第23話 救助活動
名前にも入っている通り、このS級アイテムはたしかに高性能だった。
着地したときは轟音がひどく、隕石みたいになった感じだったが、傷一つ受けてない。
人的被害は……ない、はず。
着地点はグレナの街の周りを囲むようにして出来た「グロムの森」。雑魚魔物がちらほらと現れるステージだ。直で指定場所に送られるわけではないんだな。
こんな隕石みたいなのがいきなり街に降ってくるのもどうかとは思うが。
『高性能移動専用大砲(S級)』。聞き慣れはしないが、素晴らしい効果を発揮してくれたアイテム。
お陰様で、マップを確認してみると青ピンと赤ピンとが隣り合っている。
我ながら恐ろしいものを作ってしまったようだ。簡単に作れるし、それなりに安全とみた。今後の俺の移動手段にしよう。
ただし、体にまとわりついたスライム性の衝撃吸収膜が、いまだ取れない。気持ち悪い。
【その膜は一定時間取れませんよ】
「マジか」
この状態が一定時間続くのか。それくらいの代償なら仕方がない。
【ヒビキ様、突然ながら申し訳ありません。ちょっと席を外しますね……このまま真っ直ぐ歩いていけば然るべき場所に着きますから、ご心配なさらず】
「おう。心配すらしてないがな」
世界のどこかで新たなバグが見つかったとか、そういう事態なのだろう。ああ見えてもちゃんと女神やってんだな。
「ん? なんか反応があるな」
バジリスクから奪ったスキル「危機感知Lv3」が自動的に発動したことで、少しばかり歩いたところに四つの反応がある。人、もしくは魔物である。
〖貴様も気付いたか。前方に人間の雄が三匹、雌が一匹おる。雌の方はだいぶ弱っておるな〗
そこまで分かるのか。たしかデュラハンのやつ、「危機感知Lv10」を持っていやがったな。羨ましいが、まあ待て待て。
状況把握はできたつもりだ。
世に言う「不良」が女性を襲っている、と。
――――――違う。それでは語弊がある。
男達は間違いなく冒険者で、女性の方はNPCであるはず。
このゲームは変にリアルにできており、ただのNPC一体一体にも歩んできた人生、そして何よりも、心のようなものがある。どうやったらそんな風になるのかは未明、しかし人間さながらの存在だとはいえる。
「ゲームだから」。そう簡単に言って、NPCを脅したり怪我させたり誘拐したりなど……現実話じゃ到底通用しないことができるものなのだ。しかも、事例は少なくない。
バグ処理もいいが、ゲームだという認識の元で派手に乱れた雰囲気を正していくのもまた大事だろう。
よし、と小声を刻んで気合を入れ、若干歩くスピードを早める。
その間、格上の俺に挑む魔物たちはいない。
弱者狩りらしい。弱い敵を襲い、強敵からは逃げる―――ここらの魔物は卑怯な奴ばかりだな。
ひょんな事に思いをはせているうちに、体中にへばりついていたスライム性の膜もいつの間にかとれていた。執拗いが、大したことのない代償だ。別に案ずることはない。
「あ、見えた」
別のことに気を引かれているうちに、ある小道に出たが、俺は目の前で起きていることに少し驚いた。
白いドレスの似合った若い女性が、男一人に髪を掴まれ次いで二人の男によって両腕を拘束された光景が、繰り広げられている。
予想は大体当たったようだ。
「あぁ? 誰だてめぇは」
不良のお決まりの台詞が聞こえる。
返事は一切しない。するつもりもない。
人に名前を聞くときはまず自分から名乗るのが当たり前だろ。
第一、初対面の不良に教える義理はねぇ。
「たす……け、て」
そんな彼女の声が聞こえた時には既に俺の体は動いていた。
今から罠を仕掛けるのは無理だからと、問答無用で「防護術」を行使した。
手始めに、片腕を縛っている盗賊らしき男の肩を強く掴み、そのまま腹に俺の拳をめり込ませる。
ぐえっ、という断末魔に近き声を上げ、その男は面白おかしく横に倒れた。
残りは二人だな。
「『ライディルト』!」
紫のローブを纏い、フードを深く被った魔法使いらしき男が、何らかの魔法を唱える。
名前だけでは分からないが、俺にかざした手からビリビリと電気が漏れていることから、光系統の魔法だと推測できた。
だが、避ける必要はない。
その男の手には、電気が集束してできた一つの丸い球体が。
「食らえ! 」
奴の言葉とともに、魔法弾ともよぶべき光の玉が剛速球でやってくる。
が、
俺の首元に当たったその魔法は、一瞬にして砕け散った。
まるで、見えない壁が体に張られていたかのように。
話は簡単で、奴の魔法が俺のスキル「光魔法耐性Lv80」に負けただけ。
「なっ!? 」
奴は自身の魔法がかき消されたことに焦り、何度も同じ魔法を撃ってくる。
……これ以上は、執拗い。
すぐさま地を蹴り奴の懐に潜り込んで先程と同じ様に「防護術」を使用する。
再度腹に拳をめり込ませようとしたとき、やけに太った男がサイズの大きい赤斧を俺に向かって振り下ろして邪魔してきた。
いくら重量級に差があっても、見え見えの動作だから、簡単によけられる。
〖ヒビキ、とやら。避けるでなく、受け止めるのだ! 〗
「冗談言うな。相手のステータスすら把握してねぇんだぞこっちは」
デュラハンが考えなしに頭の中でそう叫ぶ。
回避しただけでこの言われようはないんじゃないか。
ステータスもそうだが、その赤斧がどんなものなのかでさえも知らずして、攻撃を受ける訳にはいかない。
今では死んでも冒険者の街で蘇生するという一連の流れを平然とやってのけられないのだから。
何事にも用心しなければ、命はない。




