強さ
木に、もたれたままのルークドの頭の中には、訓練最終日、ライネットと真剣勝負を終えた後のイーサンとの立ち話の光景が浮かんでいた。
「どうやらライネットとの訓練をやりきったようだな。よくやった。」
「いや~かなりキツかったぜ~。途中、何度死ぬかと思ったことか・・・。」
「フッ・・・軽口が言えるなら大丈夫そうだな。」
ルークドは割と本気で言ったつもりだったが、イーサンは冗談と捉えたようだった。
「そのおかげで剣には自信がついたんじゃないか?」
ルークドはおもむろに自分の手の平を見る。
「そう・・・だな。魔法に頼らなくても戦えるぐらいの自信はついた。訓練前の俺が子供のチャンバラのように思えてくるほどだ。」
「そうか、それは大きな進歩だな。訓練の甲斐があったというものだ。」
「あぁ、これもキングリメイカーに来たおかげだ。きっちり結果で恩返しさせてもらうぜ!」
ルークドは張り切った様子で笑みを見せる。
「大いに期待している。」
そんなルークドにイーサンは感情が入った返事をした。
「話は変わるが、俺から戦闘についてのアドバイスを1つ送ろう。」
イーサンはいつもの険しい雰囲気を醸し出す。
その切り替えの速さは、軍人気質が出ていた。
ルークドも思わず真剣に聞き入る体勢にスッと入ってしまう。
「訓練前と逆のことを言っているように聞こえるかもしれんが、力で押し切ることも大切だ。」
訓練前の総評ではごり押しを指摘された。だが今度はごり押しが大事だと言われ、その矛盾した内容にルークドは困惑する。
「・・・えぇっ?力でごり押しするという危険なスタイルを矯正するために今回の訓練を・・・」
ルークドがそこまで言いかけたところでイーサンは制止する。
「まぁ待て。先に聞いてからにしろ。」
ルークドは黙り、イーサンは話を続ける。
「つまり俺が言いたいのは相手や状況によって戦闘スタイルを変えろということだ。・・・今回のライネットとの訓練でお前はスマートな戦い方を身につけた。相手の動きを予測、攻撃の切り口を考え、回避重視。
これは戦闘において洗練された1つの極まった戦い方だろう。
だが、この戦い方は別の視点から見ればどこまでも消極的なスタイルとも捉えられるし、相手によってはこのスマートさが自身をも苦しめることになってしまう。
あまりに1つの戦い方にこだわると、それが通用しない時に、ジレンマが発生してしまうということだ。
そこにつけ込まれてしまうと実力的には劣っていなくても信じられないほど相手が強く感じる。」
(うーん。そうなのか・・・?でもイーサンが言うことだし・・・きっとそうなんだろう。)
ルークドは考えながら聞いていたが、あまり納得はできない様子だった。
「実戦はルール、限定、条件などない。その時その時で自分の強みをそこに合わせて応用しなくてはならない。だから俺は、かつてのお前の戦い方を捨てろまでとは言ってはいない。」
(魔法ガンガン、剣ブンブン、後先考えず特攻する昔の俺が実戦で役に立つ・・・?)
ルークドの頭は沸騰していた。理解というより経験不足からくる実感のなさだった。
「長くなったが・・・今言ったことを忘れるな。実戦の中でいずれ意識せざるを得ない時がくるだろう。」
「あ、あぁ・・・ありがたくアドバイス受け取っておくよ。」
イーサンのそのアドバイスは訓練で得た力を気に入っているルークドの心を看破し、釘を刺すかのようだった。
「ではな。」
イーサンが背中を向けて立ち去ろうとする。
「あっ、ちょっと聞いていいか?」
「ん?なんだ。」
「12の有識、フロスト・イーサン。あんたのその強さは一体どこから・・?」
イーサンは少し目を下に向けて迷っているような様子を見せ、数秒ほど間が空いた。
「・・・俺は元々キングテレトリー軍の兵卒上がりだ。つまり長年の鍛錬、修練の結果に過ぎん。俺に才能や生まれ持ったものなどない。さらに言うなら特別な存在でもない。」
そのイーサンの言葉は、本物のそれらを知っているからこそ断言できるような説得性があった。
そして、イーサンはルークドをまっすぐ見つめる。
「だからこそ、お前に期待が上がる。キングの座に近い者としてな。精進しろ、没落の騎士・・・。」
「ど、どういうことだ・・・!?」
ルークドは最後の、自分に言われたことがまったくわからず、意味を聞こうとしたが、イーサンは振り返らずに立ち去って行った。




