接近
寝癖のあるルークドは、マリたちとグールフが対峙したことによってできた、横に線引きされた空間の真ん中を堂々と突っ切って、グールフの前に立つ。
全員黙ったまま、その様子に釘付けだった。
ルークドとグールフは睨み合ったまま、しばらく動かなかったが、先にアクションを起こしたのはルークドだった。
「・・・まぁ、とりあえずそのナタから手を放してくれ。俺は、もう一度お前と戦うなんて御免だな・・・。」
軽い感じで話しかけた。
「・・・・・・。」
なんと、グールフは素直にナタを鞘に擦る音を響かせながら、収めた。
そして、椅子に座った。
「・・・物わかりがよくて助かる。」
ルークドもそう言いながら、グールフと対面する形で椅子に座る。
「・・・その~話をする前にだ。さっきも言ったとおり、俺は今空腹状態でな、行儀は悪いが・・・食いながらでいいか?」
「・・・好きにしろ。」
「わりぃな。」
すると、ルークドは机に置かれて余っていた七面鳥に手を伸ばして取ると、またグールフのほうに向く。
「・・・え~とお前の名前は、確かグールフだったよな。・・・よし、グールフ。聞いてくれ。俺は、お前と戦っ・・・イデデテテテテ!!」
ルークドが本題に入ろうとした瞬間、マリが横からルークドのほっぺを引っ張って、自分のほうに向ける。
ちょうど、グールフに背を向ける形となった。
「おい、マリ!いきなり何するんだ!いってーな!」
「いきなり何するんだってそれはこっちのセリフッ!!ちょっと面貸しなさい・・・!」
「はぁ?今から・・・イデテテテ!!おい、だから引っ張るのやめ・・・!」
マリは、そのままほっぺを引っ張って、ルークドとその大広間の端っこまで行く。
端っこに位置した時には、ルークドのほっぺは赤く腫れていた。
「ねぇ・・・何をする気だったの?あんた自分の立場わかってるでしょ。一番あんたが、グールフを刺激する存在なのよ。」
ルークドは、それを聞き、のんきに手にあった七面鳥を食べだす。
「・・・はぁ~これだから、育ちの悪いやつは困るな・・・。」
「なっ!今、まったく関係ないでしょ!」
「いや、だからせっかちなんだよ、お前は。」
「ど、どういうことよ。」
ルークドは、グールフの方を一瞥すると、マリを壁のほうに向かせ近づいて話す。
「いいか?この人数がここにわざわざ集まっているのを見るに、何かグールフを心変わりさせる手段を講じていた。そうだな・・・推測するに、メイヒールたちと協力して信頼関係を見せつけようとでもしていた。」
「そ、そうね。(こいつにここまでッ!)」
「だが俺が、さっきこの大広間に入った時に真っ先に感じたのは・・・不穏。」
「・・・(ゴクリッ)」
「さらに次の瞬間には、お互い戦闘態勢にまでも入っている。これは・・・完全に失敗した合図だな。」
「うっ・・・」
「そんな回りくどい方法、いかにもマリ。お前が考えそうなことだ。」
「う、うっさい!」
その時には、もういつの間にか、七面鳥はなかった。
空腹によるものか、かなりのスピードだった。
「・・・そしてそのお前が失敗すれば、今度は俺の番ってことで、さっきグールフに接近したわけだ。邪魔されたけどな。」
「・・・わ、悪かったわね!邪魔して!でも、そう言うんならちゃんと策はあるんでしょうね・・・?」
「・・・・・・。」
ルークドは何も言わず、手のジェスチャーだけをしてさっきと同じ場所に戻っていく。
「ホントに大丈夫なのかしら・・・。」
その背中を見て、マリは不安そうにそう呟くしかなかった。
そして、ルークドはさっきと同じ椅子に座って、グールフと対面する。
マリたちは、もうそこまできたら、事の次第を黙って見守るしかなかった。
「悪いな・・・待たせて。」
「・・・・・・。」
グールフは、目を閉じて何も言わない。
「ふぅ~・・・では気を取り直して。」
いつになく大広間は緊張の雰囲気だった。
「・・・俺はお前と戦って、思ったことがある。」
グールフは閉じていた目を開ける。
「グールフ・・・お前は強い。だから、その力を俺たち、キングリメイカーに貸してくれ。」
「・・・!」
ルークドが、まっすぐに言い切った瞬間、明らかグールフに反応があった。
さらには、グールフだけではなく、見守っていた全員がそのルークドの意外な言葉に驚くしかなかった。
「・・・もちろん今すぐに返答を出せとはいわない。だが、俺たちはそんなに悠長にしている暇もないんだ。だから、明日答えを聞かせてくれ。グールフ。」
「・・・何を言い出すかと思えば・・・ふざけた妄言だ・・・。」
「いや、本気だ。」
ルークドは、即答しグールフと目を合わせる。
「・・・・・・。」
しばしの沈黙の間、ルークドは重圧の雰囲気から、少し軽い雰囲気に変えて話を続ける。
「・・・それに1人で来いとは言わない。慣れないところにいきなりは寂しいしな。」
ルークドは、メイヒール、ファイ、キャアシーに視線をそれぞれ移す。
キャアシーだけは、照れながら視線を外した。
「だが、これだけは覚えておいてくれ。キングリメイカーはずっと強敵たちと戦い続ける日々を送ることになる。だから、今よりも断然、死と向き合うことになる。それが嫌なやつは、来ない方がいい。先に言っておく。」
それを言った瞬間、メイヒールやファイ、キャアシーまでにも動揺が走る。
「どこまでも勝手だな・・・人間は・・・。勝手に来て、勝手に押しつけ、今度は勝手に勧誘とはな。
愚かさの極みだ。聞いてられん。」
グールフは、言い捨てると立ち上がって、どこか行ってしまった。
(・・・・・・ノルス。あんたならきっとこうするはずだ。)
ルークドは自信に満ちていた。
ノルスならどうするか。それを考えて、手腕を真似た。
強い力は(グールフを)いっそのこと引き入れればいいという考えは、確かに、今直面している村の保護下について説得するという問題を解決する。
いや、それどころかもっと大きな問題に引き上げることで結果的に解決を図るといえた。
また、同時に期限も同時に提示することで一刻も早く解決を狙い、決断も急がせる。
さらに、譲歩するところはする。
この巧妙さは、やはりノルスのそれに通じるところがあった。
だが、その思いもよらなかったルークドの言葉は、ゲンエイガハラ村にひとつの大きな問いを投げかけることと同義で、メイヒールがもっとも動揺していた。




