来たわよ異世界っ!!
生い茂る見た事も無い草木。珍しい奇麗な羽を持った小鳥。はるか上空で羽を羽ばたかせている鳥にしては大き過ぎる何か。そして、
「やったわ!!魔力の戻りも前と同じっ!転移に成功ねっ帰って来た‥‥とはちょっと違うか。来たわよ異世界っ!!そして此処はどこ!?」
「わかってないの!?」
変な所に私を連れて来た親友。
「何処よ此処ぉーーー!?」
「だから異世界だってば」
「意味わかんないよ!?」
「なるほど、つまりアーニャには前世の記憶があって、お兄ちゃんはその前世の世界で勇者やってて恋人同士。終業式の日様子がおかしかったのは異世界から帰って来たばかりだったからで、なにかの手違いでもう一度異世界に。しかも今度はクラスメートも一緒に‥‥‥こんなの、どうやって信じろと?」
「だから何度も魔法見せたでしょ‥‥」
此処に来てから二時間。パニックになっていた陽菜を落ち着かせて全部を話した。が、やはり信じられないようだ。
「けど、この話がウソだっていうならこの状況はどう説明するのかしら?」
「ウッ、それは‥‥‥ま、まぁお兄ちゃんに会えるなら何でもいいよっ!!それで、此処が何処なのか本当にわからないの?」
「えぇ。此処、どこら辺なのかしら‥‥?とりあえず、一本道だからどっちに行くか決めましょう」
「どっちって‥‥‥」
アーニャと陽菜が転移したのは一本道のど真ん中。前後どちらにも道が繋がっている。どこかの村や街に着くことは間違いないと思う。道が舗装されてるからね。問題は、前と後ろどっちに進むかなんだけど‥‥‥
「クッソォォォッ!!」
「殿下ぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
‥‥聞こえない振りしようかしら。今の私達は迷子。こんな所で立ち止まってる暇はないのよ!!
「さっ、陽菜行きましょうか‥‥‥あれっ?」
横に立っていた陽菜に声を掛けるも、そこには陽菜の姿は無く、少し離れた所で走っていくのが見える。
あの子なにやってんのぉーー!?此処は異世界。普通の喧嘩とは違うのよっ!?
「ちょ、ちょっと陽菜待って‥‥あぁもうっ!!」
陽菜は森の中に入ってしまった。声の大きさからして、そこまで離れていないだろう。あの子の身体能力からして見つけるのは直ぐ。
身体強化の魔法を身体に掛け、周囲の魔力を探る。すると、陽菜が突っ込んで行った先に何個かの魔力の塊を見つけた。
あの子、なんで魔力を探ってもいないのに居場所が分かったのよ!?
此処からならギリギリ陽菜よりも先に着けるかもしれない。
森に入って最短距離を突っ切る。身体強化の魔法は苦手な魔法の一つだが、前世に比べると身体能力が上がっているし、年も若い。前よりも各段に走るスピードが上がっていた。
走って走って、剣戟の音が聞こえてきた。それと叫び声。
「陽菜は‥‥もう居るんだけど!?」
血溜まりの中で倒れている男の子を庇うようにして剣を持った男の前に立っている。周りには倒れている男の側に二人。剣を持った男の方に五人だ。この人数を三人で相手しているとは、なかなかの実力者なのだろう。
「ちょっとそれ真剣でしょ!?なんでそんなもの使ってるのよ危ないじゃない!!」
「はぁ?突然割って入って来たと思ったら何を言ってる?それに、なんだその服は?髪や目の色も見慣れないし‥‥どこから来た?」
「知らないわよコッチが聞きたいわっ!!」
思わず頭を抱えてしまう。何をやっているんだあの子は。三人組の方は王族か貴族なのだろう。剣や着ている物に高級感が漂っている。五人組は雇われの暗殺者か?剣のリーチも三人より短いし、動きが剣士のものでは無い。
「陽菜っ!!なにしてるの!?」
「アーニャ!?危ないから下がってて!!」
「誰だあれ?」
「ほぉ、結構な上玉じゃないか。王子の暗殺なんて面倒だったが、楽しみが出来たな」
うっわ気持ち悪い!!さっさと終わらせましょう。それと陽菜?下がるのはアナタよ。
「我が魔力を糧に、風の刃を作り出せっ『風刃』!!」
「なっ!?魔術師か!?」
「バカなっ!?詠唱が違う‥‥‥っ!?」
五つの『風刃』を作り出し、驚いている五人組の胴体を切り裂く。一番奥にいた一人は前の一人を盾にして避けたようだ。そのまま姿を消してしまった。
魔術師。その名前は数千年前に滅びた筈だが‥‥嫌な予感がしてきた。
「なっ‥‥アーニャ!?なんで殺したの!!それに、さっきのはなに!?どうやったの!?」
「陽菜、ちょっと待って。先にコッチをどうにかしないと」
顔を青ざめて絶叫する陽菜を放って、血溜まりの中倒れている男の所まて小走りで近づく。
「きっ、貴様何を‥‥」
「黙ってなさい。この人を助けてあげるから、その代わり私達の質問に答えてもらうわ。大丈夫よ。それまで殺したりしないから」
今までポカーンとしていた二人が、一斉に剣を向けてくる。年端もいかない少女が、いきなり大の大人五人を一瞬で殺したのだ。驚いて動きが止まるのも無理はない。
「あら、血は出てるけどそこまで怪我は酷くないのね。‥‥はい。終わりよ」
今度は無詠唱で男の傷を治す。ある程度の力量の差を示す為だ。実際、効果はあったようで目を見開いている。
倒れていた男も起き上がって手を開いたり閉じたりしていた。全員声も出ないようだ。
「さて、そっちは助けたし、今度はコッチね?私達、此処が何処なのかもわかってないの。‥‥あぁ、結構面倒な事情だからそこら辺は聞かないでね。だから、此処ら辺の情報と今が何年なのかも教えてほしいわね」
「‥‥あ、あぁ。此処はフィルニール王国とグラン帝国の国境付近で、グラン帝国側に近い所にいる」
うーん、全く知らないわねぇ。フィルニール皇国がなぜか王国になってるし、グラン帝国ってなに?そんな国知らないわよ?‥‥いや、数十年経ったって可能性も捨てきれないわ。だってこの転移はティナの魔力を辿る形で発動させたんだから。その可能性も捨てきれないし、だから‥‥
「今は天魔暦228年だ」
‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥可能性が完全に砕け散った。この人キライ‥‥‥‥‥‥‥‥
思わず顔を手で覆い隠す。今が本当に天魔暦228年なら、大変に不味いことになる。アーニャが『シルヴィア・フォン・フィルニール』として過ごしていたのは天魔暦2230年から2249年。生まれた年が丁度『フィルニール皇国誕生から二千年』と言う事で国は一年中お祭り騒ぎだったと聞く。しかも、その十年後には『双翼の戦女神』である『左翼』の『聖女』を10歳で継いだ事から生まれ変わりでは?等とも騒がれた。
あの時はパーティーとか面倒だったな。
「‥‥ハッ!?いけない、こんな現実逃避してる場合じゃ無かったわ。しっかりしないと」
とりあえず、私たちの置かれてる状況は把握したわ。まぁもう一回転移すれば良いだけだし、なんとでもなる!!
「お、おい。大丈夫か?それより、そろそろ私たちは行きたいのだが。先を急いでいてな‥‥」
「‥‥はぁ?ちょっと黙っててくれる?今忙しいの。大人しく待ってなさい。陽菜、ちょっとコッチに来て」
聖女のイメージ全く無しの言葉遣いで男を萎縮させ、陽菜と少し離れた場所まで歩いて行く。ある程度離れて、摑んでいた手を離した所で、陽菜が口を開いた。
「‥‥‥なんで、殺したの?確かに、向こうはコッチを殺す気だった。でも、アーニャなら殺さずに無力化する事もできたよね?なんでそうしなかったの‥‥‥‥」
まだ言っているようだ。まぁ無理も無い。殺しに近い事は彼女もあの事件で見ていると思うが、あれは未遂で終わったし彼女は途中で開放されていた。‥‥兄が人を殺しかける所を見ていようとも、実際に『確実に』殺される所を見るのは初めてだろう。
「いい陽菜?この世界は私の‥‥私たちの世界とは違う。殺しはそこまで罪に問われないの。無抵抗の相手とかだったら私たちの世界同様に罰せられるわ。でも、さっきみたいあのは正当防衛になるの。それに‥‥‥」
「それに?」
「いえ、何でもないわ。とにかく、私の言う事を聞いて。大人しくしてて?ちょっと来る時間を間違えちゃったみたいなの。今からもう一度転移するから、私にしっかり掴まって」
「は?来る時間間違えた!?えっじゃあ此処にお兄ちゃんはいないの!?」
目の前で人が殺されるのを見た時以上に慌てだす陽菜。どれだれブラコンなのだろうか、この子は?
「落ち着いてってば、今は魔力もちゃんとあるから、直ぐにでも‥‥‥あら?なんで!?魔法陣が起動しない!?ちゃんと魔力込めてるのに!!」
魔法陣を書き、此方に来た時と同じように魔力を込める。が、魔法陣は起動せず、ただの落書きになってしまった。
「えっ、ちょっとアーニャ?どういうこと?光らないけど!?」
「ちょ、待って落ち着いて。どうなってるの?何かが欠けてる‥‥‥あっ」
「あってなに!?ねぇ‥‥‥あってなによ!?」
アーニャの両肩を掴んで前後にブンブンと振る。頭が飛んでいっても可笑しくない速さで前後に振られている。
「ひ、陽菜‥‥‥おちっ、落ち着いてっ‥‥‥死ぬからぁ‥‥」
「あっ、ゴメン‥‥‥大丈夫?」
「そう見えるなら眼科に行ってきて‥‥‥転移出来ないのはティナの魔力。つまり、ハル達を召喚した人の魔力が此処には無いからなの。私達が此処に来る時、私はハル達を召喚した人の魔力の痕跡を辿って転移を行った。多分、別の時間に飛ばされたのは私の魔力が足りなくて途中で転移が終わったのね。日本‥‥というか私達の住んでる世界は魔力が圧倒的に少ないから」
「え、じゃあなに?私達、帰れないの?このまま死ぬまでこの世界?」
泣き出してしまった。気持ちはわかる。私も泣きたい‥‥けど、まだ帰る方法が無い訳じゃない。この天魔暦228年には確か、『勇者』がいた筈なのだ。勿論、ハルではない前任の勇者だ。
その人に聖剣を貸してもらい、魔力を探る。ハルも使っていた聖剣だ。時間はハルが召喚されて、私が死ぬ前の時間になると思うが、そこでハルを待てば良いのだ。まぁ、一度日本に戻るという手もある。‥‥‥これをしたらハルが帰ってくるまで待つ事になるから、全部無駄になるのだが。
「と言うわけで、帰れないって訳じゃないから安心して?それに‥‥‥」
そうニコッと笑ってから、此方の様子を伺っている三人を盗み見る。
「あの人達の事も気になるでしょ?」
「‥‥‥まぁね。けど、安心したぁ。帰れないって訳じゃないのね。だったら、異世界を満喫してやるわよ!!」
おぉ!!なんとか持ち直した。‥‥‥別に私は可能性を提示しただけで絶対とは言っていない。『勇者』の記述も本当は怪しかったりする。‥‥‥小さい頃、『勇者』の記述があった『フィルニール皇国建国記』を見たかなぁ?ぐらいなのだ。
「さて、向こうの話も聞いて、出来れば少しお金を貰いたいわね。私達、無一文だし」
「だねぇ。ていうか此処ってさ、アーニャのいた世界の、何年か前の時間なんでしょ?何が起こるからわかってるなら『勇者』が何処に現れるのかもわかってるんじゃないの?」
「いやーそれがね?ここら辺の時代のお話って殆ど残ってないのよ。なんでも、これから千年先に起こる大規模な戦争で全部燃えちゃったらしくて。残ってるのは子供に聞かせるおとぎ話ぐらいよ」
「なんだー。じゃあある程度無理しても大丈夫そうだねー。最終的にそのおとぎ話に辿り着けば良い訳だしー」
‥‥‥ん?なんて言ったこの子?今のセリフから推測すると、もしかしてこの子‥‥‥
「勿論ッ!!厄介事には強者有りッ!!私と渡り合えるぐらいの人がいるといいなぁ‥‥‥」
マジかこの子‥‥‥歴史変える気?そんな事したらどんな事態になるのか‥‥想像するだけで恐ろしい。
「だって建国記って言うぐらいなんだから、戦争とかも合ったでしょ?と言うことは、強い人もいる筈!!‥‥殺しは嫌だけどね」
「あのね‥‥‥まぁ良いわ。決闘ぐらいなら問題無いでしょう」
いざとなれば私が殺せば良いのだしね。歴史が変わることになるけど、もう五人殺してるし、今更変わらないわよね!!
三人の所に戻って、話を聞こう。とにかく、今はお金と情報だ。天魔暦228年のいつ頃なのかも知りたいし。
魔法陣を消して、少し小走りで三人の元に戻る。死体の処理もしないと行けない。魔物が寄ってきたら最悪だ。
「一目惚れだっ!!僕と婚姻を結んでくれないかっ!?」
‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥あぁ?