聞いて、見る者
「このゲンエイガハラ村という場所について今からすべて、あなたに話します。」
メイヒールがそう言った時だった。
ドタン!という音がし、メイヒールの家の扉が勢いよく蹴られ開いた。
「やっぱりその女、外の人間だったかニャ。・・・メイヒール。これはどういうことニャ?」
扉を開けたのは、家に来る途中で会ったネコの外見的特徴を持った少女であるキャアシーだった。
キャアシーはその言い方、表情から明らかに苛立ちを押さえきれない様子だった。
そんな様子でメイヒールをにらみつける。
「キ、キャアシー!?・・・・・・誤解です、こ、これはっ!!」
メイヒールは驚きのあまり、椅子を立ち上がり、キャアシーを見つめる。
マリも急いでフードをかぶったが、遅かった。
「メイヒール、ごまかそうとしてももう遅いニャ。我が輩聞いちゃったニャ。それにその女の顔も見たところエルフなんかじゃないニャ。さっきのは全部我が輩をだますための茶番だったかニャ?」
キャシーは腑に落ちなかったのでメイヒールとマリの2人をこっそり後をつけ、扉の前で聞き耳を立てていたのだった。
そしてキャシーは棒立ちしたままのメイヒールに迫るように近づく。
「ゲンエイガハラ村に外の人間を入れるなんて何を考えているニャ!!?この場所のみんなを売る気かニャ!!?」
「ち、ちが・・・」
「何が違うニャ!!!禁断の掟を破ったニャ!!外の人間から守るため、そして我が輩たち”半端物”が安心して暮らせるようにってメイヒールも言ってたニャ!!」
メイヒールは言葉に詰まり、かなりの動揺が見て取れた。
「今まで、森に侵入してくる外の人間たちを撃退してきたのは何だったかニャ!!守ってきた立場のメイヒールがこんなことするなんて、ファイやグールフはどう思うかニャ!!!」
キャアシーは激しい怒りをメイヒールにぶつける。
マリはその怒る理由はわからないためフードをかぶった状態で冷ややかに見ていた。
メイヒールは目を泳がせ、何も言えずにわずかに震えていた。
「・・少し落ち着いたら?」
マリはフードをとって、キャアシーに向かって言った。
キャアシーの瞳孔は開き、耳、しっぽの毛は逆立っていた。
「黙ってろニャ!!」
大声でキャアシーはマリに向けて言い放った。
マリはそれに少しムッと怒りを感じる。
「私はあなたが何でそんなに怒ってるのかは知らないけど、これからメイヒールと話があるから今すぐ出て行きなさい。」
「何の話ニャ!!人身売買に関する値段の話かニャ!!?」
「はあぁ?言ってることの意味がわかんないんですけど。それより部外者は今すぐここから出て行って!って言ってるの。」
「部外者はそっちニャ!!我が輩たちを一体どうする気ニャ!!?奴隷として売り飛ばす気かニャ!?それとも人肉にするつもりかニャ!?」
「あーもうニャア、ニャアうるさい。普通にしゃべってよ。」
「どこの手先ニャ!!?お前のボスは誰かニャ!?どうやってこの場所を突き止めたかニャ!?答えるニャ!!?」
「うるさいって・・言ってるでしょ!!」
マリは大声で怒鳴りながら、湯飲みに入った熱々の樹木茶を勢いよくキャアシーにぶっかけた。
「ニャアアアアアァァァァァァァ!!!熱いニャ!!熱いニャアアア!!!」
キャアシーは断末魔のように声を上げ、その熱さでジタバタとしながら床に転がり、苦しんでいた。
火傷したといっても過言ではなかった。
「キャアシー!!」
メイヒールも驚き、駆け寄ろうとする。
「どいて!!」
マリが咄嗟に言うと、手を苦しんでいるキャアシーに向けて魔法で水をぶっかける。
バッサーン!とバケツに入った水を浴びせるようだった。
キャアシーはそのおかげで、もがくような動きは止まり、大の字になって息を切らし、ぼんやりと天井を見つめていた。
そこまで一瞬の出来事だった。
「なんてことをするのですか!?」
メイヒールは怒りを露わにしてマリに強く当たる。
「手がすべちゃったもん。仕方ないでしょ。でも、水はかけてあげたし、大丈夫でしょ。それにちょうど頭も冷えてよかったんじゃない?」
マリは澄ました態度をとる。
メイヒールは心配そうにキャアシーに駆け寄る。
だがキャアシーは制止するようにジャスチャーし、すぐに起き上がる。
「・・・・大丈夫ニャ。」
立ち上がったキャアシーは弱々しい声で呟く。
「そうだニャ・・・メイヒールは何も悪くないニャ。きっとこいつに脅かされて、ここまで連れてこされて情報を吐かされていただけニャ。メイヒールは勝てなかっただけニャ。その証拠がその頭の包帯ニャ。メイヒールは必死に抵抗したに違いないニャ。」
キャアシーはメイヒールの方を向く。
「メイヒールごめんなさいニャ。・・・ついつい反射的に勘違いしてしまったニャ。」
キャアシーは幸薄そうな笑顔を浮かべる。
その笑顔の裏に、心には恐怖、おびえがあった。
マリの残虐性、暴力性に過去のトラウマを呼び起こされていたのもあった。
そしてキャアシーはマリを憎き目で見る。
それは今まで積み重ねたきたようなものを含む憎みだった。
マリは机にひじをついて、冷えた顔で目を合わせた。
「でも大丈夫ニャ。このゲンエイガハラ村は絶対守るニャ。メイヒール1人だけじゃないニャ。」
キャアシーは覚悟の目に変わり、マリに向かって飛びかかるようにジャンプする。
それはあまりにも突然のことだったので、メイヒール、マリは反応が遅れた。
パン!
マリに向かって猫だましだけをすると四足歩行になって開いた扉から外に出て行った。
その速さは、かなりのもので消えたようだった。
マリは猫だましで目をつぶってしまった。
そして家の中にはマリ、メイヒールの2人だけになった。
嵐が去った後の静けさだった。
「・・・追いかけないの?」
呆然と立ち尽くしているメイヒールに向かってマリは問いかけた。
「・・・・すぐにでも追いかけたいところですが・・・今は先にあなたに話さないと、もっと大きなことになる気がします。・・誤解の連鎖が止まりません。」
メイヒールは悲しい表情をしながら開いていた扉をバタンと閉める。
「・・賢明な判断よ。」
「・・・・・・。・・私のとった行動は本当によかったのでしょうか・・・。正直今ので、あなたに対する揺らぎが増えるばかりです。」
メイヒールは、どこか虚ろで悲しい目をしていた。
「まぁ・・・とりあえず、先にこの村について教えてくれる?まずそれを聞かないと、私もどうしていいかわからないしね。」
マリは安心させるようにやさしく、語りかける。
2人は目を合わせた。
「・・・・・そうですね。わかりました。」
「あっ、悪いけどお茶もう1回いれてくれる?派手にこぼしちゃった・・・。」
マリは何とか雰囲気を変えようと、照れるように微笑んで言ったのだった。
一方、メイヒールの家を高速で飛び出したキャアシーは四足歩行状態で走り続けていた。
それはまさにネコの走りだった。
(一瞬の隙を作ってなんとか逃げることに成功したニャ!追いかけてもこないし、完全に決まったニャ。
メイヒール待ってるニャ・・!今、ファイとグールフを呼んで来るニャ。グールフは森をさまよっているから時間はかかっても・・・ファイなら門の前に・・!!)
キャアシーは捕らわれ状態にあるメイヒールを助けようと奮闘していた。
一目散に門まで走る。
通りすがった住民に声をかけられても、気にも止めず走り続ける。
そしてしばらくゲンエイガハラ村の広大な敷地を走り続けると門が見えてきた。
(見えたニャ!)
そこからどんどんと門に近づくときだった。
ドゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴオオオオォォォン!!!
丸太の破片が飛散し、同時に衝撃と風圧、砂埃がキャアシーと衝突する。
門が破壊され、穴が開いたのだ。
「ニャアアアアアアアア!!」
キャアシーは風圧で後ろにでんぐり返しをするように何回も地面で回転し、飛ばされた。
「ニャッ!ニャッ!・・ニャッ!」
砂埃に包まれ、両目を閉じながら咳をする。
「一体何が起こったニャ!?」
キャアシーは何とか片目を開け、門のほうを見る。
「・・・何か人影が見えるニャ・・。あれは誰ニャ・・・?」
その人影をじっと目を凝らして見る。
「・・・・・・!」
正体がわかった瞬間、何が起こったのかその時キャアシーはすべて理解した。
キャアシーを絶望に陥らせた。
門を破壊した人物は赤色のオーラを纏い、スキンヘッドで、武闘家の格好をしていた。
そして肉体だけで堅牢な門に穴を開けたのだ。
キャアシーにとっては、もはやスキンヘッドの凶悪な悪魔にしか見えなかった。




