定例報告
ノルスは、ホークから紙を受け取ると、広げる。
紙は、全面真っ白で何も書いていなかった。
だが、ノルスは特に驚くことなく、紙に手をかざして波動魔法を使う。
すると、かざした部分から文字が浮かび上がり、そのまま下まで手をかざしていくと、次々と文字が現れて最終的には紙面を埋めた。
「・・・・・・。」
ノルスは、現れた文章をそのまま熟読する。
ケリーとホークはただ黙って読み終わるのを待っていた。
ただ、ノルスの表情はいつもよりも険しいということは2人とも感じていた。
「・・・そうか。」
読み終わると、ノルスは持っていた手からブオッと火を出して紙を燃やす。
紙は空中で焼け溶けたようになって、燃えカス1つ残らないほど一瞬で綺麗に消えた。
その有様は、手品のように鮮やかともいえた。
ノルスは、椅子を立ち上がり、ケリーたちに背後を見せ、窓から景色を見つめる。
場に緊張が続く。
「・・・さて・・・まずは、このことから話そうか・・・。」
独り言のように呟くと、ノルスはケリーに向けて話し出す。
「・・・遂にキングソードが動きを見せたようだ。聖剣は、うちと同じように、騎士の力を持つものを1人引き入れた。」
「・・・!」
その事を聞いたケリーは驚きを隠せなかった様子だったが、すぐに冷静を保とうとする。
「まさか、騎士を引き入れるとは予想外でしたねぇ・・・。自身が、王にもっとも近い存在の騎士にもかかわらず、どうしてそのような事を・・・?」
「それは私にもわからない。だが、その引き入れた騎士は二項対立のようだ。
あいつらしいと言えばらしいが、おそらく、二項対立を王として仕立てるか・・・王座争奪戦まで利用する駒にするつもりだろう。まぁ、私の推測に過ぎないがね。」
ノルスは、話を続ける。
「いいかね。そして、その二項対立が、アスーダ地方に単独進入した。」
「・・・やっぱり仕掛けに来たということですね。二項対立というのは想定外でしたが・・・。」
「あぁ、キングソードが仕掛けてくるのは当初、想定していた通りだ。その事に、関しては引き続き注意してくれ。」
「はっ」
ノルスは、いったん間を空けると、重々しく話し出す。
「さて、次が問題となりそうだ。・・・まだ、具体的にはわからないがマルチデス商会に何やら動きがある。」
「こりゃあ・・・今回ばかりは私も驚きの連続ですねぇ・・・。」
ケリーは、自然と驚きの声が出てしまっていた。
「あぁ・・・まったく厄介な相手だよ。キングテレトリー時代から手を焼かされていた問題だ・・・。」
「・・・・・・。」
(マルチデス商会・・・モアマーニ・ネカという男が経営する武器商人組織。
キングテレトリーの裏社会の代表的な顔とされ、自身の営利のために戦争、地域紛争を引き起こしたとも言われており、幅広い人脈と膨大な資源によって人材を連れてくるという・・・。
実質、モアマーニ・ネカの1人経営で、このたった1人にキングテレトリー軍は、随分と苦労したとまでも・・・。)
ケリーは、マルチデス商会という単語を聞いて、自身の知識を掘り起こすように確認する。
「指令。結局、キングテレトリー軍は、マルチデス商会を潰せなかったのですか?」
「君も知っていると思うが、人手をその時、その時で外から雇う男でね、ネカは。この手法が、ネカの消息を捕まえることを困難にさせた。マルチデス商会の動きを押さえるように包囲網は張れたが、実態を探り、ネカを殺すまではできなかった。最後は、結局潜られてしまってね、完全に消息を絶たれてしまったのだ。」
ケリーは何かを考えていた。
「・・・そうか。キングテレトリー時代は、身動きを取れなかったが・・・今、この分裂してしまった状況なら・・・!」
「きっと、そうだろうね。この3勢力に分裂してしまった今、キングテレトリーの警察権は全体としての統合を失ってしまった。だから、動くタイミングと踏んだのだろう。」
「・・・じゃあやっぱり、趣向的にキングリーパー方に付きますかね?」
「いや、やつは誰かと特別癒着することはない。自身の利益になるかどうかですべてを判断する男だ。私にもどう動くかは予想がつかない・・・と言っておこう。だがそれを・・・」
「えぇ、わかってます。それを掴むのが私の役目・・・ですね?」
「あぁ・・・期待しているよ、ケリー君。それとホーク、今回もご苦労。引き続きこの調子で頼むよ。」
「はっ」
ノルスが、窓から離れ、椅子に座る。
ケリーがそこで思い出したように、言う。
「あっ、そういえば、指令。ホークに、ここに来る際、ルークドたちの動きを監視するよう立ち寄りを頼んだんですよね。」
「おぉ・・・そうだったそうだった。私も歳かね。・・・ホーク。」
すると、ホークは会釈して話し出す。
「無事、3人ともゲンエイガハラ村にたどり着きました。村民の抵抗を受け、ハイコングとも戦闘が行われましたが、それぞれ退けました。おそらく、見た限りですが村の保護下も完了したかと。」
それを聞いたノルス、ケリーはニヤリと笑った。
「順調といったところかね。いい働きだ。」
「私もそう思います。いや~教え子の活躍は嬉しいもんですねぇ~。」
ホークは、続ける。
「そして段階は、最終段階へ。夜明けにヒドウが300人の兵士と10匹のヘルドッグを連れ、森に入っていくのを確認しました。」
「ほう、綺麗に進みますね、指令。」
「うぬ。・・・いやはや、ザンギャク、ヒドウ兄弟は予想しやすい単純な動きで助かるよ。こうしてルークドたちの訓練相手としても利用でき、災禍をもたらし、手を汚してくれる一石二丁のような存在だった。
・・・だが、そろそろアスーダ地方に入った”ゴミ”は掃除しなければならん。もう充分すぎるほどの犠牲を払い、目的の物を手に入れた後だ。後はキングリメイカーの活動を邪魔する存在でしかない。キングリーパーの凶悪兄弟はここで終了といこうか・・・。」
ケリー、ホークは、ノルスのある意味の恐ろしさに圧倒され、黙ってしまう。
「・・・ところで、ライネットの動きはどうかね?」
ケリーが答える。
「見ている限りライネットは、いつも通りともいえますが、やはり心配は隠せない様子ですね。それと変わった行動といえば、(エングランド訓練所内の)図書館に前より行く回数が増えたぐらいですかね。」
「・・・そうか。あの時、演技をした甲斐があったか。」
「ただ、指令。いくらルークドたちが心配でもライネットがあなたの言いつけを破って、独断で村に行くという行動まで移しますかね・・・?」
「・・・五分五分といったところかね。だが、ルークドが彼女を変える存在になり得ると私は信じている。」
ここまで読んでいただきありがとうございました!
これにて「エングランド訓練所ー実戦編」は終了です。
番外編は書こうかなと思っています。




