こころの思い出
大切な思い出は、いつまでも残るものです。
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19XX年、夏。
当時小学生だった私は、私の祖母の家に遊びに行っていた。
そこは、普段生活している都会の様子とは全く違うものだった。
照りつける太陽、穏やかな風。風に乗って、自然の香りが鼻を通り抜け、身体中を駆け巡る。ふと足下をみれば、青い草の絨毯が、遠くの丘まで続いている。
まさに、私の知る鉄の世界とは似ても似つかない風景であった。
「ほっほ。よく来たけぇ、ゆっくりしてがんしょ。」
祖母は、都会から来た私を、とても歓迎してくれた。私は、滅多にここへは来なかったので、祖母のこともはっきりとは覚えていなかった。
逆に、私のことを覚えて来れていた祖母に対して、なんだか申し訳なくなり、とりあえず頭を下げた。
祖母はこの仕草を好意的に受け取って来れた。
「まぁまぁ、ご挨拶が上手ねぇ。ろーちゃんとは大違いねぇ。」
「ちょっと母さん、それどういう意味?」
母の名前はちひろ。祖母からはろーちゃんと呼ばれていた。祖母は母をからかうことが大好きだったようで、1人で祖母の家へ帰ったときも、相当からかわれていたようだった。
「そのままの意味に決まっとるけぇ。ちよちゃんはこんなにめんこいのにねぇ、育て方を間違えたかねぇ。」
そういって祖母は笑う。
今思うと、私は、祖母に相当愛されていたのだなぁ、と感じる。普段会わない私に、分け隔てなく接してくれた。
ちなみに、私の名前である「ちよ」も、祖母がつけてくれたものだ。それもひとつの理由かもしれない。
「もう、いい加減にしてよ、母さん!わざわざちよの前で...。」
母は顔を赤くして、反論する。その様子を見て、私は笑っていた。
数日後。
「ちよちゃん、スイカ食べるけぇ?」
家の縁側で、祖母がスイカを切ってくれた。私はこくんと頷き、ひと切れのスイカを頬張る。
「おいしいかい?」
そう言う祖母に、私は笑顔で答える。祖母は、その表情に満足してくれたようだ。
——ちりん。
風に吹かれ、鉄製の風鈴が鳴る。ガラスのものよりも、優しい音色。
——ちりん。
のどかな自然の中で、私のひと夏は過ぎていった。
「ちよちゃん、お野菜採りするけぇ?」
「ちよちゃん、虫採りせんか?」
「ちよちゃん、———。」
「ちよちゃん。楽しいけぇ?」
祖母は私に、ことあるごとに話しかけてくれた。
祖母のおかげで、都会では体験できないたくさんのことを経験できた。
そして、別れの日。
「お世話になりました。また来年、よろしくお願いしますね、母さん。」
母のその声に合わせて、お辞儀をする。
私もありがとう、そう言いたかったが、伝えられなかった。
それでも祖母は笑って、
「また来てくなんしょ。楽しみにしとるけぇ。」
そう言ってくれた。
私も、つられて笑った。
別れを惜しみながら、私は都会へと帰っていった。
半年後。
この地を襲った台風。
その後のダム建設計画。
そして大規模地震。
祖母に会えることは、もう無かった。
別離は突然に。




