渦巻く村
ルークドは二人に言われたとおりの品を買って村に帰ってきた。
空はすっかり暗くなっていた。
「探すのに手間取って、結構遅くなっちまった。夕飯の支度に間に合うか・・・ ハァ・・・ハァ・・・」
ルークドは駆け足で村に戻ってきた。
だが、いつもと光景が違う。帰ってきた村は目をおおうばかりの惨状だった。
もはやそれはルークドの知っているデサン村ではなかった。
「な・・・なんだよこれ・・・」
壊され、荒らされた家。そこらじゅうに村人が倒れており、血の海が広がっていた。
ルークドは倒れている一人の村人に駆け寄り上体を起こす。
「お、おい!大丈夫か!?」
だが息はなかった。
他の倒れている村人にも駆け寄り、声をかけて確認するが生きているものはいなかった。
「なにがあったんだよ・・・」
ちょうどその時だった。
「イヤフオオォォォーーー!!!!」
奇声が聞こえた。
ルークドはその奇声のするほうへ急いで向かう。
そこでルークドが見た光景はまさに地獄変相だった。
4人の男が拘束された村民たちを的にストラックアウトをしていたのだ。
「見たかーーー!オレ様のコントロールを!」
一番の大男がそう叫ぶ。すると後ろの手下の3人が
「さすが兄貴ですぜ!すげぇ変化球だぜ!」
「この距離から当てるなんて!やっぱ最高だぜ!兄貴はよよおおぉ!惚れなおします兄貴!」
「アーニキ!よっ!アーニキ!よっ!アーニキ!よっ!・・・」
と騒いでいた。
すると大男が愉快そうに言う。
「ハッ!ハッ!ハッ!ハッ!そりゃあこの覇王「ザンギャク様」だからな!
いずれキングになる男! 一番はオレ様だううううあああああぁぁぁぁ!」
そう叫ぶと土の魔法で岩石の球体を作りだす。
村民(=的)をのせている台も魔法によるもので、村民の足は土の魔法で固定され上半身も岩で固められていた。
さらに大男は手下に指示する。
「おい!次の的を持って来い!」
手下たちが「ヘイ!兄貴!」と言って怯えきった最後の生存者9人を乱暴な扱いで連れてくる。
その時、ルークドが叫ぶ。
「おい!!おまえらなにやってやがんだああぁぁ!!」
すると4人の男はルークドのほうへ顔を向ける。
その中の大男ザンギャクは言う。
「なんだーまだ生き残りがいやがったのか!」
拘束されたアリーとドンゴがルークドの存在に気づき、お互い叫ぶ。
「ルークドーー!逃げてーー!!」
「こいつらやべぇぞ!お前は逃げろ!」
アリーとドンゴは必死に叫ぶ。
ルークドはアリーとドンゴを視認する。
「待ってろーー!今助けてやる!」
ルークドは剣を抜き、男たちに向ける。
体の中が熱く感じ、眼の色が火の色に変わっていた。
(殺されたみんなすまねぇ・・・拘束されたみんな今解放してやるからな。待ってろアリー、ドンゴ!)
「てめえぇぇら!容赦しねーぞ!!」
すると手下の一人が言う。
「どうしやす?兄貴?俺たちがやり(殺し)やしょうか?」
ザンギャクは言う。
「ちっ!めんどくせえなあ!・・・せっかくいいところだったのによお!
・・・・そうだぜえ!最近運動不足だったよなミート。」
ザンギャクは近くにあったゲージに近づいて開きながら、言う。
「ミート!!あのガキと戯れてやりなぁーー!!しっかり遊ぶんだぜええぇえええ!」
「ガルルゥ!!」
その魔物は目が赤く光り、唾液を飛ばすように吠える。
するとゲージからでた魔物は走っていき、勢いよくルークドに突進する。
ルークドは咄嗟にガードするが吹っ飛ばされ、買ってきたものが入った大きめの巾着袋を落としてしまう。
また、男たちから随分離されてしまった。
「くっ・・・・なんて力だ・・・。」
ルークドは立ち上がってその魔物に剣を向け、構える。
お互いの目に相手が映り込む。
間合いをあけ、それはいかにも殺し合いというような命のやりとりの緊張感があった。
魔物はルークドに向かって威圧し、牽制するように吠える。
そこで初めてルークドはその犬の姿をした魔物の正体を把握する。
全身は黒い体毛で覆われ、刃を通さないぐらい固く分厚い肉、獲物の脈を食らいつき一撃で仕留めそうなほどの牙、どうな防具も切り裂いてしまいそうな爪。
そしてその瞳に対象が映し出されると、その対象は死刑宣告されたのと等しいと言われるほどの獰猛性。
それは間違いなく、「ヘルドッグ」と呼ばれる危険種の魔物だった。