獣人戦Ⅳ ~獣化~
獣人は遠吠えを終えると、すぐに四足歩行の体勢に入り、ルークドを視界に入れる。
そして、爪を土に溜めてめり込ませ、そこから一気にスタートを切り、走り出す。
それはまさに獣人流のクラウチングスタートだった。
「・・・!」
そのスピードはさっきまでの二足歩行の時の動きとは比べものにならず、格段に上がっていた。
獣人は、ルークドとの距離を一瞬で詰めると、立ち上がって爪で切り裂こうとする。
(このスピードッ・・・!)
ルークドは紙一重ぐらいで反応し、なんとかサイドステップでかわす。
バギギギイィ!!
爪はルークドの背後にあった木をえぐり取るように切り裂いた。
木くずが飛散し、粉砕されたように倒木する。
(・・・さっきよりも一段ッ!!)
ルークドは、その切り裂かれた木に一瞬だけ目をやり、その獣人の攻撃力を改めて確認する。
切り裂かれた木は、えげつない見かけの断面を露出していた。
腕の力によって砕かれたのか、爪に切られたのか、わからないほどで、攻撃が当たった部分は消えてなくなっていた。
今までのナタの攻撃は、文明的な切り裂き、すなわち綺麗に切断するような攻撃だとしたら、今回の攻撃は自然の荒々しさを表すような攻撃で、獣人がまさに獣化したといってもよかった。
ルークドもそのことを認識して、頭の中を獣人相手から、獣、すなわち魔物相手へと修正する。
それによって相手の動きを読む、剣士の思考を調整したのだ。
ルークドが、地面に足を付けるとほぼ同時ぐらいに獣人の先ほどと同じように爪を使った攻撃が繰り出される。
(・・・速いッ!!)ヅシャアアア!!
ルークドは、獣人のスピードに避けきれず、浅いが爪で切られ、胴体から出血させる。
「・・・くっ!」
痛みを感じる間も与えられず、爪によるブシュン!ブシュン!と風を切り殺す勢いの怒濤の攻撃がルークドを襲う。
ルークドは、スピードのギアを最大限上げて、全力の動きでなんとか、それらを避けていく。
攻撃の動きは見えていたが、最大まで上げたルークドのスピードよりも、獣人のスピードのほうがやや上回っていたので剣士の思考だけでは対処しきれず、半分は勘で避けるしかなかった。
次の攻撃が見えてから動いていては遅かったのだ。
そのギリギリ具合は、遠くから見ると当たっているとしか見えず、スローモーションの状態でようやく紙一重で避けているとわかるほどだった。
「ぐっ!!」
トップスピードで避け続けるルークドに、消耗が現れ、ルークドは避けるのにコンマ以下の時間が遅れた。
爪がかすり、鋭い痛みがルークドをむしばむ。
さらにそのかすりをきっかけに瓦解するように、どんどんと擦り傷を作っていく。
直撃し、切り裂かれるのは目前だった。
(・・・・・・。)
ルークドは、さっきの木の惨状がフラッシュバックする。
(・・・一瞬だけでもこいつのスピードを超えればッ!!)
ルークドの眼が炎の色に変わる。
「・・・!?」
獣人が獣化して初めて驚いた瞬間だった。
ルークドが突然、目の前から消えたのだ。
「はああああああッ!!!」ズドォン!!
「グゴオォ!!」
猛攻の攻撃の嵐の中を圧倒的なスピードのあまり姿を消したルークドは、次の瞬間には獣人の顔の高さに体をねじりながら現れ、顔面に向けてファイアーフィーストの炎を纏った裏拳を放った。
裏拳を振り切ると、獣人の鼻辺りに向けて、全力の前蹴りをする。
「グウゥッ!!」
低いうなり声をあげ、獣人は後方へと吹っ飛ぶ。
その吹っ飛んだ先の木に、ドオオォン!!と強く打ちつけた。
ルークドはその蹴った反動でスタッと着地した。
「ハァ、ハァ、ハァ、ハァ・・・」
ルークドは、一瞬であったが姿を消すほどのスピードを出したせいで、汗を出し、息を切らし、片膝をつく。
また戦闘のダメージも蓄積していた。
「ハァ、ハァ・・ハァ・・・これで終わりだ。」
息が整わない中、立ち上がり、吹っ飛んでいった獣人に向けて、両手を重ね合わせ向ける。
その一撃で終わらせるために。
「フレイムインパクトォォッ!!」
今度は溜め時間なしで、放つ。
だが、1回目使ったときと同じ完成度で、眼の色が変わっている状態だからこそ可能だった。
高密度のエネルギー球体が、ぐったり木に背を寄せている獣人めがけて飛んでいく。
飛んでくるフレイムインパクトを獣人は、朦朧とする意識の中、視認する。
「我に・・ここまで、グウォッッ!!」
獣人は呟いている途中、口から血を吐いた。
「お前の強さ・・・認めてやろう・・・だが・・・!」
獣人は、そう1人呟き切ると、また四足歩行に移る。
そして口を大きく開けて、フレイムインパクトに向ける。
「・・・ヘルフレイム!!」
すると獣人の口の中から青い炎の球体が勢いよく発射された。
ドオオオオオオオオオオンッ!!!
フレイムインパクトとヘルフレイムの球体同士が激突したことで大爆発を起こし、その衝撃で森が揺れた。
遠くの鳥たちもみんな起き出して、飛び出すほどだった。
さらに消し飛んだ範囲はより大きくなり、上空から見ると、そこだけ不毛の大地になっており、至る所の地面で青とオレンジの炎が燃えていた。
衝撃と風圧で両者ともかなり後方に飛ばされてしまい、距離にして300メートルほど空いてしまった。
「・・・・・・・。」
ルークドは変わり果てた土地でうつぶせで倒れて、傷口から血を垂らして血だまりを作っていたが、指がピクっと動いたのだった。




