第33話 トラップマスターの脱獄⑤
「キュウビ、お前……」
「どうした」
「そいつ、魔物、なのか? 」
「元モンスターだ。今は従魔にしている」
ノーグリードの前でいきなり従魔を召喚したのは、まずかったか。
従魔召喚なんて、ゲーム上大したことではないと思うが。
「無念ながら、我はこやつの従魔だ。して、貴様は……ノーグリード、と言ったか? 」
「やっぱり喋るんだな、このモンスターは!? 」
デュラハンは通常人間語を喋るモンスターじゃないはず。
しかし、こいつは例外。人間の言葉、魔物の言葉をどちらも会得している。
驚くのも無理はない。
「我はデュラハン、不死族を統べる王である! 故にノーグリード、貴様、我の友になるが良い」
「不死族、だと? 」
ノーグリードはデュラハンの名乗りを聞き、しばし固まった。
そして徐に大剣を構え、再度戦闘態勢に入る。
「貴様、何のつもりだ」
剣先を向けられたデュラハンの表情が、一瞬にして強ばる。
「昔な、俺の目の前でお袋が斬殺された。不死族の、《スケルトン》にな」
「ほう、それがなんだというのだ。それはそれは残念であった、としか言いようがないのう」
「ああ、残念だ。だからこそお袋を殺した不死族は、何があろうと俺の最大の敵だ。不死族の王、でもな。第一、誘いは死んでもごめんだ」
「ふふっ、そういうことであったか。なら、死んだら、友になるのう。我の力で生きる屍としてやらんこともない」
ケラケラと、デュラハンはせせら笑う。
挑発すんなよ、このあほんだら!
それと、生きる屍にするって、お前にそんな力あったか?
闘争になりつつある場面で、俺はとことん疑念を重ねてみせる。
「八つ当たり上等だ。積年の恨みを果たさせてもらうぞ!! 」
挑発に乗る、というより互いが宿敵同士であるかのように、二人は身構える。
ノーグリードは『バルガノム』を両手に、神経を研ぎ澄ましている。
一方でデュラハンは、白銀の矛を片手に何やら詠唱を始めた。その直後、デュラハンの下方に大きな紫色の魔法陣が浮かび上がり、そこから先程と変わらぬ外見の黒い馬が現れていき、デュラハンを跨がせた状態で完全に姿を現した。
「ブルルッブルルルル」
馬の言葉が分かる訳ではないが、「よし、やるぞ」といった心構えの表れのように思える鳴き声だ。
実に、厄介なことになってしまった。
双方、恐らく聞く耳がない。
言い聞かせられないのなら、実力行使だ。
そう考え、俺は「罠作成MAX」スキルで至急とある罠を作ることにした。
なにせ、荒くれ者のこいつらがこのまま収まるはずはないのだから。
「貴様は我の敵だ。葬る! 」
「死して償え、不死族! 」
案外早く始まった。
でも、俺を―――トラップマスターをなめるなよ。
作り終えた罠を「罠設置MAX」スキルを使って、離れた距離から二人の間に仕掛ける。レベルMAXになると遠距離からすぐに設置できるようになったため、この上ない便利の良さである。それで、仕掛けたのはまあまあでかい罠だから、大抵引っ掛かる。
「うグッ!? 」
「し、痺れて、動けねぇ……っ」
そうです。
お手軽にできる、『痺れ罠』です。
ただし、そこら一般の『痺れ罠(C級)』と一緒にしないで欲しい。
これは、『ビングの牙(E級)』を加えて作った、『痺れ罠(C+級)』だ。効果的にはB級に近い。
ただの『痺れ罠(C級)』だと威力も弱く、効果切れは早い。
しかしこの『痺れ罠(C級+)』は、錬金することによって効果を一時倍増する『ビングの牙』により、威力は格段に跳ね上がり、効果時間も延びている。
「罠作成」スキルは、「錬金術」とよく似ており、錬金が可能なアイテムは、アイテム同士で罠以外の他アイテムを作り出す「錬金術」のみならず、アイテム同士を組み合わせて罠のみを作り出す「罠作成」でも同様に組み合わせが可能という判定が出ている。
とても曖昧な設定。でも、今回みたいに大いに助かってる。
「揃いも揃って脳筋バカかよお前ら。」




