共同追跡
「逃してしまったか・・・!」
ヤンは、しまった!という様子でマリに続き、外に出てきた。
体が痛むのか、やや動きはぎこちなかった。
「えぇ・・・そうね。・・・ほんっと誰の責任かしらね~?」
「すまん。ファイ殿との戦闘の負傷が今になって響いたのだ。すぐに立ち上がれなかった。」
ヤンはそこで、あまり残念がっていないばかりか含み笑いをしているマリの顔を見る。
「マリ殿。何がおかしくて笑っているのだ。」
「フフン・・・教えて欲しい?」
マリは優位に立つように自慢げにヤンにほのめかす。
自分の有能っぷりをアピールできる事に、性格上、快感を感じていたのだ。
「もしや、何か策でもあるのか。それなら早く教えてくれ。こうしている間にもどんどんとキャアシー殿は遠くなっていく。」
ヤンは真面目な口調で話す。
いまいち乗ってこないヤンに対し、マリはがっかりした表情を見せる。
2人のテンションの差が表れていた。
「はぁ~・・・実はね。キャアシーが逃げる途中に私の魔法でマーキングしたの。」
「ということは・・・」
「そう。私なら足取りを追えるってこと。だから、どんなに離れても大丈夫ってこと。追っていけば必ず捕まえられるわ。・・・ただ、時間制限はあるけどね。」
「ほう。魔法とは便利なものだな。そういうものもあるのか。」
ヤンは自身が魔法を使わない分、より感心したようだった。
そして2人はとりあえず、メイヒールの家の中に1回入る。
入ると、コールドフリーズの氷はすでになくなっており、メイヒールが頭を抱えながら立ち上がっている途中だった。
ヤンは、床で倒れていたファイをベッドまで肩を貸す。
「肝心な時に・・・ごめんなさい。」
「いいの、いいの。逃しちゃったけど私の魔法でマーキングしたから大丈夫よ。」
メイヒールは、一度マリのスマッジウォーターを経験しているからか、すぐにそのことを理解した。
「さすがです・・・ね。」
少し青白い顔をしているメイヒールは、うっすらと賞賛の笑みをマリに向けた。
必死に笑みを浮かべてはいるが、やはり負傷が完治していないなか今日の一連の騒動だったので、目の下に濃い隈もできており、一見してすぐにわかるほど困憊していた。
「メイヒールとファイはここにいて。私とこいつですぐに追うから。」
「いえ、私も一緒に行きます。」
「でも、その状態で・・・」
「私なら森の地理にも詳しいですし、明かりとして妖精魔法で先導できます。そして・・・何よりもお二方だけでは余計にキャアシーがパニックになるかもしれません。私が何とか落ち着かせるしかないと思います。」
「そう言われれば・・・そう・・・ね。私たちだけじゃ、キャアシーを落ち着かせるのは難しいかも。」
「決まりましたね。」
行動を決めたメイヒールだったが、不安そうにファイがいる方向に視線を向ける。
その時、ヤンはベッドまでファイをたどり着かせ、介護のようにしっかりと横に寝かせ終えた。
「俺は1人で大丈夫だ、メイヒール。キャアシーにはお前が必要だ。夜風に当たった後に、お前の顔を見ればきっとすぐに落ち着くだろう。その時に、そこの2人のことを説明してやればいい。悪いやつではないとな、ついでに俺がそう言っていることも伝えてやってくれ。」
「ファイ・・・。わかりました。任せて下さい。」
「俺とメイヒールのお墨付きがあることを伝えれば、キャアシーも逃げはしないだろう。」
そこまで言うとファイは、マリとヤンにアイコンタクトする。
「後は、お前たちの振る舞い方次第ってとこだな。できるだけ優しい口調で接してやってくれ。キャアシーは元気で活発だが、中身は臆病、繊細といっていい。特に、まだ認めていないやつにはな。頼んだぞ。
あぁ、後、できるだけ笑顔でな。ヤン。」
(拙者にそんな器用なことができるのか・・・いや、やらなければならん。)
(私の初対面のあれで、最悪の印象よね・・・。)
2人は自信満々に頷いて、了承しつつも、微妙な気持ちだった。
「スウウウー・・・後、重大な何かを忘れているような気がするが・・・くっ!体が痛むな。すまん俺はここまでだ。」
ファイは息をすすって何かを思い出そうとしていたが、今は療養することにし、目を閉じた。
「いろいろありがとう、ファイ。ゆっくりと休んで下さい。」
メイヒールはヤンとマリの方を見る。
「では、今からさっそく追いかけましょう。あっ、1分ほど待っていただけますか。」
「えぇ、いいけど・・・。」
「すぐに終わりますので。」
メイヒールはマリの承諾を得ると、なんとその場で白いワンピースを脱ぎ始めた。
「えっ!えっ!ちょっとちょっと!」
マリの困惑の声を聞いて、メイヒールは手を止める。
「ど、どうされました?」
「急に脱ぎ初めてどうしたの!?」
「え、えっ!私はただ、着替えようと・・・この服装のままじゃ、追うのは難しいと思うので・・。」
「・・・も、もちろんそうよね!私もちょうどそう思ってたのよ!あは、あはははは・・・」
するとマリは、鬼の形相でスタ!スタ!スタ!とヤンに近づいて行く。
「ん?マリ殿、きゅ・・」
ヤンがそこまで言いかけた時だった。
フオオォン!!ズザザザザザザザザザザッ!!!ドオーン!!
マリは全力でヤンを家の外へ投げ、そのおかげでヤンは家から100メートル以上地面を引きずり、その先の柵に激突した。
「・・・・ぐ、ぐっぅぅ・・・。」
大きく砂埃を舞わせ、ヤンは地面で倒れていた。
マリは手をパンパン!とはたく。
「これでよしっと。さぁ着替えて。」
「は、はぁ。」
マリは一応、ベッドで寝ているファイを確認する。
(もう寝てるかな?さすがに、けが人だし、そんな乱暴なこと・・・)
「・・・・・・。」
薄目を開いていたファイと目が合う。
「・・・!」
ファイは脂汗をスッーと流し、そっと目を閉じたのであった・・・。
それから1分後、メイヒールの着替えが無事終わり、マリとメイヒールは家の前に立つ。
メイヒールは、白いワンピース姿から、マリと戦った時の服装に着替え、また装備も同様にしていた。
「よいしょっと・・・今は、とりあえず簡易的にこうするしかないわね。後でちゃんと直すから。」
マリは壊してしまった家の扉を立てかけ、コールドフリーズを使い、凍らして、一時的に固定した。
「別にその程度、気にしないでください。」
「もうキングリメイカーの備品同然だから・・・ね。ヤン!いつまで寝てるのよ!出発!!」
ヤンはノロノロと家の前までたどり着いた。
その時の、ヤンの目は何かを言いたげそうだったが、特に何も言わず黙っていた。
そしてマリは気合いを入れるかけ声をする。
「じゃあ、キャアシーの追跡に~エイ!エイ!オー!」
「・・・押忍。」
「・・・がんばりましょう。」
(なんか恥ずかしくなっちゃった・・・。)
マリは、1人だけ浮いたようになってしまい、かけ声を言ったことを後悔したのだった。
そして、マリ、メイヒール、ヤンの3人のキャアシー追跡が始まる。




