第34話 ヒビキと理不尽な設定
こんな低レベルな罠に引っ掛かり、あまつさえ苦悩するとは、こいつらのたかが知れる。
なんていったって、この罠はC+級だそ、C+級。
俺が作ってきた中で、下から三番目に入るくらいの、改良余地のある罠。
いっそ、A級の罠を仕掛けてやればよかったか。
「どういう了見だ、って、お前マジ悪い顔……してんな」
ノーグリードは罠の上で痺れに堪えつつ、そう呑気なことを言っているが、顔は笑ってない。いかにも、「さっき言っただろ」とか「やり返す」といった、そんな復讐心に駆られた表情である。
お前らがしょうもない事で喧嘩を始めようとするから悪いんだぞ。俺は止めに入っただけだ。
「貴様ぁ、ノーグリードの後に絶対殺してやる! ううっ……」
「ブルルッ」
デュラハンと黒い馬もまた痺れに耐えているわけなのだが……デュラハンのやつ、喘いでるな。気のせいか?
いや、間違いない。
こいつ、麻痺系が苦手みたいだ。耐性の問題だけど、なるほど、不死族の王―――デュラハンは麻痺系が苦手なのかー。
いざとなれば使えるな、これ。
後で俺は殺されるみたいだし。その時に脅しとしても使えそうだ。
その後、痺れ罠の効果は1、2分ほど続いた。
引っ掛かったノーグリードとデュラハンの二人は、とにかく疲れており、一方のデュラハンは、召喚したばかりの黒い馬を元に戻し、それからへなへなと地面に座り込んで、涙目でこちらを睨みつけてきた。
それでも上目遣いで、恐怖と裏腹、デュラハンに少しは美という名の魅力を感じた。魔物に美を抱くなんて、俺も腑抜けたものだな。
「優先的に貴様を、絶対、殺す……」
やっぱり、恐怖の方が何よりも勝った。
先に手を打っておこうと、俺は「罠作成」で『痺れ罠(C+級)』を再び作り、ほれほれ、とデュラハンの前でちらつかせて牽制する。
思った通り、恐れ戦き遂にはシュンとなってしまった。我を張った状態じゃなく、大人しい方が俺は好みだ。
「おい」
独り和んでいる俺の肩が、後ろからグッと掴まれる。
地味に痛い。
声からして、誰なのかは明白。しかし、振り返る勇気がない。
「服、作ってやるから……」
「ならよし」
え、それでいいのか!?
怒りに満ちたノーグリードを物でなんとか釣れたようでよかった。さもなくば、痛い目を見ていたところだ。
まあ、こいつの服はたしかに薄汚れた絹の服一式だし、いつか俺の「錬金術」でなんとかしてやろうとは思っていた。
「服装に関して要望はあるか。なければ適当に繕うが」
「そうだな……新しく作るんじゃなくて、この服を綺麗にしてくれるか」
「綺麗にか。やってみる」
言っちゃ悪いが、俺のスキル「錬金術Lv90」は、大抵のものを作成することが出来る、いわゆるチート的なものだ。衣服を綺麗にこしらえることなんぞ、簡単簡単。
「とりあえず、お前の服、貸してくれ」
「構わん」
ノーグリードは立派に返答し、さながら堂々と絹の服一式を脱いでいき、ふんどしのみの身体となった。
まず、ふんどしがこの世界に存在していたとはな。そういう驚きもあるが、パンツでなかったという驚きもある。
とまあ、変な話はさておき。
この服は薄汚れを洗浄するだけで綺麗になりそうだ。特に破れているわけでもないし。
それで、洗浄といえば―――あれか。
アイテム欄より、『クリーン=マッドローの粘液(B級)』と、今しがたノーグリードから受け取った『薄汚れた絹の服(G+級)』を選択し、「錬金術」を行使する。
すると、服一式は見る間もなく新品のように綺麗になり、アイテム名もまた『絹の服』となった。若干の効果の補正も入ったらしく、G+級からF級へとランクアップしている。
洗っただけでこれか。凄いな。
「ありがとな。それで十分だ」
「そうか。でもなぜ新しいのを頼まねぇんだ? 」
「この服は昔、ミーシャが編んで作ったものだ。自慢の妹との絆みてぇなもんだからな」
遠い目で語ってこられては言葉の返しようがない……。
「は、はははははだ、裸っ、き、貴様! 我になんてものを見せてくれたんだ! 恥を知れ、この馬鹿者っ! 」
座り込んでいるデュラハンは、恥ずかしさ故に、ここぞとばかりにそこら中に落ちている『ただの小石(G級)』をノーグリードに向けて投げ始めた。
「痛ぇ! 何すんだこの馬鹿女! 」
「ば、馬鹿女だと!? やはり貴様から葬ってやろうか! 」
「デュラハン、こっち見てみろ」
「貴様は黙ってい……ろ……」
デュラハンはすぐに黙り込んだ。
痺れ罠を手に持って読んだだけでこうもあっさりと丸め込めるとは。
「ノーグリード、お前もだ。挑発すんなよ」
「してねぇよ。あいつが先に石を投げつけてきたんだろうが」
子どもの喧嘩じゃねえんだか、いい加減にしろ。つまりはそういう事だ。
「いいから早く服着ろ。しょうもねぇことで一々喧嘩してんじゃねぇよ。お前、いい歳してんだろ」
「いい歳してんだろって……。俺、お前より歳上なんだが」
「関係ねえ。俺は俺、お前はお前だ。あの時となんも変わんねぇ」
「こうなったらキュウビは執拗いんだよな―――」
「何か言ったか」
「いや、何も」
聞こえてはいたが、厄介事は避ける。
ともあれ、ノーグリードには正論、デュラハンには脅しで上手く丸め込んだわけだが。さて、これからどうしようか。
脱獄は成功したと言っていい。しかし、メンツがメンツなだけに融通が利かなさそうではある。
正直今は、どこかで一晩休みたい。
ここから街に行こうにも、精神的に疲れたし。
それに、ヨルム村から脱獄があっただなんて情報がグレナの街に伝わっていたりしたら、さらに面倒だ。
そしたら残りは野宿もしくは近くの宿屋を探すしかない……これは想定外だったな。
野宿は最悪の場合として、宿屋に泊まるのであれば最低100ロストは必要だな。
前と同じ状態で転生したから、所持金は100万ロストは越えてたはず。転生した今現在、十二分に生活していける金額だ。
一応確認して、正確な値を知っておこう。
ステータス一覧の中から【所持金】のアイコンを選択すると、ブオンというあの変な音を立てて、俺の【所持金】が明示された。
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【所持金】
0ロスト
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デュラハンを少しは可愛く……いや、できませんでした。
難しいですね!
あと、ヒビキ、ドンマイ!
お読み頂きありがとうございました^^*




