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キングテレトリー  作者: フクツノタロウ
エングランド訓練所ー実戦編
77/280

騒ぎ

「クゥオオオオオオオオオオン!!」


その獣人の遠吠えに呼び起こされるようにして、キャアシーの目が覚めた。

ゲンエイガハラ村にあるメイヒールの家まで聞こえたわけではなかったが、何とも偶然だった。


「・・・ニャ・・・。」


キャアシーがまずベッドから起き上がると、視界に入ってきたのはベッドに腰掛けたまま、机のほうを向いているファイだった。

包帯を巻いてはいるが、その目の前にいるファイを見てキャアシーは安堵感に溢れるばかりだった。

なんせ、門であんな出来事があったため、無事でいるファイを見ただけでも、自分が失神している間にすべての事態が丸く収まったのだとわかったからであった。

その丸く収まるとは、メイヒールを捕虜にして、さらに熱湯を自分にかけたとんでもない悪女と武闘派スキンヘッドの侵入者の2人をファイたちがやっつけ、ゲンエイガハラ村に迫った危機がもう去ったということだった。

キャアシーはその時、そう思ったのだ。


そして起き上がったキャアシーの気配にすぐ横に隣接するベッドのファイや椅子に座って背中を向けていたメイヒールらが気づく。

メイヒールはベッドの方に近づいてくる。

ちょうど、近づいてくるメイヒールが遮る形になり、キャアシーからは机を囲んでいたヤンとマリの姿は見えなかった。


「キャアシー!目覚めましたか!・・・よかった・・・心配しました・・。」


メイヒールのその言い方は安心から涙が溢れんばかりかのように、心のそこからの安堵が見て取れた。

そこからキャアシーをギュッと抱擁した。

メイヒールは胸中にキャアシーの顔をうずめて目をつむり、またキャアシーはメイヒールの心臓の鼓動や体温をただ感じて、安心を確認していた。

その状態で数十秒間が過ぎ、お互いに詰まるところがあったのか、相手を感じたまま離れようとしなかった。


「そ、そろそろ苦しいニャ・・!い、息ができないニャ!」


「あっ!ごめんなさい・・・!」


解かれたキャアシーの顔は、胸に埋められてか、それとも照れなのかはわからないが、頬が赤くなっていた。

横で見ていたファイも視線をあえて、外していた。

ちょうど、メイヒール、ファイ、キャアシーの3人が傍に集まった形になり、机を囲むマリとヤンの2人と対比が構成されていた。

マリとヤンはその間も空気を読んだのか、じっと見るだけで口は挟まなかった。


「体に痛いところはないですか?」


「平気ニャ。ちょっと気絶してただけに過ぎないニャ。」


キャアシーは横を見る。


「それより、ファイこそ、その体大丈夫かニャ?」


「・・・まだ動くのは厳しいが、問題はない。数日安静にすれば完全に治るだろう。メイヒールが治療してくれたおかげだ。」


それを聞いたキャアシーはいつものテンションに戻ってきていた。


「そうかニャ、そうかニャ。・・・ニャ~!それにしても2人には本当に感謝ニャ。まさか我が輩が働くまでもなく、敵を倒し、村を守るなんてすごいニャ!ヒーローニャ!」


キャアシーがその事を言うと、メイヒールとファイは顔を見合わせた。


「キャアシー。実はあのお二方は敵ではないのですよ。」


「・・・ニャ?どういうことニャ?」


「今、紹介しますね。」


そう言うと、メイヒールは遮ってしまっていた自身の体を横に移動した。

そのことで、キャアシーからちょうどマリやヤンがいる机のところが見えるようになった。


「・・・ニャ!!!」


その光景はキャアシーにとってはあまりに衝撃で一気に恐怖へと変えさせた。


「こちらの方がヤン。そしてその横の方がマリといいます。」


すると、メイヒールがマリとアイコンタクトをして、何かの意思疎通した。

メイヒールがちょっと後ろに下がると、マリが椅子から立って、キャアシーの前まで改まった様子で歩いて行く。


「・・・ニャ・・・ニャ・・・ニャ・・・。」


近づいてくるマリにキャアシーは怯えきり、ベッドの上を後ずさりしていく。


ド、ド、ド、ド


そしてマリが床の音を鳴らしながらベッドの前まで来て、目の前に立つ。

その時にはすでにキャアシーの目のハイライトは消えていって、意識が正常ではなかった。


「私、キャアシーにひどいこと言って、その上、熱いお茶もかけちゃったこと、謝るわ。ほんとうにごめん!!」


マリは自分にできる精一杯の誠意を込め、頭を下げた。

だが、キャアシーの耳にその言葉はまったく入っていなかった。


マリが頭を下げた状態のまま数秒ほど経った。

全員ただ黙って、その状況を見つめ、キャアシーの反応を待っていた。


「・・・?」


あまりの反応の無さにマリは頭を上げる。

キャアシーの目からはハイライトは完全に失われており、怯えきって、恐怖一色だった。


「・・・お、おーい、キャアシーさん?・・・ちょ、ちょっと・・・ちゃんと聞いてる?」


マリは恐る恐る反応を伺う。

その時、キャアシーの異変をメイヒールは感じ取る。


「キャアシー?ど、どうしまし・・・」


メイヒールが前に出て近づいていく。

その時だった。


「ニャアアアアアアアアアアアアアア!!!!」


キャアシーが壊れた叫びを上げる。

その叫びはその場の全員を驚かせた。


「ニャアアアアアアア!!」


ゴツン!


「キャッ!!」


キャアシーは叫びながら、ベッドの上から跳ねて飛び出し、メイヒールと頭をぶつけた。

その衝撃でメイヒールは後ろにドスン!と尻餅をついた。

そして床に着地したキャアシーは、四足歩行の状態になって、激しい動きで駆け始める。

そこまで一瞬の出来事だった。


「えっ!ど、どうなってるの!!」


「キャアシー!!落ち着け!こいつらは敵では・・・・・・ぐっ!!」


ファイはキャアシーを止めようと、立ち上がろうとするが体の激痛でベッドからまったく動けなかった。

マリはその時、状況がようやく把握できた。


「ヤン!!そっちに行く!!キャアシーを止めて!!」


キャアシーは机があるほうへ高速で駆けていく。

ヤンは、その急な事態に動作が遅れた。


ドン!ガシャーン!!・・パキーン!!


キャアシーは机の上にダイブするように飛び込み、机の上でのたうちまわった。

そのせいで、湯飲みや、急須などが床に落ちて、割れた。

その時、ようやくヤンが反応できた。


「キャアシー殿よ落ち着くのだ!」


ヤンはキャアシーのしっぽを掴んだ。


「ニャアアアアアアアアアア!!!」


だがキャアシーの抵抗力は凄まじかった。


「うおおっ!!」


ドーン!!


ヤンの顔に猫パンチが炸裂し、そのよろめいたせいで椅子に足を取られ、背中から床に倒れた。

しっぽを離してしまった。


「くっ!しゅん!!」


だがヤンも瞬を使い、即座に手を伸ばして、しっぽを掴む。


(この、痛みはっ!!)


その急な激しい動作を行ったことで初めてヤンは自覚した。

ファイとの戦闘での肋骨が折れたところが鋭くピキン!と痛むのだ。

その痛みによって、力がわずかに緩んだ。


「ニャアアアア!!」


その隙でいったんは逃がす。


「はああっ!」


ヤンは何とか体勢を前のめりにしてもう一方の手でしっぽを掴む。

しかし、キャアシーのスピードのほうが速かった。


「うおぉ!」ドスン!!


ヤンはしっぽの毛を何十本だけを掴んで引き抜いた結果になり、勢い余って顔面から床に転んだ。


マリはファイとメイヒールを一瞥した。

ファイは大量の汗を掻き、ベッドからずり落ちる形で膝をついていた。

メイヒールは、さっきのキャアシーとの頭をぶつけたせいか、立ち上がれないでいた。

おそらく、マリとの戦闘で負傷した、まだ包帯も巻いている頭にぶつけられたせいで、痛みからめまいを起こしていた。

マリが取るべき行動は明らかだった。

キャアシーに手の平を向け、魔法を放つ。


「・・・避けた!?」


マリが咄嗟に取った行動はコールドフリーズを放ったことだった。

何回も使うが、コールドフリーズはまったくキャアシーを捉えられなかった。

家中の至る部分が凍ってしまった。


パリーン!!


そしてキャアシーはコールドフリーズを何度も避けた後に窓へダイブし、外へ飛び出た。


「まっずい!」


マリも急いで扉へ駆けていく。

同時にヤンに指示を送る。


「ヤン!しゅん!」


「・・・・くっ!!」


ヤンは今頃になってファイとの戦闘のダメージの痛みがきて、すぐには立てなかった。


「・・・もう!役立た・・・ずッ!!」


マリは扉に向かってダイブしながらそう言い放った。

顔面強打で、起き上がれないのかと思ったようだった。


マリのダイブは扉をぶち壊し、扉を下敷きにしてマリはローリングで着地し、外へ出た。

ちょうど片膝をついた形になった。


すでにかなりの距離があるキャアシーに対しマリは、片手の手の平を鉄砲の形にして、向ける。


「即・席・・だけ・・ど!!」


片目を閉じて、四足歩行でかなりのスピードを出して駆けていく後ろ姿のキャアシーに狙いをつける。


「ホライズンスナイパー!!」


すると、マリの人差し指から水が1回は大きな水滴になると、そこから細く高速に弾丸のようにキャアシーへ一直線に飛んだ。


ビチャア!


それは見事、キャアシーのお尻に命中して、マリの魔力がキャアシーの体内にしみこんだ。

そのやさしい着弾具合はキャアシーに対する攻撃ではないことは明らかだった。


キャアシーはそのまま続けて門の方向へ駆けていき、どんどんと遠くなっていく。

だが、マリはまったく追いかけようとはしなかった。


「マーキング完・了~っと!・・・ハァ・・・後は好きなだけ逃げて落ち着きを取り戻してくれたらいいけど・・・。」












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