第16話 最弱職のメリット
バジリスクのスキルを奪えたわけがはっきりし一段落ついたところで、デュラハンがこちらに寄ってきた。
「して、人間よ。独り言はよいが……我を従魔とやらにせぬのか?」
あ、忘れてた。
というか、従魔にまだなっていないことをなぜお前自身が知っている。
ステータスとか、魔物たちにも簡単に把握できるものなのか?
【気になっておられるかもしれませんので先に説明致しておきます。プレイヤー達がステータスを確認しているように、魔物達もステータスを確認できるのです。ただ、自身のもの以外を確認することはできません。ステータスを把握しつつ過ごす、といった自己調整でしかありませんが】
そういうことか。
それなら話が合う。
バジリスクを倒したら従魔にしてやる約束だったな。
……倒したのは俺だけど。
「『契約』」
そう唱えると、白兎の時のように一枚の紙切れが目の前にポワンと現れた。契約完了の証、だったか?
続いて、チャット枠に『デュラハンを従魔にしました』というメッセージが送られてくる。
とりあえず、その紙切れを手にして記載事項を眺めることにした。
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〘デュラハン ♀ 従魔〙 【種族】:魔物・不死族
Lv :52
HP :5320/5320
MP :730/980
筋力 :720
耐久 :480
魔力 :82
敏捷 :6720
幸運 :35
【状態異常】
普通
【スキル】
「疾走Lv82」「馬術Lv86」「矛術Lv24」「危機感知Lv10」「回復魔法Lv70」「黒魔法Lv6」
【特殊】
なし
【称号】
「不死族の長」「回避王」
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相変わらずの偏った能力値だ。敏捷性が話にならないほど高い。今後とも俺の罠に引っかかることすらないだろう。
第一、あのバジリスクと戦ったってのにMPしか減ってないのはどういうことだ?開けた地に誘い込んで仕留めようっていう作戦、もしくは単に逃げてきたとしか思えない。
これから役に立ってくれればいいのだが。
「貴様諸共、我が手助けしてやる。感謝せよ」
は、腹立つ……。
この場で苛立ちを露わにするのは幼稚なことだ。
冷静かつ客観的な視点から、俺は怒りを鎮めることにした。
【そういえば、ヒビキ様。最初に倒したあのラビット族のスキルは奪わないのですか? 】
「……白兎の前ではやりにくいからな」
それに関してはとても複雑な感じだ。
俺にとってはただの魔物の死体だが、白兎にとっては同朋の亡き骸。
白兎は至って何食わぬ顔をしているが、その死体を見れば気分も変わるだろう。
ならば、「錬金術」であれを作ってみようか。
魔物にも効き目があるかどうかは知らんがな。
敵ながら情けをかけさせてもらうぞ。
【……何をなさるおつもりです? 】
俺が無言で「錬金術」スキルを使用するつもりでいると、フィーさんが訝しげに聞いてきた。
女神様にはなんでもお見通しってなわけか。
どうせ答える気もないため、それこそ黙ってアイテム欄を開き、透き通った水色の液体が入った目薬のような『天使の涙(S)』と、蝙蝠のような魔物『ビング』を討伐して解体屋を通して獲得した『ビングの牙(E)』をそれぞれ一つずつ取り出し、そこで「錬金術」スキルを使用する。
『天使の涙』は俺が転生するずっと前に、「双竜の祠」の白い『アル・ドラゴン』と黒い『レギング・ドラゴン』────ステージボスを討伐した際にたまたまドロップしたレアアイテム。
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『天使の涙(S)』《「効果」:範囲に属する対象を50%の確率で蘇生する。錬金可》
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ギルドへの報告は……あえてしていない。蘇生効果のあるアイテムは、俺の知る限りこれだけだ。相当な値がつくからと襲ってくる輩がいるかもしれないため、秘匿とした。
ちなみに所持数は全部で10である。拾った時のままだ。
一度も使用したことがなく、対象の範囲がどこまでなのかすら分からない代物でもある。
『ビングの牙』は普通のアイテムで、『ビング』討伐の後、解体屋への依頼を通して貰えるもの。たがその効果は、職業がトラッパーの者に対して美味しいものなのである。
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『ビングの牙(E)』《「効果」:錬金により対象物の効果を一時的に倍増する》
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「錬金術」スキルはトラッパーしか持つことが許されない固定スキル。つまり、トラッパーのためにある素材なのだ。それに、効果も使いようによっては大いに活躍する。
『回復ポーション』などのポーション系を始め、錬金が可能な武器などの効果を一時的に倍増できるというのはとても恐ろしい。一時的でも、そうやって世界を生き抜くプレイヤーは少なくない。
けれど、一時的は何があっても一時的でしかない。
30秒そこらで効果は切れてしまう。
今俺が作っているものも、時間がくれば効き目なんか直ぐに元通りになってしまう。
だからこそ迅速に施さないといけない。
「よし、できた」
できあがったもの──『天使の涙(S・効果上昇)』と、前に即興で作った『浮遊石(B)』を持って、俺はラビット族の死体が転がっている場所へと急ぐ。
着いたらサッと降り立ち、右手に持った『天使の涙』を地面に散布した死体のど真ん中に向かって投げつける。
範囲効果っていっても使用方法自体が分からなかったため、横暴に処理したが。
『天使の涙』が地面に接触すると、割れるなり中の液体が霧と化してそこら一帯を覆っていく。