第13話 本来の目的
その影は見るからにデュラハンと黒い馬で、後ろから迫り来る影は……普通にゲームやってた時と全く変わらない気持ち悪さを彷彿とさせる、あのバジリスク。
ここは俺の出番! そう思い剣を構えていた時、デュラハンを乗せた黒い馬が急に向きを変え、背後のバジリスクへと突撃していく。
「そんな無防備で挑む馬鹿、そうそういねぇぞ!? 」
現地点から助っ人に向かおうにも距離があり、迎撃態勢に入っている他ない。
【ヒビキ様、ご安心下さい。もう勝負はついておりますよ】
「ん? 」
フィーさんの声が改めて聞こえたかと思った矢先、デュラハンのやつが、手にした矛を投げやりのようにバジリスク目掛けて放った。
その矛は揺らぐことなくバジリスクの額へと飛んでいく。
そのままやつの額の奥へと深く突き刺さり、見事なクリーンヒットが浴びせられた。
否、それだけではない。
突き刺さった部から、黒く澱んだ煙がモクモクと溢れ出てきたのだ。
脳天をやられたためか、バジリスクは四足歩行のままビクビクと痙攣している。が、その煙の正体は……一向に掴めない。
これもデュラハンの攻撃なのだろう。
万が一のための、内側からの攻め。罠はりと時には近接戦闘しかしてこなかった俺よりも、ステータスはさておいて、色々と勝っている気がしなくもない。
【デュラハンはやはり隅に置けないくらい強いですね。あのデュラハンが格別、他のデュラハンを出し抜くほど強いだけなのでしょうが】
なんていったって、「不死族の王」だからな。
「ったく、『魔剣・赤竜の剣』を錬金した意味がねぇじゃねぇかよ……俺のレアアイテム達よー、戻ってこーい! 」
戻るわけがないのは俺が一番よく知っている。
それにこの『魔剣・赤竜の剣』には、錬金して一定時間が経つと消滅するといった鬼畜設定が組み込まれており、このあとなす術なく霧散してしまう。
『魔剣』は本来、伝説級のアイテムとして世界のどこかに隠されているもので、俺が錬金するものは、ある意味偽物である。無二の存在を汚してはならないのが道理。だからこそ隠滅させる必要があるのだろう。
「作ったはいいけど使えねぇ。俺、損しかしてねぇな……」
【むむ? これは、まさか! 】
「どうした、フィーさんよぉ」
【ヒビキ様! 今すぐにでもあのバジリスクを魔剣で葬って下さい! 】
「なぜだ? 」
【いいから早くっ! 】
「でも遠過ぎて、攻撃なんか当たらねぇよ」
【そのくらい、なんとかして下さい! 】
なんとかって、無茶振りにも程があるだろう。
それでもフィーさんの言う「なんとか」をしてあげようと、俺は「錬金術」で『ただの小石(G級)』と『レッドピクシーの羽(C級)』を使って『浮遊石(B級)』を即興錬金する。
『浮遊石』は所持者の身体を一定時間浮かせ、空を自由に移動出来るようにする効果を持つ面白いアイテム。移動速度にそこそこの加速も加わるからから、徒歩よりかは断然速い。
俺は両手にそれぞれ『浮遊石』、『魔剣・赤竜の剣』を握りしめ、浮いた身体をバジリスクの元へと傾かせ、全速力で飛んでいく。
俺の攻撃でデュラハンたちを巻き込むかもしれない、と思ったが、あいつらはバジリスクの尾よりもずっと奥の方にいた。
勢い余ってスピードを落とせないようだ。
一応、被害拡大にはならないようで助かる。
空中移動は中々のもので、俺はすぐにバジリスクの眼前に到着した。
それから勢いに乗って剣を振り下ろし、『魔剣・赤竜の剣』から出る灼熱の炎でバジリスクの身体全体を包み込む。
続くバジリスクの断末魔。実に鈍い重低音が、炎の中から奏でられる。その後、バジリスクは息絶えたように横に倒れた。
俺はゆっくりと地上に降り立ち、ふうと一息つく。
【ありがとうございました】
「ああ」
全く、人騒がせな女神だ。
理由も聞かせず俺を駆り出した責任くらいはとってもらわねぇと。
あ、そうだ。
「原因はともあれ、フィーさんは俺に一つ借りができたわけだ。なら、『翻訳能力』を俺に与えてくれ」
【それとこれとは話は別です。まして、あんな魔物なんか倒そうと思えば私だって倒せましたよ】
「嘘つけ。さっき葬って下さいとか何とか言ってたくせによー。女神ってのは往生際が悪いんだなー」
【…………ステータス、初期化しますよ?どうせすぐに強くなるでしょうから】
「すみません。俺が間違ってました」
『翻訳能力』。
これから先何があろうとも貰えない気がしてならない。
「しかし、だな。フィーさんはどうしてバジリスク討伐を俺に急かさせたんだ? 」
【……バジリスクは確かにあの時、デュラハンから与えられた内外へのダメージにより倒されました。ですがその直後、バジリスクのHPだけが急激に回復し始めて。そんなスキル、バジリスクは持ってなかったのですが】
「だから早めに仕留めろ、と」
【はい。ヒビキ様にはたった今、バグ処理を行ってもらいました】
バジリスクに回復関連のスキルはなかったことから、話を聞いているうちにバグの存在は頭に浮かんでいた。
まあなんにしても、今回は早期発見・早期処理ができて良かった。
反面、バグはいきなり現れるものだと気付かされ、俺は至極微妙な感想を持った。
お読み頂き、ありがとうございました!
更新は2~3日に1話というペースでやっていければいいなと思っております。