獣人戦Ⅱ ~苦戦~
ルークドが起き上がろうとした時にはすでに獣人はドスン、ドスン、ドスンといった迫力のある歩幅で間を詰め、その勢いのまま、ナタで攻撃する。
ガキキィン!!
ルークドは、その攻撃を避けようとせず、また剣でガードをして真正面から受け止めてしまった。
ナタ自体は防げたものの、ガードした時の衝撃で吹っ飛び、後方の木に背中を強打する。
そのダメージにより、木に背中を擦ってかがんでしまう。
(クソッ・・正面から向き合うのはまずい・・!)
ルークドがそう僅かに考えた瞬間にも、獣人は間を詰め、ナタで斜めに一刀両断のごとく攻撃する。
「・・・!!」
ルークドはなんとか低い姿勢のまま、横にローリングして獣人の脇の下をくぐり抜けるようにして、その攻撃をかわす。
空振りとなったナタの攻撃は、木をそのままバスンッ!!といった感じで、切り捨て、そのまま木は綺麗に切断されて倒木する。
それは、ルークドがローリングから体勢を立て直したと同時だった。
獣人は外したことに気にも止めず、ルークドに迫り、ナタで連続的に攻撃を繰り出す。
反撃ができないルークドに対して、獣人が勢いづいた瞬間で、そこからは一方的な展開だった。
シュッシュッと振られていくナタをルークドは、ただギリギリで避けるか、剣に擦るようにぶつけてかろうじて流すしか防ぐすべがなかった。
しばらく、ブオォン!とナタが風を切る音と、ガキィン!と剣とナタが激しくぶつかり合う音だけが響いた。
それは客観的に見ると、互角に戦っているように見えたが、当事者たちはそうは思っていなかった。
ルークドは避けて防ぐのが精一杯で、一度も攻撃を出せない。
(このままじゃ、ジリ貧だ・・・!)
ルークドは、ジリジリと後ろに下がり、ぎりぎりで避けながらも距離を取ろうとするが、獣人はそうさせなかった。
獣人もまた、ジリジリと詰め寄りながら、ナタで攻撃をしていく。
「その程度か!!人間!!」
「くっ!!」
獣人はさらにプレッシャーをかけると、2本のナタを同時にそろえて、高いところから振り下ろす攻撃を繰り出す。
それは一番最初にルークドがガードしてガード仕切れなかった攻撃だった。
「スモークスパークス!!」
獣人がその攻撃を、繰り出そうとした瞬間、ルークドは狙っていたかのようにスモークスパークスを使い、辺りを黒い煙幕に包む。
その隙を使い、後ろに大きくバックステップしようとしたときだった。
ナタの刃が、黒煙をも切り裂き、ルークドに迫ってくる!
「っ!!」・・ガキィン!!
スモークスパークスで意表を突いたのにもかかわらず、振り下ろした攻撃は止まらなかったのだ。
バックステップ途中であったルークドはなんとか、剣でガードしたが、その受け止めた衝撃で、後ろに飛ばされた。
そしてそのまま、後方の木にぶつかるが、木がルークドを受け止めきらず、バキィ!と割れて、ルークドはそのまま、激しく地面に激突した。
もちろん、受け身などできなかった。
獣人は黒煙の中にいながらも、そんなルークドを追撃する。
「サイクロンブレード!!」
サイクロンブレードはスモークスパークスである黒煙を一気になぎ払い、ルークドにそのまま飛んでいく。
「・・・!!」
ルークドは起き上がり途中で、迫るサイクロンブレードを視認する。
「・・ファイアーインパクト!」
サイクロンブレードの威力を見たルークドはガードすることなど頭になかった。
だが、避けることも間に合わないと思ったルークドは、魔法をぶつけることにした。
バッフウウウン!!
サイクロンブレードとファイアーインパクトは衝突し、その瞬間とてつもない風速と風圧を伴い、炎を含んだ風が崩れるように吹き荒れた。
お互いの魔法の技が相殺された形になった。
「ファイアー・・・・ブロウ!!」
ルークドはそんな風圧を片目を開けて耐えながら、さらに魔法を発動する。
距離が取れた今、展開を変える時だったのだ。
長く溜めて、ファイアーブロウの火力を上げる。
なので、火の球体はいつもの1.5倍ほどふくれあがっていた。
(これだけの火力なら・・!)
「燃え尽きろおおぉっ!!」
そしてルークドは長く溜めたファイアーブロウを渾身の叫びと共に放つ。
獣人は迫り来るファイアーブロウを視認すると魔法を発動する。
「暴風の目!!」
一瞬にして獣人の体を中心に風が巻き上がると、ファイアーブロウである火の球体を打ち消すように纏い始める。
ファイアーブロウが獣人に近づけば近づくほど、風の纏いは多くなっていき、最終的にはファイアーブロウは風のブワッ!という風圧になるのと共に消えた。
ファイアーブロウを完全に打ち消して防いだのだ。
そして獣人の周りの風も消えた。
(あの火力が・・・打ち消されただとっ!!)
それを見ていたルークドは衝撃を受けた。
獣人自身が触れずとも、ファイアーブロウを打ち消してしまったのだ。
その見事な打ち消し具合は、ノルスのマジックルースンを思い起こさせた。
魔法の火力や威力に自負のあるルークドにとって、それを易々と打ち消されるほど、動揺することはなかった。
口を開けて、驚いたままのルークドに対し、獣人は動きを止めない。
両方のナタを逆手持ちに持ち直し、ちょうどナタの刃が地面へ向く形になった。
すると獣人は、足をめり込ませるように踏ん張る。
「獣牙・・!」
そして踏ん張った体勢から高く跳躍する。
それは6メートルほどの高さで、まるでワイヤーがついているかのように空中を滑空し、そこからルークドに向けて、落下し始め、牙であるナタをぎらつかせる。
ルークドとの間合いをジャンプで一瞬で詰めるその技、「獣牙」は陸上競技の幅跳びのようだった。
「はっ!!」
ルークドは呆気にとられていた状態から次の動作に移る。
「ファイアー・・・(ダメだ!間に合わないっ!)」
ファイアーインパクトを獣人にぶつけて、飛び込んでくる獣人をはたき落とそうとしたが、獣人の落下のほうが速かった。
中途半端なファイアーインパクトはルークドの手に残る。
(どうする・・!!)
その時、ルークドは死を感じとり、極限の集中状態に入る。
視界が白黒のスローに見え、そのスロー状態はルークドに思考をもたらした。
(この攻撃を剣でガードは無理だ・・。)
強い攻撃に対し、何度もガード仕切れなかったことが浮かび上がる。
パワー負けをしていることは理解していた。
(この中途半端なファイアーインパクトをぶつけても、はたき落とすのは無理だ・・。)
それはさっきのスモークスパークスを食らっても平然として、まったくひるまなかったことが浮かび上がる。
獣人のその屈強さゆえに、攻撃に対し、攻撃をして、結果的に防御するというのはルークドには無理だった。
(避けるのは・・もう間に合わない・・・!)
その状況を超えた結果が見えてくる。
(俺はこいつを倒すことができないのか・・・?)
(いや・・・ここまで苦戦するのは実力の差じゃ・・ない・・!!戦い方だ!!)
ルークドはそれにたどり着いた瞬間、自分の視界の色が戻ってくる。
そしてすぐにそこから次の動作に移る。
「はああああぁぁぁ!!!」ドオオオォォン!!
「なにっ!!」
なんとルークドは手に残った中途半端のファイアーインパクトを自分の心臓付近にぶつけた。
その爆発によって、ルークドは後ろに大きく吹っ飛んでいった。
そして獣人の「獣牙」は外れてグロテスクにえぐるように2本のナタは地面へと深く突き刺さった。
突き刺さったナタを抜くこと無く、獣人はルークドのその突然の行動に意味がわからず、吹っ飛んだルークドをただ凝視する。
「まさか・・避けるためにわざと自分にぶつけたとでもいうのか。」
ルークドは吹っ飛んだ先の木にぶつかってもたれており、顔は下を向いていた。
また心臓周りは、ファイアーインパクトによってダメージを負い、煙がでていた。
だが、その自殺行為とも取れる行動は、獣人の「獣牙」をよけることができたうえ、ルークドの反撃の始まりの契機だった。




