挫折
「なんだ・・・ここは・・・どこなんだ・・。」
目の前は吸い込まれそうになるほどの真っ暗闇だった。
ルークドは前に歩き始める。
「何かがある。」
何であるかまではわからない。
さらにそれに近づく。
「俺の剣?どうしてこんなところに・・・」
ルークドが幼い時から愛用している剣が暗闇に刺さっていた。
(俺がまだ赤ん坊の時、デサン村で捨てられていたらしいが、この剣も一緒に捨ててあったとドンゴが言ってたっけ・・・。)
そんなことをふっと思うと自然に剣を抜こうと体が動いていた。
触れた瞬間に真っ暗闇が炎へと変わり、空間は火の粉だらけになる。
同時に熱風でルークドの体が吹っ飛ばされた。
「ぐおおおおおぉぉぉ!!熱い!!全身がぁっ!・・・熱い・・焼ける・・はぁ・はぁ・・・。」
ルークドは炎で体中が燃やされているような感覚だった。
その感覚は全身が痛みというのを超えて血液が沸騰、いや体が溶ける感覚だった。
そして炎の中から、ガシャ・・・ガシャ・・と重い鎧の足音が聞こえる。
(こっちになにか近づいてくる!!)
ルークドは気配を感じながらも動けなかった。
炎の中から現れたのは鎧と思われるものだった。
「キング」の鎧に似ていたが、全身炎の色だった。
鎧がルークドに向かって語りかける。
「怒りを力に変え、ナイトの力が壊れる時、真価を発揮する。それが没落の力。」
「はっ!!!」
ルークドは汗びっしょりでベッドから上体を起こした。
「はぁ・・はぁ・・はぁ・夢か・・。」
ルークドの視界にまず入ったのは心配そうな表情をしたアリーだった。
「ものすごいうなされてたけど大丈夫?」
アリーの顔はやや青白かった。
「あぁ・・大丈夫だ。・・・あ!それよりドンゴはどうなった?無事なのか!?」
「お父さん?父さんなら無事よ。ノルスさんがすべての事の次第を私に話してくれたわ。気絶させられただけだったみたいよ?
あと伝言で”なにやら誤解されてしまったようだ。騒ぎを起こして申し訳ない”と言ってたわ。」
アリーはため息をつく。
「もーこれも父さんのせいだわ。まさか本当にいきなり襲いかかるなんてー。」
ルークドは胸をなでおろした。
「そうだったのか・・俺ももっと冷静になって確認すべきだったな・・悪い。」
「ううんいいの。ルークドがそこまでして父さんを守ろうとしてくれたのがうれしかったよ!」
アリーは笑顔を見せた。
その笑顔の対照的にルークドは悲しかった。
(守るといったそばからこの様だ。もし殺意がある相手だったなら俺たちは確実に殺されていた。
正直、強さに自信はあった。
長年狩りをやってきたし、火の魔法も使える。危険種だって討伐してきた。そしてなにより村で一番強く信頼されてきたのに・・!俺は・・・!)
ルークドは情けなさが胸に溢れて自分の無力さを初めて実感する。
「なぁ・・・俺思うんだ結局俺は弱いんだな・・て。こんな大陸の隅っこの小さな村でさ。
雑魚の魔物相手にいい気になってたけどさ・・・結局は御山の大将だったんだよ。
俺にはなにも守れない・・・なにも!!・・。」
ルークドがそこまで言いかけていた時だった。
アリーは無言でルークドを抱擁した。
ルークドはそれ以上なにも言えず、ただアリーの胸のなかでただ涙を流すしかなかった。