説明
午前。
ルークドがいる部屋は、宿の個室といったような感じで、落ち着ける雰囲気だった。
ルークド自身は、薄着になって、装備もすべて外し、楽な状態でベッドに横になっており、剣は壁に立てかけられていた。
ただ、グールフの戦いで負った傷だけは、どうしても痛むので、何とか上半身だけを動かし、医療用具などを使って、手当てしていた。
慣れた要領ではあるが、痛みを堪え、震えながら手当てしているとき扉が開いた。
「さぁ、餌の時間よ。あんたの好きなウルフの肉。」と言いながら、マリは盆を持って入ってきた。
「・・・あぁ、そこに置いといてくれ。ちょっと今は、手が離せない。」
「(素っ気ない反応ね・・・。)・・・完全にとはいかないけど、私が魔法で治療してもいい・・・のよ?」
「いや、いい。もうほとんど終わりだし。」
ルークドのその返答は1秒かからなかった。
「あっそ!」
マリは、自分の分の料理を机に置いて椅子に座る。
それをルークドは、不思議そうに見つめる。
「なんだぁ?もしかして、俺にかまってほしいのか~?なんせ、久々の再会だもんな。」
ルークドは、意地悪そうにマリに言う。
「ち、違うし!話すことがあるから、ここでついでってだけ!」
その時だった。
「すまない遅くなった。つゆが暴れて、中々運ぶのに手間取ってしまった。」とヤンが言いながら部屋に入ってきた。
ヤンは、マリと一緒の机に盆をおいて椅子に座る。
その形は、ルークドとマリ、ヤンが正面で向き合う形だった。
なお、ルークドの料理は、ベッドから手に取れる位置にある別の机に置かれていた。
「では、さっそく食べ進めながら話していこう。ルークド殿、手を止める必要はないが拙者たちの話を聞いてくれるか。正直あまり、余裕はない状況だ。」
ルークドは、何か緊張の空気を感じ取る。
「・・・わかった。」
「しっかり聞くのよ。」
それからマリとヤンは、食べながら、説明し始める。
その内容は、村の保護下は終えたこと、ゲンエイガハラ村という場所について、メイヒールやキャアシーファイ、グールフといった重要人物について、そしてグールフを何とか説得させなければならないということだった。
はぐれてしまったことやマリとヤンのこれまでの行動は、もう合流した今の状況から判断し重要ではなかったので、省略した。
また、ルークドも特に聞いたり、言及することはなかった。
それは、円滑な情報共有という点で、ケリーから「過去の情報を伝える時は、今の状況にとって必要なことだけでいい。友達とのおしゃべりじゃないんだ。」としっかりとたたき込まれていた。
「・・・・・・ふーん、なるほどな。だいたいは把握した。結局のところ、今直面していることはあの獣人・・・グールフを何とかしなければ帰還することはできないってことか。それも精々おとなしい3日がタイムリミット。」
「えぇ。じゃないと、また、あんたにとっては戦うことになるわ。」
「1つ・・・いいか?」
「何?」
「そもそも反対するやつ1人のために説得する必要があるのか?俺1人では苦戦したが、3人なら余裕で・・・」
「ルークド殿。せっかく、友好的な関係を築けたのだ。それを壊してしまうことになる。」
「それに、そんなやり方って、私たちじゃなくてキングリーパーでしょ。」とマリも加えるように言う。
「まぁ・・・確かに、そうだな。今、俺たちをこうしてここまで案内してくれたしな。外からの人間を入れるってことは、俺たちを信用してくれてることでもあるか・・・。」
3人は、目を合わせる。
その時には、ヤンは食べ終わり、マリもほぼ食べ終わりかけで、ルークドも手当が完了し、横になっていた。
「わかった。まぁ・・・こういうのは得意じゃないが、やるだけやってみるわ。」と言いながらルークドは、上体を起こしてウルフの肉の皿をとって膝に置く。
それぞれ、頷いた。
「では、拙者は食べ終わったことだし、メイヒール殿たちを手伝ってくる。」
ヤンは、盆を持って出ていった。
「いや~それにしても腹減った。」
ルークドはフォークで肉を刺し、口に持って行こうとする。
今から、食べ始めるようだった。
キィンキィンキッィンキィンキィン・・・・
フォークが皿に高速に何回も当たる音がする。
その音に、マリはルークドの方を見る。
「ちょっと、さっきから何あそ・・・・・・フフッ・・・」
マリは思わず、吹き出すと、大笑いをし始める。
ルークドが、フォークを持ったままの手を震わせ、そこから動かせないでいた。
その様子を、例えるなら生まれての子鹿の足だった。
マリは、腹を抱え笑い続ける。
「お、おい、わ、笑いごとじゃ、無いんだが・・・これ以上、腕が上がらないッ!くっ、食えねぇ・・・!」
ルークドは、汗びっしょりで、ひきつった苦笑いを見せる。
ルークド側の感覚として、例えるならこむら返りになったような感覚だった。
キィィン
フォークを皿に落とす。
「くっ!クソッ!ダメだ・・・。」
「ど、どうするの~?」
マリは、笑いを堪えながら、意地悪そうに問う。
「し、仕方ねぇ・・・・・・今回だけだ。食べさせてくれ。」
ルークドは、真剣にマリを見て言う。
「・・・えっ・・・?」
「ほら、あの時の借りを今返してくれ。なっ?・・・・・・マジで・・・頼む・・・みます。」
マリは、そう言われ、鼓動が上がる中、顔をやや赤くして、恐る恐るフォークを掴む。
そう、食べさせてくれということ、所謂それは「あ~ん」だった。
マリの頭の中が、そのイメージであふれる。
それに対し、ルークドは、食べたくても食べられない、目の前にあるのに掴めないといった絶望感と空腹感でいっぱいだった。
それは、すなわち被介護者的な心情で、気持ちの高鳴りはまったくなかった。
ドックン、ドックン・・・・・・
ルークドが口を開けて、待機する。
目で訴えかける。早くくれと、何をそんなにゆっくりなんだと。
ドク、ドク、ドク・・・
フォークが口に近づくほど、マリの鼓動も速くなっていく。
ドクドクドク・・・
口に入る寸前だった。
その寸前で、肉が刺さったフォークが落ちていく。
マリがフォークを手放したのだ。
(あ、あぁぁぁ・・・・あああああああっ!!)
ルークドは、落下していくのをスローモーションで見る。
絶望感溢れる目で、その肉が刺さったフォークを追う。
そして次の瞬間だった。
「できるかぁぁぁぁぁ!!」
マリは、叫んで、皿の肉を手づかみして、ルークドの口へ丸ごとぶっ込む。
「うごっ!!」
ルークドは、突然口に肉の塊を入れられて、生命の危機を感じる。
さらに、マリは、ルークドの分のパンの山を両手に取って、さっきと同じように、口へ押しつける。
「ぐぐごおおぐううごごごおぉ・・・!!!」
ルークドも必死に丸呑みしていくが、マリはえげつなく、詰め込んでいく。
パンの山がなくなるころには、もうルークドは、何をいっているのかわからず、食べ物におぼれる。
パンパン!
マリは、すべてをルークドの口に放り込み、手をはたいた。
「フ、フンッ・・・!」
そして、食器を持って、照れた表情のまま、部屋を出て行った。
その後、ルークドは、眼を炎の色に変え、何とかすべてを飲み込み助かった。




