門番戦Ⅲ ~思いの強さ~
ヤンは程よい歩幅で、片手を手刀の形に前に突き出す格好をしたまま立っていた。
それはちょうど瓦割りをした時のような構えで瞬、青色の闘気を体に纏っていた。
砂埃を払い、ホモゴブを切りつけた青色のカッターはヤンが放った技だったのだ。
訓練期間の時、イーサンに闘気を使った飛び技がないと指摘され、それから必死に考え編み出した闘気瞬斬。
スピードや受け流しといった瞬の特性が相手に通用しない場合、まったく瞬は役に立たないという弱点を補う技だった。
闘気貫圧拳を優に超える飛び技で、訓練前のヤンの弱点であった離れた相手に対する攻撃手段がないというのを完全に克服していた。
闘気による2つの飛び技を身につけたことはまさに訓練の賜物だった。
「やったか!?」
ヤンは血まみれで倒れているホモゴブを見ていた。
息はまだあるが、闘うことはもうできないだろうと推測をつけた。
ヤンは肋骨が1、2本折れて、ズキズキと痛んでいたが、ゆっくりもしていられないので修、黄色の闘気を纏い、体を回復させながら目の前に見える大きい門へ歩いて行く。
ただ、骨折までは修だけでは治せないので、やはりそれなりに手負い状態にあった。
ホモゴブは仰向けで倒れていた。
全身ボロボロでヤンよりも明らかにダメージを負っていた。
だが意識はまだ辛うじてあり、目は開いていた。
ヤンがこちらに向かって歩いてくるのがわかった。
(くっ・・クソォッ・・動け、俺の体!!動いて立てぇ・・!!)
だがヤンはそのまま、ホモゴブを素通りし、門のほうへ向かっていた。
その自分を素通りするヤンを横目でじっと追う。
(なんのつもりだっ・・!!俺を殺さないのか・・!!)
ヤンがどんどんと門へ近づいて行く。
(ダメだっ・・・!門の中に入らせるわけには・・!!)
ホモゴブは最後の力を振り絞り、フラフラとしながらも立ち上がる。
切りつけられた胴体の傷を手で押さえて、かがみながらも動きだす。
まだ血がべっとりと着いていた。
(俺はこの男には勝てない。だが、ゲンエイガハラ村の門番として・・死ぬときまでそれは果たす。
この最後の桃源郷を・・!居場所を・・!守らなければっ・・!)
ホモゴブはそこで極限の集中状態に入り、しっかりとした二足歩行状態になる。
(メイヒール、キャアシー、グールフ・・。村のこと後は頼んだぞ。俺は、なんとしてでもこの男をここで・・!!)
ホモゴブの目には覚悟が含まれていた。
そして後ろ向きのヤンに向けて、走り出す。
ヤンは歩いていると突然、自分の体がガシッと後ろから何かに掴まれるのを感じた。
それと同時に投げられ地面に叩きつけられていた。
「・・・!!」
何が起きたか理解できないまま立ち上がろうとすると、ストレートが目の前に現れた。
ズッドッン!!と音を立て、唾液や血飛沫が飛び散り、ヤンはそのまま後方へ吹っ飛び、ズザザザッ!と体を大きく引きずった。
ヤンは数秒ほどダウンしてしまう。
ホモゴブがヤンの後ろに立って腹の辺りに両手を回し、そのまま持ち上げるように体を反らせ放り投げたのだった。それはまさに*-1投げっぱなしジャーマンで、立ち上がったヤンにすかさず、パスドストレートを繰り出したというわけだった。
(くっ!バカな!!・・・まだ動けるのか!?)
ヤンは動揺しながら起き上がると、こちらに走ってくるホモゴブを捉えると構える。
ホモゴブは走って、ある程度ヤンとの距離が縮まると、突然姿が消え、ヤンの目の前に現れた。
パスドストレートの時のように瞬間移動したのだ。
その足の移動の後には今までと同じように煙が立っていた。
「はっ!」
ヤンはそのホモゴブの圧倒的な気迫にひるんでしまう。
そのひるんだ隙にホモゴブはものすごい速さで攻撃をたたき込む。
最初にボディブロー、そしてワンツーパンチを何回もたたき込む。
速さのあまり、残像が見えラッシュ攻撃のようになっていた。
ヤンにあざが増えていく。
その怒濤の攻撃に為すすべがなかった。
ホモゴブは何発ものパンチをたたき込むと、次にローキックを当てる。
ローキックによってよろめいたヤンに向けて軽くジャンプすると両足でヤンの頭を挟み込むとそのまま後ろへバク転の要領で頭を地面に叩きつけた。
*-2フランケンシュタイナーを繰り出したのだ。
ドゴオオオォォォン!!と轟音と砂埃を発生させ、がれきが辺りに飛び散った。
かなりのダメージであったに違いないが、ヤンの復帰も早かった。
砂埃の中からブワッと瞬を纏ったヤンが出てきた。
ホモゴブとかなり距離をとった形になった。
「もう十分だ・・!これ以上は危険だ・・!!」
ヤンは汗をかきながら手を手刀状にし、構える。
闘気瞬斬を使い今度こそ終わらせるつもりだった。
自身のダメージもそうだが、殺すつもりはないホモゴブを心配していたのだ。
(きっと・・あのパスドストレートの時の速さでの瞬間移動は一定の短い距離しかできない。そしてあの足、摩擦によって発生した煙、使い手自身もかなり負担になっているはずだ。おそらく使える回数に限りがあるはず・・!)
手刀に青色の闘気がだいぶ集まった。
(・・・もはやこれを避けることは不可能といえる・・!)
そしてヤンは離れたホモゴブめがけて技を使う。
「闘気瞬・斬!!」
青色のカッターがホモゴブに勢いよく飛んでいく。
迫り来るカッターを前にホモゴブにできることは限られていた。
(俺がやつを倒すには今ここで攻めるしかない!!引いたら終わりだ・・!)
ホモゴブは捨て身の覚悟でその青色のカッターに自ら向かっていく。
「くっ・・なにをっ!!」
ヤンはホモゴブがとった行動を見て思わず声を上げてしまう。
「パスド・・ストレート!!」
ホモゴブがそう叫ぶと、瞬間移動のごとく消え、カッターを避けた。
そのおかげでヤンとの距離が少し縮まったが、まだ攻撃が届く距離ではなかった。
「まさか・・ここでまだ使えるとは・・・・!だが・・・。」
ヤンはそう言うと即座に闘気瞬斬をまた放つ。
最初から2発分の闘気を溜めていたのだ。
追加の青色のカッターがホモゴブに飛んでいく。
「くそおぉ!!・・・・・はあああああぁぁぁぁぁぁ!!パスドストレーーートーー!!」
ホモゴブはすべてをかける叫びをしながらパスドストレートを繰り出す。
体は、とうに限界を迎えパスドストレートを出せる状態ではなかったが、それでもすべてをひねり出す。
消えるような速さの瞬間移動はカッターを避け、そのままヤンの目の前へと出現する。
その時の、ホモゴブは白目だった。
バアァァァン!!
大きく風圧を発生させ、ストレートはヤンに直撃した。
「・・・!?」
だが直撃したのはヤンの手の平だった。
ヤンは手の平でストレートを受け止め、防いだのだ。
ガシッとホモゴブの拳を掴んでいた。
「・・拙者の予想をすべて超えてきた。だがその技は見切らせてもらった。」
ヤンはパスドストレートのスピードを目で捉えることはできなかったが、その1回分の移動距離を把握し、繰り出すタイミングがわかったので受け止めることができたのだった。
「くっ・・・・・。」
ヤンのその言葉を聞くと、ホモゴブは全身の力が抜けて気絶するようにドサッと倒れこんだ。
ヤンは手の平の痛みを堪えながらすぐに倒れ込んだホモゴブの息を確認する。
受けとめた手の平には威力のあまり、焼けるような煙がシュゥゥゥ・・と発生していた。
「このままではまずいな・・絶命寸前だ。村の中まで助けを求める時間などない・・あれを使ってみるか。」
ヤンは冷静だった。
ホモゴブに手をかざす。
「闘気修応活」
そう言うと修である黄色の闘気が自身の手からホモゴブの体へと流れ出す。
1分ほど手をかざし続けた。
死なないようにホモゴブをその技で回復させたのだ。
ただ、闘気修応活は、回復が目的の技というより、蘇生するというのに近かった。
例えるなら、心臓マッサージのような役割といえた。
「これで少しはもつはずだ。待っててくれ。」
そしてヤンは急いで門へと向かう。
*1,2--プロレスの技名。




