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トラップマスターのゲーム記録〜バグ処理のために転生します〜  作者: 鳶崎斗磨
第二章 最弱職の最強者
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第39話 互いの特性

 生成したのはいいが、何か指示を出さないとゴーレムたちが立ち往生しているだけ。指示といっても、ただこの広場から俺らを守ってもらう以外に用はないけど。


「ゴーレムたちには、一晩中外敵―――魔物どもから俺らを守護してもらう。そのための武器も作ったりしてやるが、大抵の事は各自の意思に委ねるぞ。精一杯励んでくれ! 」


 そう叫んだら、計101体のゴーレムらは一斉にコクリと頷く。軍隊を率いている気分だ。


 さあ、公言したとおり今からは武器作りだ。


 地上戦はパワー型ゴーレムだけでは心細い。プラスして30体はそちらに回そう。とすれば、どんな武器が相応しいのだろう。

 考えるだけ無駄だから、とにかく色々作ってみよう。


 実は以前までに色んな武器を作ってきており、錬金履歴内に既に確保済みである。勿論、転生前の話。

 錬金術スキルを使いながら、錬金履歴にある武器を適当に30個選び、一つずつ作っては地面に落としていく。主に剣や斧、槍ばかりだ。

 地上戦に当てたゴーレムたちは全部で31体。なぜ一人分を省いているのかというと、他に用意したものがあるから。


 ―――グラル=アックス。


 ノーグリードの妹ミーシャを助けた際にゼロとかいう賊から奪ったあの武器を、ぜひパワー型ゴーレムに装備してもらいたい。威力を試してみたい、というのが本音だ。


 それから残り70体は空中戦……一番厄介な方を担当してもらう。

 使わせる武器は、使用するとスキルがなくても魔法が放てる銃や杖といった魔法武器。弓矢なども考えたが、それは技量の差というよりも攻撃範囲の狭さが目立ち、空中の魔物に当てること自体が極めて困難であろう。ゴーレムといえど、機械でも人工知能でもないし。心ある土の精霊とでも呼んでおこう。

 比べて魔法武器から放出される魔法はほとんどが広範囲に及ぶ爆発系のものなので、範囲に関する心配もないし、第一魔力次第で威力に違いが出るのであり、大量生産を経て生まれたゴーレムたちの魔力は100とギリギリ及第点だけれども、実際のところ100もあれば空に浮遊する魔物を撃ち落とすことは可能なはず。


 その相手が、上位クラスじゃない限り。


「ゴーレムたち、まずは二つのグループに分かれてもらう。31、70それぞれに分かれろ。あとお前は、無論31の方のグループだ」


 指をさして言っただけなのに、パワー型ゴーレムはまるで緊張しているかのようにぎこちなく頷いた。


 グループごとに別れたあと、先程作った武器を地上戦グループのゴーレムたちに多岐にわたって装備させ、「ここは地上戦のためのグループだ。外敵に対してどんな戦い方で何体一で挑むかどうかは、お前らの判断に任せる。なんとしても、俺らを外敵―――夜襲をかけてきた魔物から守ってくれ。」とだけ伝え、次いで空中戦グループへと向かった。


 そして最初は武器作りから始まる。これも同様に、錬金履歴から杖や銃を数多くあるその種類を無視して適当に選択し、作っていく。銃って、なんか杖よりも見た目がかっこよくて、俺がゴーレムだったらすぐ銃を選ぶな。あと、強そうだし。


 でもまあ、杖だっていざとなれば接近戦でも槍みたいに扱えるだろうし、劣化版だとは言い切れない。

 なんだかんだ大量に武器を錬金している訳だが、これらの材料は全て鉄にしている。

 単に鉄の所持量が多かったから、その消費のためだ。多過ぎても使う機会がなければ、ただのゴミである。


 かといって、そう簡単には捨てられないのが難点。

 アイテムを捨てる場合、費用がかかる。数量関係なく、1アイテム捨てるごとに10ロストが奪われる仕組みになっているが、なぜかは分からんが大抵女神のせいだ。去年の夏に突如導入された設定で、やりこみ勢からすればいらないアイテムを捨てていく従来の方法が通用しなくなったことに怒りを感じていることだろう。それには、俺も含まれている。


 こんな急すぎる設定はきっとそう、女神が何らかの思惑があって金の捲し上げを行っているのだ。


 〖いいじゃないですか、そのくらい。アイテムを捨てるからロストがかかるのであって、捨てなければいいのです。道具屋とかで売ればいいだけのことですよ。ポイ捨て禁止、ダメ絶対! 〗


「……で、真意は? 」


 〖捨てられたアイテムを回収するのは私の役目なんで、面倒くさくてたまらないのですよぉ。アイテムを捨てる時にロストがかかる、なんて設定なら捨てる人は減っていくと思っていました……がっ、なんなんですか! 『アイテム廃棄に伴うロストの納付につきまして』とかいう題名で『一ヶ月につき各自に1000ロストを配布』という還元措置を運営どもが勝手にしてくれたせいで、1アイテムにつき10ロストかかるというのに、捨てられるアイテムの量が一向に減らないんですよ!? 〗


「そうですか、では運営側に一言どうぞ」


 〖去ね、滅べ、砕け散れ〗


 おお、怖い。


 深入りしすぎると返って面倒事に巻き込まれそうなので、ここらで話を戻すとしよう。

 武器の準備はある程度整った。杖や銃も空中戦グループのゴーレムたち全員に行き渡っているようだし、地上戦のゴーレムたちも一区切りついている。ゴーレムたちに防具も装備させることも考えたが、耐久はまあまあある方だから問題ない。


 ゴーレムの戦い方は基本的に拳で殴り散らしていくものだが、俺が生成したゴーレムたちは違う。地上では剣や斧や槍を操り、なおかつ杖や銃の使用で空中戦にも対応した、大量の番人たち。

 こんなにいてくれると、少しは安心感が出てくる。


「お前たち、今をもってようやくそれぞれのグループで準備が整った。これから頼むぞ! 」


 ゴーレムらは揃って無言で頷くと、各々が一斉に別行動を始めた。何を始めたのか、すごく気になって仕方がない。


 まず俺の目が先に行ったのは、広場の縁へとスタスタと歩いていく30体程のゴーレムたちだ。


「何をする気なんだ、あいつら」


 〖ヒビキ様。ゴーレムの習性をご存知ないのですか? 〗


「習、性? 知らねえぞ」


 〖ゴーレムには『従うべき主の生活環境を整える』という習性があります。つまり主はヒビキ様と、取り巻くノーグリード様、デュラハン、加えてお仕舞いになられているナックル=ラビットの四者とされ、今はヒビキ様方のいう寝床を作っているのでしょう。なんて忠実な者たちでしょうね。と、言ってるそばから動きがありますね〗


 ゴーレムに習性があったことへ驚きながら、そのゴーレムたちの動きを観察する。


「あれは……倒木だよな」


 〖さしづめ、ヒビキ様方のために家を建てる気なのでしょう〗


「マジか」


 それはありがたいと言うか、なんというか……。


 その後、倒木を回収するのに30体、集められた倒木で建築を行うのに残りの70体が動員され、彼らはとても立派なものを建てた。


 立派な、()()()を。それも、たった5分程度で。


 作業の早さもそうだが、建てられたものがデカすぎることに、今度こそ目を点にした。


 材料となった倒木についてはもともとバリケードとしての扱いだったため、そこら辺は考慮してくれたらしく、バリケードの形を崩すことなく、不必要な部分のみを除去し、除去した分を建築に回している。


 有能すぎて、寧ろ怖いくらいだ。


「なんかゴーレムが出てきやがったと思ったら、こんなものを……一瞬にして造りやがって。あいつら、本当にゴーレムなのかぁ? 」


「ご、ゴーレムだ」


「あやつら、とんでもなく巧みな腕……あれが、噂に聞く『ごーれむ』、というやつか? それにしては逸脱した腕前だな」


「何がなんでも、あいつらはゴーレムだ。ゴーレムなんだ」


 感心するノーグリードとデュラハンに説得するつもりが、なぜか自分を言い聞かせ始めてしまった。なにせ俺から見ても、あいつらが戦うためだけのゴーレムじゃなく、人類を超越した存在に見えてしまうのだから。


 焚き火の前で、俺らは立ちすくんでいる。

 パチパチパチ。

 ゴーレムたちの足音に比べれば、焚き火の音がとても小さく感じた。




 ◇◇◇




 大小屋の中に入る前に、先に晩飯にすることにした。


 とその前に、焚き火はより大きなものになり、焚き火を囲うように四つの丸く研がれた座り心地のいい岩が設置されている。これもゴーレムたちがしてくれたことで、女神を除いて白兎を含んだ俺ら四者用だろう。

 頭が上がらない気分でいっぱいだ。


「そろそろ出てきていいぞ、白兎……」


 MPを30消耗し、白兎を召喚する。「キュキュ! 」という鳴き声が、まあ可愛いこと。


「じゃあ、そろそろ晩飯の時間にしよう」


 といっても、どうしたものか。


 ノーグリードが風刃で仕留めたともいえる魔物たちを焼いて喰らおうにも、そのままじゃもちろんのこと食い物にはならない。解体しなければならないのだ。でも俺には解体スキルがない。ここは仕方なく、アイテム欄から解体済みの魔物の肉を取り出して直焼きで凌ごう―――そう思っていたが。


「あいつら美味そう。よし、解体だ」


 そう言って、ノーグリードはどこからともなく包丁を取り出し、魔物たちの死体に飛び込んでいった。


「ケルシーの足から出汁をとって、モルモンドの肉は少し固いから別にニューミルクにつけておくとしよう。ゲルガンの肉は柔くて上手いからミックスして。なら、モネンシーを刻んで加えるのもありだな」


 包丁片手に魔物の解体を始めた。

 そして、自分の世界に入っていったようだ……。


「おおっ、ユーモネラスじゃねえか! しかもこんなにって、マジかよ! なあ、キュウビ! 」


「あ、ああ。そうだな」


 熱狂的になってるノーグリードに絡まれ、面倒だと思う一方で、スキル欲しさにユーモネラスにトドメを刺したことへのいわれのない罪悪感を感じていた。


 積み重なる罪悪感はさておき。俺はノーグリードのもつあのスキルへの驚きをてっきり忘れていた。


 ノーグリードはスキルに「家事Lv80」を持っていたのだ。料理とかそういうのも含んでいるみたいだし、だから魔物の解体に関しても長けているんだな。それはそれで色々と助かる。


 余談、ミーシャのステータスもこそっと確認してたが、彼女は「家事LvMAX」だった。

 兄妹揃って家事好きかよ、と今更ながら苦笑する。


「ヒビキ、あやつ何をしておるのだ? 」


「魔物の解体だな」


「ほう、それは大したものだ。あやつにそのような事ができるのか。対して我は……」


「我がどうしたって? 」


「なっ、何用もない! 貴様は口を閉じておれっ」


 デュラハンはやはり悔しそうにしている。ノーグリードの有能性を認めてからの妬み、そんな所か。


「しまった、水がねぇ」


 言われてみれば、たしかに。

 水問題は結構命にかかわってくる。でも水なんて、水魔法を会得してたり、近くに川とかがない限りはありはしない。


「料理考えてる場合じゃねぇ……って、何?な、何それ。それを、俺に? え、いいのか? ありがとな……」


 一体のゴーレムが透明な液体が満杯になった木製の大きな樽を抱えてノーグリードに近付き、その目の前に樽を置いて、今も警戒態勢に入っている仲間たちの元へと戻っていく。


「これ、水だな」


 〖ヒビキ様。ノーグリード様の仰る通り、それは水です。ゴーレムってこんなにも忠実な生き物でしたかね 〗


 女神のアンタが驚いでどうするよ。

 一体どこで手に入れてきたのやら。俺らがここらの地形を知らないだけで、実は川や湖なんかがあるのかもしれない。何にせよ水が手に入ったんだ、これでそこそこは衣食住に困らないはず。


「水があればもう俺の料理ができたみてえなもんだな。さあ、やるか」


 気合のこもった台詞とともにノーグリードが取り出したのは、木製のフライパン。この世界では「フロウペン」、と文字られて定着している。それと、木製の鍋「フロウポット」やおたま「フロウラドル」、1リットル近くの水が入る「計量器」、それから材料もろもろも取り出す。


 用意してからすぐに、奴は調理を開始した。


 岩に置いたフロウポットに今しがた奴の独り言で聞こえたニューミルクを注ぎ、そこにモルモンドの肉をまんべんなく入れて寝かせておき、その間に計量器で樽から水を汲んでフロウペンに注ぎこんで焚き火にフロウペンを置く。

 その後ケルシーの足を入れたところまでは把握できたが、ノーグリードの手際の良さのせいで、調理過程が目に入ってこないほど素早くて、一人暮らしで自炊の経験のある俺でも何をやっているのか分からなくなった。


 途中途中に、ふふふーんという鼻歌が聞こえる。

 ノーグリードがあんなに楽しそうにしている姿を見たことがなく、俺は呆気にとられた。


 自然の空気が立ち込めていたこの広場に、ほのかに甘くいい匂いが徐々に広がっていくのが分かる。


「すげーな、あいつ」


「あやつにしては上出来だ」


「キュー」


 意地を張ってる奴もいるが、三人揃ってとろけた顔からどうしても崩せないでいる。その甘い匂いが、より食欲をそそる。

 その状態が続いたまま、日が落ちる前にノーグリードの料理が完成した。


「できたぞーって、お前らそんな顔してどうした。まあいいか」


 皿やコップなどに関しても全てノーグリードから支給された。白兎のだけは、小皿というように配慮もされている。

 フロウペン、フロウポットからおたまで出来上がりの料理をすくい、ちゃんと4人分を用意してくれた。


「俺への苛立ちとか色々あるだろうが、料理は別だ。美味いか不味いか、正直に感想を言えよな」


 真剣な眼差しでノーグリードはデュラハンに訴える。

 デュラハンはフンと鼻を鳴らすも、目だけは眼前に出された料理に行っている。

 素直じゃないな、こいつは。


「いただきます」


 俺は両手を合わせて丁寧に挨拶をし、木製のスプーンでまずはシチューのようなものを一杯にすくい、口の中に入れて頬張る。そこに噛みを入れた途端、甘い香りが口全体に広がり、唾液が溢れてくる。


「これ、美味いな! 」


 独特な味だ。見た目通りシチューだが、コクが深くて甘さ加減も丁度いい。ミルクの濃厚さが甘さをより強調してくる。人参と同類の「キャール」や刻まれた、玉ねぎのような「モネンシー」、じゃがいも代わりの「モルストーン」それぞれの旨みもまた、美味しさにしっかりと繋がっている。


「白いの美味すぎるではないか……お次はこれだな」


 デュラハンは次にブロックサイズの肉がごろごろ入っているスープ仕立ての料理を食し始める。


「っ!? 」


 一瞬表情を強ばらせたが、直後とろけた顔に成り下がった。

 俺も、そちらの料理を食べてみる。


「これは体が温むな。しかも、かなり美味い」


「キューー! 」


 白兎にも好評なようだ。

 俺らの反応を見るや、ノーグリードは安心した顔つきで「そうか」とだけ口にした。

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