暗躍者
ルークドたちがゲンエイガハラ村に踏み入れた日の昼。
指令室には、ノルス、ケリー、イーサンの3人が集まっていた。
その場の空気は、いつにも増して緊張感があった。
ノルスが椅子から立ち上がり、背後の大きい窓から外を眺めると同時に何かを探すように見る。
「・・・・・・鷹が飛んでいる。もうすぐ来るはずだ。」
エングランド訓練所の上空には、鷹が円を描くように飛んでいた。
それは、エングランド訓練所に近づく物体を威嚇するような鋭さがあり、まるで外敵からエングランド訓練所を守るかのように監視飛行を続けていた。
「さて、今回はどんな収穫がありますかねぇ~。」
ノルスが、窓から離れてケリーとイーサンがいる方へ向き、椅子に座る。
「フフ・・・やはり、諜報魂が騒ぐかね。」
「えぇ・・・そりゃあそうですとも、ノルス指令。情報は刺激をくれますからね。いつもこの待っている時は、ワクワクとドキドキが止まりませんってもんです。」
ケリーはいつもの軽い口調で、世間話をする。
だが、ケリーのその軽い口調は、諜報という話題ではない時に限られていた。
「イーサン、今回ばかりは君も多少ワクワクする部分はあるんじゃないかね?ルークドたちが無事たどり着いたかどうかという・・・。」
「う~ん・・・逆にそうではなくては、俺の判断、見極めが間違っていたことになる。万が一の事があれば、俺に責任を取らせてくれ、総長。切腹でもなんでもしよう。」
イーサンは、冗談まじりでノルスに答える。
その冗談は、自信の裏返しによるもので、それだけイーサンはルークドたちを信頼していた。
「うぬ。その時は、私が首を切ってあげよう・・・。」
また、ノルスも冗談で返すと、2人はニヤリと笑った。
(名物・・・12の有識同士の迫真の冗談。相変わらず、怖ぇな・・・。)
2人のやり取りは妙に迫力を感じさせ、その場で聞いていたケリーは、そう思うしかなかった。
その時だった。
コン!コン!
扉がノックされた。
それと同時に、イーサンは、スッと戦闘態勢に入り、ノルスはノックした人物に向け波動魔法を使う。
ノルスのキング紋章が光っていた。
送られた波動は、ノックしたであろう扉の前にいる人物の頭の中とノルスの頭の中をつなぎ、両者は脳内だけで会話ができるようになった。
もちろんその会話は2者以外は誰も聞くことができず、イーサンとケリーも同様であった。
2人は、ノルスのキング紋章が光っているかどうかを見て、判断するしかなかった。
そして、ノルスと扉の前にいる人物の脳内会話が始まり、ノルスが最初に投げかける。
「君は、人間か?」
「いえ、私はただの鷹です。」
たったそれだけで会話は終了し、ノルスのキング紋章の発光が終わった。
ノルスは、イーサンとケリーを見て、頷いた。
すると、イーサンが扉を開けに行く。
ガチャ・・・
そこに現れたのは、男でキングリメイカーの兵士の姿をした人物だった。
兵士は、イーサンと一瞬、アイコンタクトで意思疎通すると、指令室の中へと入る。
それと入れ違うようにイーサンは、外に出ていき、扉を閉めると、誰も通さんと言わんばかりに、その扉の前で仁王立ちになる。
兵士は、指令室に入ると、魔法を解き、元の姿を現す。
その元の姿は、女で、全身をボロい布とマントで覆い、さらにはフードをかぶり、スカーフで顔の下半分を隠していた。
全体的な雰囲気としては、放浪者か世捨て人にしか見えない格好で、誰も見ようと、近寄ろうともしない雰囲気を醸し出していた。
その女は、ノルスに近づきながら、フードとスカーフを取ると、顔をはっきりと見せつける。
ノルスは、その顔を見て言う。
「そのようだ・・・君はただの鷹に過ぎない。」
ノルスがそれを言うと、場の緊張は終わり、ホークが一枚の紙をノルスに渡す。
その女の、ホークという名前は、便宜上のコードネームに過ぎなかった。
ホークはキングリメイカーの諜報員で、その存在は、ノルス、イーサン、ケリー、そして一部の諜報員にしか知られておらず、ライネットですら知らない存在だった。
ケリーが、拠点で統合する頭脳的諜報員としたら、ホークは、世界中を動き回って、情報を集める手足のような諜報員だった。
兵士の姿になっていたのは特異魔法によるもので、特異魔法は属性を持たず、戦闘に依らないもっとも幅の広さがある魔法というのが特徴だった。
またホークは鷹匠でありながら、鷹の視界とリンクさせる目を持っており、それによって情報を円滑に集めるエキスパートとも言えた。
だが、情報を得るための手段は問わず、どのように情報を掴んでくるのかは、ホーク本人しか知らず、確かにわかることはキングリメイカーを裏で支える暗躍者という事だけだった・・・。




