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異世界転移


「じゃあ、行って来ます」

「気をつけて」

「陽菜ちゃんによろしく伝えてね?あと、ちゃんとお土産渡すのよ?」

「分かってるわママ。パパ、師範さんとかに伝えることない?」

「ないっ!!」


元気よく、そしてハッキリと清々しい笑顔でそう言ってくるパパは、なんだか可哀想に見える。‥‥今度コッチに来て貰おうかしら?


「お姉様、お気をつけて。来学期、お待ちしております」

「お土産よろしくねアーニャ。変な男に引っかかって来ちゃダメよ?」

「あぁ、アーニャさん。1ヶ月も会えないなんて‥‥せめてこれを僕だと思って」

「テメッなにやってんだ!!」

「抜け駆け禁止だって言ってんだろ!おい、連れてけ」

「アハハ‥‥」


学校の友達も会いに来てくれた。別に良いのに、今生の別れって訳じゃ無くって、只の旅行なんだから。‥‥あと、名前忘れちゃった男の子。死なないでね!








「あっつい‥‥‥」


飛行機に乗って十三時間ぐらい。持ってきていた本も全て読み終わり、寝過ぎてやることが無くなった頃に漸く着いた。


「どうなってるのよ日本は?こんなの聞いてないわ‥‥あ、あのバスに乗らなきゃ」


フラフラになりながらも、バス乗り場へと向かう。その道中、というか、飛行機から降りて此処まで来る道のりでも、ずっと視線を感じていた。


そんなに私珍しいのかしら?いや、乗ってきた飛行機に一杯アメリカの人居たのに?まさか、私の服がおかしい!?


変な勘違いをして自分の服を確認する。が、どこも可笑しな所はない。首を傾げるが、そんな事をしている間にバスが来てしまい、急いで乗り込んでいたら忘れてしまっていた。


「‥‥すっげぇ可愛かったな」

「あぁ、モデルか何かかな?」

「日本に何しに来たんだろ‥‥」

「彼氏に会いにじゃね?」

「バカ、観光だろ。‥‥そうであって」


まぁ、こんな風に思われていただけなのだが。本人は全く気づく気配は無く、この十四年間を過ごしていた。凄い神経である。


「やっと会えるわね。ハル‥‥」





「此処が待ち合わせ場所ね。‥‥ちょっと早く着きすぎたかしら?」


バスで陽菜の住む街の駅に着いたアーニャ。待ち合わせには後二十分程時間があった。


「それにしても暑いわね。‥‥コンビニでアイスでも買いましょ」


      ・

      ・

      ・

      ・


三十分後。まだハルと陽菜は来ていない。おかしい。待ち合わせを十分過ぎている。携帯も繋がらない。‥‥なにかあったのか?


「いやいや、どっちかの学校が少し時間掛かってるだけかもしれないし、もう少し待ちましょう」


      ・

      ・

      ・

      ・


それから二十分待っても、陽菜とハルは来ていなかった。流石に我慢の限界だ。


「あっーもうっ!!何してるのよあの子は!?会ったらタダじゃおかないんだから‥‥ん?」


地団駄を踏んでイライラしていると、目の前にキョロキョロと首を振って誰かを捜している風なおじさんがいた。どこかで見たことある顔‥‥‥こっち来た!?


「ごめんね、ちょっといいかな?えっと‥‥‥アーニャ・ヴェルコフさんで合ってるかな?」

「そうですけど‥‥‥あっ!陽菜のパパさんですか!?あの子今どこにいるんですか?携帯も繋がらないんですけど‥‥‥」

「あぁ良かった合ってた‥‥‥その事について話したいから、これから一緒に来てくれないか?其処で陽菜とママ‥‥嫁がいるから」

「え?あの、お家に行くんじゃ‥‥‥」

「ごめんね、そこら辺も含めて話すね」


とりあえず、陽菜のパパと名乗る人に着いていく事にした。一年前写真で見た顔と同じだし、間違いでは無いだろう。万が一があっても魔法を使えば楽勝だ。


「今タクシー捕まえてくるから、待っててね」

「はい」


そう言って走って先に行ってしまう。‥‥直ぐに捕まったようだ。手招きをしてるので少し小走りに駆けていく。荷物をトランクに乗せ、二人で乗り込む。中は冷房が効いていて、生き返るようだ。


「お客さん、どこまで?」

「○○ホテルまでお願いします」


‥‥‥ん?ホテル?


「あの、なんでホテル‥‥‥」

「あぁ、実はね、上の子がクラスメートと一緒に集団失踪したらしくてね、それを嗅ぎつけたマスコミに学校も家も囲まれてて、今帰るに帰れないんだよ」


は?失踪?‥‥‥召喚?でも、ハルは夜寝てたらいきなり召喚されたと言っていたし、クラスメートなんて一人もいなかった。と言うことは?


「二度目の召喚?」




        ーーーーーーーーーー




ホテルの地下駐車場に着くと頭の上が寂しいスーツを来たおじさんが待ちかまえていた。パパさんに頭を下げたりしてる所をみると、先生なのだろう。‥‥‥横の人が警察手帳取り出した!!うわぁ、ドラマとかで見たことある!!


「アーニャさん!こっち!!」

「あっ、はい!!」


呼ばれたので急いで向かう。‥‥なんか警察の人が私達を守るように歩いてる。なんで?と思って、地下駐車場を出て上の階に行く為エレベーターを使うと、一階で止まった。扉が開こうとすると、警察の人が身構える。なに!?なにがいるの!?


「あ、来たぞ!乗り込め!!」

「蓮川さん!!蓮川春人君のお父さんですよね?一言お願いします!!」

「息子さんとクラスメートの失踪について、一言!!」


く、苦しい‥‥扉が開くと大量の人が雪崩れ込んで来た。話からするに、各テレビ局の記者とかそこら辺だろう。それにしても、ハルは凄い人気ね。


「ちょっと、降りて降りて!定員オーバーです!!」

「エレベーター壊れちゃうから!早く降りて下さい!!」


こんな感じの事を、約一分。体感的には十分程潰されながら過ごした。私、華の中学生ですよ?‥‥全員魔法で吹き飛ばしましょうか?


「ご、ごめんねアーニャさん。別々に乗ればよかったね」


疲れた顔で済まなそうな顔で謝ってくるパパさん。なんか髪もボサボサになって、着崩れしてる。


「いえ、そんな‥‥それより、守ってくれてありがとうございます」

「ははは、ちょっと守り切れなかったけどね。ごめんね、おじさん臭かったでしょ?」

「苦しくてわかんなかったですよ。大丈夫です」

「‥‥‥着きました。部屋まで少し走りましょう。お嬢さん、キャリーケースをこっちに」

「あっ、ありがとうございます」


扉が開き、一斉に飛び出す。流石に此処までは来ないようだ。後で聞いた話によると、最上階は貸し切りでクラスメートの保護者達が使っているので記者がいることは無いだろうが、念のための措置だったらしい。隠れて上がってきてるかもしれないもんね。


「陽菜っ!?」


扉を開けて、名前を呼ぶ。今頃泣いているんだろう。可哀想に、私が慰めて‥‥


「スゥー‥‥‥スゥー‥‥‥‥んん、お兄ちゃん私のお肉~‥‥‥‥‥」


このアホ娘。なに呑気に寝てるのかしら?


「やった、とった~‥‥‥‥‥‥‥いった!?なになに!?」

「おはよう陽菜。早速で悪いけど、お説教ね?」

「なぜに!?というか此処どこ!?なんでいるの!?」


このアホ娘。どこまで記憶が飛んでいるのだろう。もう一回叩こうかしら?








「そっか、あれは夢じゃ無いんだね‥‥」


ずっと抱きしめている学生鞄は、ハルのものだろう。‥‥私もそれに顔を埋めたい。


「そ、それでね?しばらくは此処で過ごす事になったの。大丈夫よ!きっとお兄さんも、クラスメートの人も一緒に帰ってくるわ!!」

「アーニャ‥‥ありがと。ごめんね?日本を案内するとか言ってたのに」

「そんなの良いのよ。私は大丈夫だから、もう少し休んで?ご飯の時間になったら起こしにくるわ」

「うん、本当にありがとう‥‥」


陽菜が寝付いたのを確認してから、ソッと部屋を出て、与えられた部屋に入って行く。扉を閉めた所で崩れ落ちる。


「どこに行ったのよハル、陽菜を泣かして、承知しないんだから‥‥‥‥何時になったら会えるの?早く会いたいよ、ハル‥‥‥‥‥‥‥‥‥」


小一時間程泣いて、漸く落ち着く。食事まではまだまだ時間がある。頬を叩いて、気合いを入れ直す。まずは魔力を身体に流して外に漏れない様にする。そして、ハルの魔力の流れを探る。


‥‥この世界に居ないのはわかっている。だから、ハルが今日一日辿った道程を少しずつ探って行く。まずは家、そこから学校までの道程。‥‥あった、此処がハルの教室ね?魔力の痕が残ってる。此処が召喚陣の発動した場所、ハルの魔力もあるわ。それも、一気に爆発させたみたいな‥‥けど、召喚の魔力よりも薄いわね?召喚前に爆発させるような事があったの?まぁ、それは置いといて、次は屋上。なんでこんな所に魔力の痕があるの?しかもこれは聖属性の魔法?どういうこと?‥‥そのあと教室に戻って来てる。この時ね、召喚されたのは。けどこの魔力、どこかで覚えが‥‥なんかもっと雑な魔力だった気がするわ。これは‥‥あぁっ!?この魔力、ティナね!?あの子、『聖女』を継いだんだわ!!という事は、向こうは私が死んで数十年位時間が経っていても不思議じゃないわね。時間まで特定して全員を戻すのは不可能。さて、どうしましょう?







魔力の痕跡を辿ってから、二日が過ぎた。その間に、色んな人がこの階を忙しそうに出入りしていた。学者さんや警察、ハルの幼なじみの一人である雫の祖父、総師範のお世話や必要なものを買いに行かされている『紫電流』の人達。でも、何もわかっていない。なんの痕跡も残さずの失踪なのだ。今まで出た仮説の中で一番近いのは神隠しだったが、惜しいんだよねぇ。


「陽菜?起きてる?おばさんが呼んで‥‥陽菜!?」

「やだ‥‥‥おにい、ちゃ‥‥いっちゃ、やだぁ‥‥‥‥‥‥‥‥」


扉を開けると、陽菜がベッドの上で何かを呟きながらうなされていた。すぐに駆け寄り身体を揺さぶる。


「陽菜、起きて!!陽菜!起きてってば!!」

「っ!?」

「よかったぁ‥‥ずっとうなされてたのよ?大丈夫?」

「大丈夫‥‥ごめんね、アーニャ」


顔色が悪い。さっきまでうなされていたのだから当然と言えば当然だが、それを無視しても悪いのだ。なんせ、この二日間殆ど何も食べていないのだから。


「大丈夫ならいいんだけど‥‥おばさんが呼んでるの。いこ?」

「うん。隣だよね?先に行ってて。汗凄いからシャワー浴びてから行くね」

「わかったわ。伝えとく‥‥‥なにかあったら直ぐに大声出してね」


大丈夫にはみえないが、とりあえず一人にしたほうが良いと考え、部屋を出て隣の部屋へと入る。



「〜〜〜だから!これは〜〜〜〜〜」

「いいや、この現象の可能性のほうが〜〜〜〜」



はぁ、またやってる。学者の討論。此処二日、色々な学者がこの部屋で永遠に結論の出る事の無い討論を繰り広げていた。五月蝿いから静かにして欲しい。‥‥部屋の端の方でおじさんとおばさんが手招きをしていたので、学者の前を通り過ぎて二人の元に行く。陽菜と同じく二人とも少しやつれて目の下にうっすらと隈が出来ていた。


「アーニャちゃん、陽菜を起こしに行ってくれてありがとう」

「いえ、おばさん、私の部屋で少し休んでください。もう限界ですよ‥‥」

「ありがとう。もう少し、ね?」


そんなに疲れた笑顔‥‥あぁ、聖魔法なら疲労回復とか色々‥‥ん?なんか忘れてるような‥‥‥‥‥


「あぁっ!?『異世界転移』!!!」


すっかり忘れてた!!異世界転移に必要な魔力は異世界召喚よりも少ないから、今の私でも使える!!戻すんじゃなくて、私が行けば良いのよ!!向こうに行けば魔力も半日有れば満タンになるから、直ぐに帰って来れる。これで行きましょう!!!


「あ、アーニャちゃん?」

「あっ、ごめんなさいおばさん。ちょっと危ないから下がってて?‥‥ちょっと、邪魔」


学者達が占領してた机の上の物をどかし、油性ペンで陣を描いて行く。


「なっ、なにをする!?」

「あぁ、徹夜で作った資料が‥‥」


部屋に魔力の壁を貼り、準備完了!!‥‥やっぱり魔力の減りが早い。急がなきゃ!!


「我、『聖女』シルヴィア・フォン・フィルニールが異界の門を開け、彼の地に赴かん!!!」


次の瞬間、魔力が身体を包み光り出す。思ってたよりもいけるわね。この世界に身体が慣れたからかしら?

手を握ったり閉じたりして転移を待っていると、陽菜が入って来た。


「あら、陽菜!もうシャワー浴びたの?早かったわね?」

「ひ‥‥あ‥‥‥な‥‥‥っ!?」


あ、やっば‥‥ハルに会う事しか考えてなくて少し離れてもらえば大丈夫だろ。ぐらいしか考えられなかった。魔法自体アウトだったわ。パパとママに見せてから魔法隠してなかったからなぁ。まぁ、なんとかなる!!


「ア、アーニャ?」

「ん?どうしたの?‥‥やっぱり、いきなりこれは不味かったかしら?」

いきなりというか私も想定外だけど。


「取りあえず、それどうにかして?」

「わかったわ」


陽菜に言われた通り魔力を目に見えない位まで抑える。微調整が難しいわね‥‥


「お母さん。他の人を連れて隣に行っててくれない?二人で話したいの」

「‥‥っ!?え、えぇ。わかったわ。皆さん、夫を運ぶのを手伝ってください」


おじさんとおばさんが部屋を出たのを確認した陽菜が、私の方に向き直る。顔が怖い。


「話して貰うわよ、アーニャ。アナタは何者?私の知っているアーニャなの?」

「私はアーニャ本人よ、陽菜。ただこの力を隠していただけ」

「確かに隠すのもわかる。けど、なんで今、このタイミングで力を見せたの?」

「それはね、今この時間しか無いのよ。『向こう』に行くには、今しか無いの」


違います、テンション上がって此処で異世界転移の準備始めちゃっただけです。本当にゴメンナサイ‥‥


「向こう‥‥って?どこかに行くの?それとあの力のどこが関係してるの?」

「それは‥‥‥っ!!」

「!?」


身体から溢れていた魔力が転移に必要な分だけ魔方陣に溜まったのだ。あと一分もしないうちに転移が始まる。


「来た‥‥っ!」

「なんなの!?アーニャ、説明して!!」

「説明してる暇は無いわ!けど、一つ言えることがある!!今から私は、別の世界に行く。そしてそこには、ハルも居るの!!!」


目の色を変えて、此方を見て来る。‥‥部屋から出て行く気配は無いしもういいや。私が守って、ハルに会わせてあげる!!


「陽菜、もう時間が無いの!早く決めて!!来るのか、来ないのか!!!」


こんな時に迷わないでよ、アナタなら大丈夫。向こうでもやって行けるわ。だって‥‥‥‥‥‥‥


「陽菜!もう、これしか無いわよ!!ハルに会いたいなら、私と来て!!!」


家族への書き置きを素早く書いて、此方に向かって走って来る。


「陽菜、私の手を!!」


アナタは、私の親友であり、最愛の人の妹なんですもの。



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