第20話 女神と従魔
更新が遅れてしまいました。
誠に申し訳ございません。
でも下手に関わりたくはない。
いずれ一戦交えるにせよ、最初のうちは肩慣らしが必要だ。
戦い方もままならない状況だし、そこらへんをしっかりと補強して挑みたい。
「『ヘル=スパイダー』を後にすると、残りは蟲の山の魔物たちか」
蟲の山は名前の通り、蟲だらけのステージ。
上位族の蟲王族はおろか、下位から中位にかけて多く散布している蟲族が仰山いる。
蟲嫌いにはもってのほかだ。俺もあからさまな蟲は好きじゃない。特にあれだ、芋虫とか。
【ヒビキ様。私は何も、バグ処理に向けて討伐を急かしてはいませんよ。私は貴方様を転生させる前に言いましたよね? 楽しんでもらうことを前提としている、と】
楽しむつっても、こんな恐怖を見せられては黙るものも黙られない。もどかしい気持ち、というところだ。
【ですから一度、冒険者の街に行かれてみてはどうでしょうか。ゲーム画面でみてきた街と、いい意味で結構な差がありますよ】
「街、か」
冒険者の街は、このゲームでは何かと多く作成してある。プレイヤーの増加のために一局に集中してアクセスされると困る仕様なのだろう。プレイヤーをマップ全面に分散させる目的としては中々なのだが、街が多すぎるのにはつい苦笑してしまう。
ここからだと、どうやらあの街――――「グレナ」が最寄りだな。
たしかあそこにはクセの強い酒場の店主がいたんだよな……ご退去願っているしかない。
「よし、行くか」
「キュ? 」
「何処へゆくのだ? 」
従魔の白兎とデュラハンが驚いたような目をして聞いてくる。答えは、俺に付いてくれば自ずと分かる。
ところで、従魔ってやつはこうも実体化したままなのか?
魔物を引き連れて街に行くのは目立つよな。
「フィーさん。従魔は実体のまま連れて行かなきゃいけないのか? 」
【いえ、従魔の実体化を解除することもできますのでそうとも限りません。その際、掛け声は自由です。主の意思により判定が下されますので。ただ、条件として目視できる範囲内のみとなっております。お気を付け下さいませ】
それはよかった。
なら、解除をする方針で。
「白兎、デュラハン、どっちも戻れ」
そう言うと、白兎とデュラハンは青白い光の粒子となって俺の身体の中へと溶け込んでいった。
〖驚いたぞ! 人間である貴様がこのような芸をなせるとはな! 〗
〖キュキュ〗
実体がなくても話せるんだな。
これまた大変な暮らしになりそうだ。
〖さして、人間よ。兎が共におるのは構わぬが、我の目の前におる赤髪の女……こやつは一体誰なのだ? 〗
赤髪? 従魔にしたのはお前らで初めてだぞ。
【私はこの世界の女神、フィロリエルと申します。今後お世話になりますね、皆さん】
なるほど、フィーさんだったか。
あの淡いピンク色の髪は見方によれば赤だし、おかしくなかったか。
で、従魔たちと面会してどうするつもりなんだ。
女神も暇つぶしか?
【ヘルプオプションでの通話が面倒などという思いもありまして、私が自由に従魔の控え地に行けるように設定を弄りました】
もうそれ、ヘルプボタンの意味ないよな!?
【安心して下さい。邪魔は一切致しませんし、私の召還もできないようにしましたから】
それはずっと見張っている、ということ……おっかない女神だ。
「おっと、忘れてた。バジリスクの死体があったな」
遠くに黒焦げの巨体が転がっている。
さっき『魔剣・赤竜の剣』の効果、『灼熱』により見事に駆逐されたバジリスクである。
アイテム欄に加えるのもいいが、今になって更に思いついたことがある。
「ラビット族の兵たちよ。俺から一つプレゼントしよう――――あれだ」
「「キュ!? 」」
バジリスクの死体だよ。
「俺の慈悲だ。有難く受け取っておけよ」
「「キュキュ! 」」
解体屋を通さなければ大したアイテムを得られない死体なのに、貰えると知って兵たちは揃って喜んでいる。
そんなに喜ぶまでのものじゃないはず。
いずれにせよ、これもまた作戦の内だ。
兵たちがバジリスクをもって帰還してくれれば、俺らがバジリスクを倒せる程の腕を持っているとして、ラビット王から安易にちょっかいをかけてはこれまい。




