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トラップマスターのゲーム記録〜バグ処理のために転生します〜  作者: 鳶崎斗磨
第二章 最弱職の最強者
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第30話 トラップマスターの脱獄②

「おい、キュウビ……それ、毒とかじゃねえよな?」


「毒じゃない。眠ってもらっただけだ、危害は加えてない」


「そうか。ならいい」


 監守の二人は一応この村の住民だ。

 村の者に下手に危うい手を出すようなことはしない。


「これで脱獄しやすくはなったが、どうする?」


「そうだな……手始めに、鉄格子をぶち破るか」


 ノーグリードはのそっと起き上がり、ちょこんと置かれた囚人ベッドの下に手を突っ込み、何かを手探り探した。


「何を探してるんだ」


「ちょっと待ってろ、見ればすぐ分かる。―――あった、これだ」


 こいつが徐に取り出して見せてきたのは、深紅の大剣――『バルガノム』。本人の愛用武器。


 錆は少しも見受けられず、逆によく研がれた状態である。


「監守の目を盗んで大事に研いできたからなー。俺の腕は落ちてるだろうが、なっ」


 大剣をぶんぶんと上下に振っていた矢先、即時に剣を構え、鉄格子に向かって乱れ斬った。


 鉄格子のほとんどは小片となって崩れ落ち、人二人が余裕に抜け出せる程の穴ができた。


 相変わらず凄い剣技だ。鈍ってすらいない。


「なあキュウビ。ホントに俺らは誰にも見えていないのか? 」


「例外はある。俺のスキル、レベル64の『隠蔽』を超えるものを持ってる奴には見える」


「じゃあ問題ねえ。お前を越す奴はまずいねーな」


 ノーグリードは苦笑いで皮肉にも褒めてくる。

 我ながらこのスキルレベルは相当高いものだとも評価してもいるが。


  そろそろ、本当に脱獄を始めようか。

「隠蔽」はあくまでも一定時間のみの効力。切れればかけ直すだけだが、再度かけ直す際は姿を現してしまう。


 大衆の目に晒されるのは流石に不味い。


 出来るならば大きな物陰に一度隠れたり、あわよくばこの村から出られたらなおのこと良い。


 急がないとな。



「さっさと外に出よう」


「そうだな」



 そうして俺らは小走りで出入口まで急ぐ。


 途中、「見えねーが、俺も出せー」とか「誰かは分からんが、捕まりやがれ」など、様々な声が聞こえたが、それも無視して。






 ◇◇◇






 数分も経たず、出入口についた。


 脱獄はここからが勝負どころだ。


 いかに迅速に抜け出せるか……。



「ゆっくり開けるぞ」


「俺の剣で、簡単に破れる」


「破るな。目立つだろうが」



 できるだけ穏便に済ませたいと思っているのに、邪魔だな、こいつは。親交がなければ今頃はっ倒してた。



 お荷物は、単純に、いらない。



「ったく……いくぞ」



 まあまあの高さを持つ木の扉に両手を当て、一人ずつ抜け出せる程度の隙間を作ろうと、ゆっくりと押していく―――。




 《バキッッドォォォォォォンッッ!!!》




 突如、不思議な音と光景が、俺の視界の中に……。



 木の扉は、爆弾でも投げられたかのように、ど真ん中に大きな風穴を残し、正面に倒れている。


 あとその視界には、多くの()が、こちらを凝視している姿も。


「言った本人が、だらしねー」


「じ、事故だ。扉が朽ちてたんだ、きっと」


「素直に認めろよ」


 睨みながらそう言われると困る。

 どうやらお荷物は俺だったみたい。


「で、早く逃げるんだろ? ここから」


「あ、ああ」



 俺は我に戻って二言返事をし、いまだ驚きを隠せないでいる村人達の間をスルスルと抜けていき、門まで急ぐ。


 されど門は締まりきったままだ。ここでまた馬鹿力を発揮するわけにはいかない。色々と、面倒なのだ。



 ならば、どうするか。



 荒事で抜け出すのもダメ、正々堂々と門を(くぐ)ることもダメ。



 じゃあ、飛び越えればいい。



 隠蔽スキルの持続時間を気にしながら、俺はアイテム欄から『スライム片(F級)』と『ラ=スパイダーの糸(F級)』を使って錬金する。


 これにより出来上がるのは、地球上でいう「トランポリン」。


 スライム片はとても弾力のあるアイテム。しかし、錬金されることはあまりない。錬金用としても消耗品としても、全く使いどころがないアイテムとも言える。


 だが、こういうところで役に立ってくれる。一概に不要と言いきれない。


 見た目は、一人用のトランポリン、てところだ。これを2セット、門前で設置する。「隠蔽」を使用中はアイテムなど、譲渡しない限りはバレることはまずない。


 まあ簡単な話、浮遊石を作れば解決する話だが、あいにく『ただの小石(G級)』不足で錬金不可能……仕方なかろう。


 ただし、このトランポリンは着地時のことは一切考慮されていない。そこは自己負担らしい。


 ちゃっかりS級アイテムのくせに、あの時のS級大砲よりも性能が劣っているらしい。せめて可能性くらい明示してもらわないと。


 俺の「錬金術」スキルレベルはそこそこ高いと思っているが、慢心なのだろうか。

 不完全な物を作ってしまう時点でたかが知れてる気も、しなくもない。



 ______________________________

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『バウンダー(S級)』《「効果」:使用後、対象を宙に浮かせ、最大50メートル先まで飛ばす。使用可能回数3「発動条件」:網目中央のスライム片を踏む》



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 というのが、出来上がったものの詳細だ。


 正直に言って、50メートルも先に飛ばされなくていい。寧ろ、飛ばされたらそれこそ生きれる気がしない。このアイテムは失敗作のお仲間入り、か。


 でも、一々呑気なことを言ってられない。



「おい、その変なのの水色の部分にジャンプしろ」


「あ、これにか? そうすりゃ助かるんだな、分かった」



 怪しげなものを作ったというのに、ノーグリードは何も疑わずに即答し、我先にと、バウンダーのスライム片に向かって両足でジャンプした。


 先に実験台となってくれたことに感謝しているだなんて、何があっても言えない。



「うおぉぉぉっ―――」



 あいつは、怒涛の勢いで門の上を楽々と通過し、叫び声と共に姿を消した。


 門の方から急に聞こえる叫び声に反応した村人達は、


「な、なんだ!? 」


「まさか、魔物なの!? 」


「扉壊したのも魔物じゃねぇのか!? 」


 と、次々に不安を募らせている。


 隠蔽スキルの効果もそろそろ切れそうで、俺も早く逃げないといけないが、あいつの飛ばされようを見て、この失敗作を使う気にはなれない。


 何かないか……。


 考えろ、俺。


 今こそが、屈指のアイデアマンの底力を見せる時だろ。




「あ、そういやあれがあったな」



 閃でなく、単なる記憶の呼び起こし。



 アイテム欄より、『火薬(F級)』と『スライムの核(G級)』と『ハイ=リザードマンの表皮(A級)』を取り出し、「錬金術」を行使する。


 そうして出来上がったのは、あの時と変わりない、一度使えば消えてなくなる大きな大砲。


『高性能移動専用大砲(S級)』だ。


 移動先を【ノーグリード】に設定し、ゆっくりと大砲の中に入る。


 それから、空気抵抗や衝撃から身を守るためのスライム性の膜に体全体が包まれ、いつ発射されてもおかしくない状態になった。


 ノーグリードへの罪悪感は、相当大きい。


 だが、それと同じ位に感謝もしてる。


 悟りでもひらいた者の様に、安らかな笑みを浮かべ、俺は急遽、宙へと投げ飛ばされた。


 今度の村人達の反応は、爆音に向けられ、より混乱を招いた。


 村に行くのはしばらくやめておこう。迷惑をかけすぎたし、かけられすぎた。


 この件は、若干のトラウマになった。

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