか上の空でいる。
村人 「どうしただぁ、ミーシャ様? 」
村人達は怪訝そうに問いかける。
ミーシャ 「え、ええ、なんでもありませんよ。今日の晩に何を作ろうか考えていたところです」
実は、違う。
ミーシャは、あの時から一つ心残りがある。
ミーシャ 「(また、お会いしたいものです……ヒビキ様)」
この思いは、一体どこへさまようのやら。




