第21話 不思議なS級アイテム
【ヒビキ様……もったいないことをなさるのですね】
「何がだ? 」
【バジリスクの肉自体はSランクもので、死体に付着している毒も、バジリスクの死によりその数分後に無毒化されますので、安心して食すことができるのですよ。十中八九、ラビット王への牽制のためでしょうが、他に手はあったかと】
「え、ええー……」
一旦兵たちとのやり取りを白紙にしたいが、兵たちの目の輝き、そして二言を言うことへの恥ずかしさから、俺は断念した。
バジリスクめ、復活したら即討伐してくれる!
今度こそ俺の糧に!
〖そこの女、それは真か? あの愚物は美味なのか? 〗
【紛うことなき逸品です】
〖ぬ……おのれ、人間め〗
何か脳内でさり気なく不穏な会話がなされているんだが。
「じゃ、じゃあ行くか。よろしくな、お前ら」
「「キュ、キュ! 」」
俺は話をはぐらかそうとラビット兵たちに別れを告げ、その地より東に体を向けて足を進めた。
【なんだかなぁ】
〖全くだ〗
〖キュ……〗
道中、とてもギスギスしていた。
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「まだ着かねぇのか」
マップを見ながらグレナの街に向かうが、自分の位置を示す青い点が一向に動かない。
「バグか」
【違います。ヒビキ様の足が遅いだけです】
徒歩だから仕方がないよな。
そもそもゲームとして遊んでいた時は、目標地点をクリックするだけでワープしていたんだが。
マップに表示された『グレナの街』をタッチしても、赤いピンが置かれるだけ。なんの真似だ、これは。
アバターの苦労を思い知れ、ということか?
「こうなったら、何かいいもの作ってやる」
ヤケクソでもいい。とりあえず早くたどり着けさえすればいいのだ。
さて、何を作ろうか。
「『錬金術』」
始めに、『ただの小石(G級)』と『レッドピクシーの羽(C級)』を掛け合わせて、今さっきも使って効果が切れた『浮遊石(B級)』を新たに錬金する。
ポケットに入れて、『使用する』のボタンを押す。
ふわりと身体が宙に浮き、俺は慣れたように目標地点へと急ぐ。
少々の間だったが、その効果はすぐに分かった。
マップの青点は、全く動かない。
「他、いくか」
別に手段は山ほどある。俺は立派なアイデアマンだから。
次は『火薬(F級)』と『スライムの核(G級)』、あと通称「鎧の悪魔」として恐れられている『ハイ=リザードマン』の死体を剥ぎ取って獲得できる『ハイ=リザードマンの表皮(A級)』の三つを掛け合わせる。
いっぺんに三つを掛け合わせるのは……初めての試みだ。
できあがったのは、『高性能移動専用大砲(S級)』。
見た目は、間違いなく大砲。
それに、なんともまあ聞こえの悪いアイテムだな。
作った本人が知らないというのも気恥しい限りだが、その詳細を確認してみる。何となく想像はつくが。
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『高性能移動専用大砲(S級)』《「効果」:使用後、対象物を特定の地点へと飛ばす。使用する際、大砲内の対象物はスライム性の衝撃吸収膜に包まれ、使用後、安全に着地させられる……はず。使用可能回数1「発動条件」:大砲内に対象物を投入し、行き先を指定》
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はじめからこれを作っていれば良かったな。こんな、いかにもな感じの名前がついた、見た目もまさに異ならぬもの―――大砲を。
でも「安全に着地させられる……はず」って、曖昧じゃねぇか。
これを使えば一発なんだろうけれども、相応の代償がな……。
覚悟を決められず悩んでいると、デュラハンが堰を切ってきた。
〖やれ、人間よ。貴様は臆病者なのだな、よく分かった〗
「ちょっと黙っとけ」
俺はキレ気味に返答する。
やってやろうじゃないか。信じてみようじゃないか、その効果を!
手始めに黙って大砲の中に入ると、視界いっぱいに黄色の膜が張られる。これがスライム性の衝撃吸収膜か。
次いで目標地点を『グレナの街』に設定し、ふうと一息つく。
すると。
俺は静かに、空に飛ばされた。
驚いたことに、空気抵抗もない。
俺はただ仰向けに寝転がっているだけ。
その時の俺は、馬鹿みたいに不安を一掃していた。




