会いたい
私はシルヴィア・フォン・フィルニール。フィルニール皇国の第一王女で『聖女』の称号を持っていた。
けど今は‥‥
「はーいアーニャちゃん。お着替えしましょうねー」
着替えも一人で出来ない赤ん坊です。死にたい‥‥
「ママのときは大人しくお着替えさせてくれるんだねぇ。‥‥パパの時は死ぬ程嫌がってたのに」
「あら〜、私のときも静かに泣いてるのよ?ほら‥‥」
ちょっ!?まだ私着替えさせて貰って無いんですけど!?パパに見られるのは死んでもイヤ!!
「パパ、近づいただけなのに‥‥こんなに嫌われるなんて、何かしたかなぁ?」
「大丈夫よ。おしめを替えるときとお着替え。あとお風呂以外は大丈夫じゃない。こんなに小さくても女の子って事よ。ねぇ?」
そうよパパさん。普段は嫌がってないでしょ?
「そうだよな!よ〜し、アーニャちゃん。ほっぺスリスリだ!!」
ソレもイヤ。
全力で首を振り、イヤイヤアピールをして、ほっぺスリスリを拒否する。あぁ、なんか穏やかに日々が過ぎて行く‥‥
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私が転生し、半年が経った。この世界は私がいた世界じゃ無い。それは確か。だって色々とおかしいわよ!まず車ね。魔力無しでこんな鉄の箱が動くなんて信じられないわ。
外のもの凄く高いビル?っていう建物に、信号機。例を一つ一つ挙げたらキリが無いわ。
家の中に関してもそうね。テレビなんかは一番驚いたわ。箱の中に人が小さくなって入ってるんですもの。今じゃある程度の仕組みも理解したけどね。このテレビのおかげで色んな情報が手に入ったわ。
此処は地球という星で、その中の『アメリカ』という国に私はいるのよね。そして他にも驚いた事が有ったの。物じゃ無くて、国のこと。なんとこの世界の地球という星には『日本』という国も有るのよ!!
前にハルが言ってたわ。『俺は日本っていう国から来たんだ』って。
そして、こうも言ってたわ。 『俺の剣は『紫電流』っていう流派で、全国大会も決まってる位には強い』って。全国大会って事は、大きな大会の筈。名前を探して、居場所を見つけるのも簡単な筈!!
といっても、ハルは2017年から来たって言ってた。今は2002年。後十五年‥‥あれ?私、ハルより年下?というか、ハルが過ごしてた世界なの?
大事な事を見逃してたわ‥‥まず考えて、ハルのいる世界なんて保証はどこにも無いじゃない!!どうにかしないと‥‥でも、居るとしてハルはまだ2歳の筈。だから先に『紫電流』を見つけないと。どうやって調べようかしら。私はママが連れ出してくれる時以外この檻から出れないし(赤ちゃんが逃げない様に使うベビーサークル)
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もやもやとしながら一年が過ぎ、また一年が過ぎ‥‥ある時、チャンスが訪れた。
我が家にコンピュータ。PCが来たのである!!
これがあれば私は無敵!!何でも出来る。フハハハ!!!
早速パパママの目を盗んで『日本 紫電流』と打ち込む。PCが来た時から密かに説明書を熟読していた私に隙はない!!
‥‥‥‥‥涙が止まらなかった。今、私は7歳。二つ離れてるハルは、この世界にいれば9歳だろう。そして、『紫電流に新たな風が!!』という題名の下に写っているこの少年。ニヤリと笑い、自分よりも年上であろう男の子の首筋に剣先を置いているこの少年。下の方にプロフィールがあった。
蓮川 春人
三歳の頃から剣を握り、同門であり総師範の孫である宇都宮雫さんと同い年で、同年代の少年少女ではもはや相手にならず、唯一まともに剣を交える事ができるのはもう一人の幼なじみである狭間龍一君だけという剣の天才。
最近は妹さんを大変可愛がっており、今回の大会は妹さんに良い所を見せる為にと無理を言って中等部の試合に出させて貰っている。残念ながら優勝は叶わなかったが、胸元には銀色に輝くメダルがぶら下がっている。
下の方には、幼なじみという二人の紹介があったが、私の目にはもう写っていなかった。今はただ、ハルの事だけを考えていたい‥‥‥ハル、ハル‥‥‥‥‥
「会いたい‥‥会いたいよ、ハルゥ‥‥‥‥‥‥‥‥」
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ハルがこの世界で生きて、順調に成長している事を知って三年。私は10歳になっていた。あれから、『紫電流』の事やハルの事を調べ尽くし、いつ会いに行くか。行ってそれからどうするかを色々と考えた。その結果、
会いに行くのはハルの全国大会が決まる年。つまり、2017。大会は秋で、夏の間は稽古漬け。けど、その前に召喚されてラッキーとも言ってた。そして、終業式前日とも。という事は、終業式の日に会えばハッピーエンドな訳だ。と言うことで、私はその夏、何が何でも日本に行き、ハルと過ごす。これが理想。
会えなかった場合は‥‥魔力を使う。この世界に生を受けて十年。その間に魔力はだいぶ戻った。それでもまだ五分の三って所だけど、私の場所を知らせる為に放出させれば気がついてくれる筈。
この世界にきて暫くした時、聖魔法初級『光球』を一度だけ使った事がある。そしてそのとき驚いた。異様に魔力の減りが早く、二十秒も『光球』を維持できなかったのだ。
勿論、全部の魔力を使った訳じゃ無い。上限を決めて、その上限の内の話だ。が、それでも異常だった。向こうなら三時間は持つ筈の魔力なのに二十秒持たなかった。
その理由は大気中に漂う魔素の少なさが原因だ。この世界は向こうに比べて大気中に漂う魔素が百分の一も無い。それがこの世界で魔法が発達せず、科学が進歩した理由だろう。向こうの世界は昔、大気中の魔素を利用して様々な事を為していた。が、此方では元々の魔素が少なく向こうよりも遥かに魔術を使える者が居なかったのだろう。だから向こうの『魔法』の代わりに『科学』が進歩したのだと考え、自分の力が衰えたのではないと昔は無理矢理言い聞かせたが、この仮説は合っていたと思う。魔力の回復がクッッッッソ遅いからね。
というわけで、色々考えて準備は万全。後は時が経つのを待つだけ‥‥なんて思ってたら、奇跡が起きた。
「えっと、今日から一ヶ月。此方でお世話になる『蓮川陽菜』です!!アーニャちゃん‥‥だよね?よろしく!!」
2016年夏。ハルの妹の蓮川陽菜が、家にホームステイに来た。