第11話 不死族の王として②──(デュラハン視点)
「黒馬」は我の黒魔法「悪魔召喚」により召喚される、全身が闇色に染まった擬似的な魔物。
非常に従順で、戦闘力はほど高めである。
そのため遠征時などでは我の脚として仕えてもらっている。
しかし、「悪魔召喚」で我が召喚できる魔物は残念ながら黒馬のみに限定されてある。だからこそスキルレベルが高くなるにつれて制限がなくなる、という話であれば嬉しいのだが。
とりあえず、あいつがいれば堂々たる格好など易いこと。
「悪魔召喚」
我は魔法陣が展開された足元に向けてそう唱える。
すると、みるみるうちに我の視線は高くなっていき、ある程度の高度に達してやっと止まった。
下方にはあの黒馬が、我を跨がせた状態で待機している。
さて、指示を出そう。
「黒馬よ、今回も我の脚となれ。このデュラハンに相応しき様相をもって事を成せ」
「ブルルルル」
黒馬は鼻を鳴らして同意の意思を示す。
そして次に我自身の様相は、黒鎧一着。それでも事足りると思うが、念には念をいれて、玉座に立て掛けていた白銀の矛を装備する。
「何も問題ないな」
あとは『ヒビキ』とやらが何者なのか、この目で確かめるだけ。細心の注意は払っておくが、無駄な気遣いでないことをただただ祈る。
「そろそろか。我の友となるに等しい者であればよいな」
それだけを言い残し、我と黒馬はともに光の粒子となって空に消えた。
こんな経験は一切なく、不安気味だというのが実情。だが我は不死族の王なのだ。恐れ戦くことは許されない。
──あれに会うまでは。
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「我を顕現せしめし者は────貴様か? 」
闇の中から一転、急に明るいところに出たと思えば、華美な装備もしておらぬ弱きに思える人間と白い弱小魔物『ナックル・ラビット』が、目の前にいた。
我らを見て畏怖している……と思ったが、どうやら違う。さほど驚いてもいない。
最中、人間の方が何やら呟く。
が、人間と話すのは久しぶりゆえ、我は人間の言葉を理解しきれていない。
「なにゆえ戸惑っておるのか存ぜぬが……まあよかろう。我が名はデュラハン、不死族を束ねし暗黒の騎士なり。人間よ、我の前で存分に畏怖するがいい」
我は堂々と胸を張って、王たる所以を明かす。
それでも奴らは何ら動じない。
我におかしなものがついているとでも?
「なあ、俺はこいつ、従魔にしたくない」
なんだと……? 我は崇高なるデュラハンだぞ!? この退屈な日々から逃れられるのであれば従魔にでもなってやろう。だが、従魔にしたくないとはどういう了見だ!
それではまた、わ、我は一人ぼっちに。
「なぬっ!? わ、我はまた一人ぼっちに!? 我を置いていくとは何事か、人間よ! 」
「そんな態度だから、自覚してない、か? 」
「我はいつもこうだからな。……まさか、貴様の言う我の態度が、我を不死族から遠ざけておった、と……? 」
「知るかよ」
だいぶ人間の言葉を理解出来るようになったが、我は今、危機的状況にいるようだ。
そういうことで我が肩をがっくりさせていると、人間の横にいた『ナックル・ラビット』が突然「キュキュ! 」と鳴いた。「可哀想! 」、だと? 何のつもりだ……下等魔物よ。
「どうした? 」
「キュキュ。キュキュキュ。キュキュ、キュキュ! 」
「……すまん、何を、全く分からん。フィーさん、翻訳を」
やはりぶつぶつと独り言を言っている。フィーさんとは誰なのだ?
これは、気色が悪いな。
「猛者、か」
一体誰と話しているのだろう。そこの白いのか?それとも我?それとも──フィーさんという貴様の幻覚か?
「何をぶつぶつと言っておる」
気になって仕方がなく聞いてみたが、答えはない。
我の前でいい度胸だ、人間よ。それなりに見込みがある。
「よし、決めた」
ようやく我を一人ぼっちから解放してくれるのか。
「我を従魔にしてくれるのか!? そうかそうか、貴様は利口でよろしい──」
「『ステージボス』を狩ってこい。そしたら俺の従魔にしてやる」
…………
「……貴様……我を愚弄するのか? 」
腐っても貴様は人間なのだな。我は崇高なるデュラハンだぞ!
我にそんな下らぬ条件を!
「言い過ぎた、別の条件を」
「草原の主なぞ、我の絶大な力にひれ伏すがいいわ! 」
自信に満ちた声を上げては黒馬を走らせ、我らは草原のど真ん中を突っ切っていく。
久々に草原を駆け抜けるな。これは、かなりの快感だ。
さあ、肩慣らしといこうではないか!
2万字突破!
目標としている30万字まで、あと28万字です…。
お読み頂き、ありがとうございました。