第46話 黒いモノ
後書きのミニバグ録、まだ続きます。
主にネタで!
本文だけでなく後書きについてのご感想など頂けたら、泣いて喜びます(*^^*)
透明になってはいるが依然として硬い感触の立ち込める右手と、空いた左手で鋼糸線をグッと手繰り寄せる。
鋼糸網や鋼糸線それから奴本体の重量は中々のもの。けれどはなす訳にはいかない。鋼糸線を更に強く握りしめ、本腰入れて綱引きのように引っ張る。
こうなると、体力的な問題が出てくる。奴が網の中でがむしゃらに暴れまわればまわるほど、腕への負担が増していく。
「つ、土魔法で」
そこであるアイデアを思いつく。
俺に代わり鋼糸線を引き続けてくれる存在を作ること。
―――ゴーレムだ。
心の中でゴーレムを想像し、生成する。今回はバランス型よりもパワー型が好ましい。ということで、試作品同様、パワー型ゴーレムに事の収拾を委ねることに。
「ゴーレム、頼む」
思いを汲んだゴーレムはこくりと頷き、鋼糸線の引っ張りを引き継いでくれた。すると、モル木の枝まで届いていなかったゴブリン亜種入りの網が一気に枝近くまで吊りあがった。
「おお……」
流石はゴーレム。
と感心している場合ではない。
続く罠がしっかりと作動してくれるかどうか。それ次第では、立ち止まれない。
考慮している直後だった。
本当は罠に絡まれた時に爆発するはずだったが不発に終わっていた爆弾罠が、やっとの事で作動した。
急な爆発により、ゴブリン亜種は「ギエエエェッ」なんて悲鳴を上げる。
爆弾の威力は元より格段に上げてある。「爆弾」と「ビングの牙」を錬金して作っておいた「爆弾(大)」を大量にラ=スパイダーの糸でできた網に接着させ、それを鋼糸網の上に重ねていたのだ。
そうしてできる爆弾罠は、爆弾自体がおにぎりサイズのため、狂い狂った奴ならば眼中になくてもおかしくない。爆発範囲も、半径1〜2メートルほどある。まして鋼糸網に囲まれた奴に逃げ道はない。
多分、奴が暴れ回ったおかげで爆弾に刺激が加わり、爆発に至ったのだろう。
でもまだ、俺の罠は終わらせない。
「ギエッ!? 」
残念ながら、罠はもう作動している。
奴を取り囲んだ鋼糸網が物語ってる。
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『鋼糸網(A+級)』《「効果」:「糸網」の上級。硬性が格段に増し、あらゆる攻撃を凌げるはず。網の表面にはいくつもの棘があり、捕らえられた者を蝕む。錬金可》
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という優秀な効果。
つまり奴は今まさに棘に苦しんでいる。4万を越えた奴のHPは、50〜100のダメージをズルズルと受けており、爆弾罠によるダメージも含め3万を切りつつある。時間の問題だ。
その上網の棘に、麻痺毒(C級)を塗らせてもらってる。万が一にも網が奴の暴れ具合で破られないようにするための保険。破られても、そう簡単には動けないだろう。
時間が経てば状況はもっと良くなるだろうが、そんなに待ってられない。
今奴の身を侵せる罠はもう作動し切っている。
が、もう十分だ。
「夜刀闇鬼」
呼びかけに応じて、錬金履歴から自動的にそれが創造される。
手元に若干紫色の入り交じった黒刀が現れ、俺はそれをギュッと握りしめる。
夜刀闇鬼、随一の威力を持つ魔剣だ。
名前の通りの拵えで、錬金するには相応の材を負担しなけれならない。彼の『魔剣・赤龍の剣』の材料よりも遥かに稀有だ。
「黒龍の鱗(S級)」に「黒龍の爪(S級)」、「黒龍の翼片(S級)」、「黒龍の涙(S級)」が必要となる。「黒龍の涙」に至っては、今使用した分で最後である。
材料が材料なだけに、威力はとてつもない。
たった一振で、あらゆるモノを無に還す闇の炎を吹き出すという恐ろしい効果がある。
そんな恐怖じみた魔剣が錬金履歴にある訳は、俺の好奇心にある。
好奇心の赴くがままに錬金したのだ。
そうしてできた夜刀闇鬼をオークの上位種、オークジェネラルに振りかざした途端、奴の姿は闇の炎に覆われ、肉片残さず消えてしまった。
唖然として、目の前の状況を疑った。
同じ用法で何度か他のオークたちを相手にしたが、どれも結果は変わらなかった。恐ろしい武器である。
とは言っても一定時間が経てば消えてなくなる条件は赤龍の剣と同様。早期決着の不可欠性は揺るがない。
「お前ら、後ろに下がれ」
「そ、そうだな。貴様のソレから幾度となく妙な香りがするのでな」
「キ、キュ」
夜刀闇鬼を堂々と見せ付けて二人を後退させる。
夜刀闇鬼の効果が装備者以外を巻き添えにする可能性は否めない。そのための避難は完了した。
「やるか」
夜刀闇鬼の重量に耐えつつ、両手で構える。
装備しただけだというのに、黒い炎は魔剣からだだ漏れになってる。装備者が影響を受けないという補正があるだけで安心になるものだ。
安堵感に浸った身躯を跳躍させ、鋼糸網に向かって剣を一振する。直接斬った訳では無いが、それによる黒い炎が鋼糸網を―――ゴブリン亜種を怒濤の勢いで包み込んだ。
「グッ、ギャグゥエェェェェッ」
聞いたこともない断末魔がしたかと思うと、奴の身は鋼糸網もろとも消えてなくなってしまった。
その場で漂っている黒い靄を除いて。
「あれが……」
ゴブリン亜種に多大な補正を与え、あまつさえ変異させた原因、バグ。それがあれなのではないかとすぐ気付いた。
放っておくのは好ましくない。
消してしまわねば。
「ジジジ、ジジジジジジジ」
その靄から、そんなノイズに近い音が発される。
すると黒い靄は霧散し、空気中へとスゥーと溶け込んでいく。
まるで生き物が同化するように、自然と。
影に潜るかのように、ソォーと。
《第5回 ミニバグ録》
〜『罠に掛けたい』〜
デュラハン 「ノーグリードよ」
ノーグリード 「うん? なんだ、急に。今バルガノムを研ぐので忙しいから、また後でな」
デュラハン 「そうか。なら、構わない。せっかく我が名案を礎にヒビキのやつを罠に掛けてやろうと考えていたんだがな」
ノーグリード 「(スッ…………)話を聞くぞ」
デュラハン 「心変わりが早いな、貴様は。まあ罠というのはなー、(ゴニョニョゴニョニョ)」
ノーグリード 「ああ……。ああ!? おお、いいじゃねえか、それ」
デュラハン 「そうだろう? どうだ、共に嵌めてみないか」
ノーグリード 「あいつにゃ一つ痛い目を見させねーとな」
デュラハン 「そうだ」
彼らの企みは、その夜に実行された。
ノーグリード 「よし、そろそろ食べるか」
デュラハン 「そ、そうだな」
目の前には様々な野菜を詰め込んで煮た、ノーグリード特製のスープが。
ヒビキ 「おお、美味そうだな」
ノーグリード 「そうだろそうだろ、さ、温かいうちに食ってくれ」
ヒビキ 「…………」
デュラハン 「ど、どうしたというのだ? 」
ヒビキ 「…………」
ノーグリード 「お、おいおい、食べねーわけはねえ、よな? 」
ヒビキ 「……なあ、分かってるよな」
ノーグリード 「……ん? 」
ヒビキ 「これは、デュラハン、お前も噛んでるな。白兎、何か知ってるか」
白兎 「キュ? 」
ヒビキ 「そうか、お前は無実なんだな。そうかそうか」
ヒビキの面が、段々と暗くなっていく。
ノーグリード・デュラハン 「「(チラッ)」」
二人は互いに横目で救けを請い、双方同じ境地に立っていることを認識した後、諦めた。
ヒビキのスープに入っていた野菜は、どれも激辛激苦の物なのであった。ヒビキは料理を見た時から既に分かっていた。スキルになくとも自動で鑑定できるのが、一応プレイヤーのヒビキの力でもある。
それからの二人への罰は、痺れ罠(極)だった。
二人の企みは呆気なく幕を閉じた。




