女エルフ戦Ⅲ ~地の利~
マリは、なんとか女エルフを視界に捉え追えていたが、女エルフが樹木が生えている地点に入ると瞬く間に見失ってしまった。
いや、見失うというよりも女エルフが消えたという感覚に近かった。
その場所はまさに昼間にマリたちが歩いてきたのと同じような大森林を形成していた。
樹木は建造物のように高く、重厚感があってさっき遠くから見ていたよりもより実感できた。
さらにその高さかつ密集で月明かりがほぼ入らず、暗闇だった。
「ハァ、ハァ、ハァ・・ハァ・・ハァ・・ハァ・・・。」
マリは息を整えながら、足場の悪い森林地帯を歩いて行く。
(完全に見失ったわ・・・でも必ず近くにいるはず。突然消えるなんてありえないもの。きっとこの暗闇を利用してどこかに・・・。)
マリは暗闇の中、目を凝らし女エルフを探す。
探しながらどんどんと歩いて森を進んでいく。
そしてしばらく進むと何かを発見する。
(こ、小屋?どうしてこんなところに・・。)
小屋は丸太を使った立派な建物だった。
マリはその小屋にゆっくり近づき確認する。
ここの険しい森に人が活動できるとは思えず、小屋があるのが不自然に思えたのだ。
(扉が開いてる・・。)
小屋の扉は大きく開いていた。
マリはメイスを手に持ち、中に恐る恐る入っていく。
ド、ド、ドと木の床を土足で踏む音が一歩進める度に鳴る。
(・・・・・・・・。)
中には誰もおらず、もちろん明かりもなく暗かった。
ある物は食料品や伐採に使う道具や工具、簡易な救急箱、薪や小さい丸太などが綺麗に置かれていた。
ただひとつ矢筒が立てかけられている場所は散らかっていて、矢が無かった。
その小屋の物を見ると人が日頃使っていることが明らかだった。
(・・・こんなところまで来て仕事している人がいるのね。)
マリはただそうとしか思わなかった。
女エルフが中にいると考えていたが、本当にただの小屋だったのでマリはあっさり出て行くことにした。
(・・無断で入っちゃったわ。でも、扉を全開したまま出て行くなんて不用心ね。)
マリはそう考えながら小屋の扉から外に出る。
その時だった。
プシュン!・・・・・・ヅシュ!プチュチュチィ・・・・・。
「っ!!」
マリがその音を聞いた時には、すでに脇腹に矢が刺さっていた。
脇腹を押さえこみ、その場にひざまずく。
血が服を染める。
マリは自分の脇腹に刺さった矢を見て、すべてを理解する。
あの音は弓から矢が放たれた音だと。
マリの足元の地面には血飛沫が飛び散っていた。
射貫かれた衝撃で飛び散ったものだった。
(わ、私としたことが・・・!!)
マリは奇襲されたことに激しく動揺する。
もちろん弓を放った相手は自明だった。
「う、ううっぅぅぅっ!!」
マリは激しい痛みに耐える声を上げながら、脇腹から矢を全力で抜く。
抜くと同時に出血した。
片手で脇腹を押さえ、空いている手ですぐにメイスを取る。
手に取ったのと同時だった。
プシュン!
また鋭い音が響く。
その音に反応し、音のした方向を振り返る。
さっきと放たれた位置が違うことは向かってくる矢が物語っていた。
キィン!
マリはなんとか紙一重でメイスで矢を弾く。
1回目同様、高い位置から飛んできた。
(どこ!?・・一体どこから・・・!)
マリは必死に目と体をキョロキョロと動かし、捉えようとする。
だが暗闇そして痛みの中、女エルフの姿を捉えるのは困難だった。
攻撃は鳴り止まない。
プシュン!
「ぅぐっ!!」
マリの肩に矢が刺さる。
血飛沫が飛び、出血がさらに多くなる。
マリは痛みでどうにかなりそうだった。
だがその3回目の攻撃でようやくいろいろと把握したのだった。
(すべて違う方向・・高いところから、そして発射にタイムラグがある・・!。)
マリは整理し、気づく。
(もしかして木に・・・!)
マリは樹木の上に注目する。
360度見渡し、探す。
そしてある1カ所キラッと一瞬光った。
その光は鏃が反射した光だった。
(見えた!!)
プシュン!と音を立て、矢が高速でマリに飛んでくる。
マリは脇腹を押さえたまま、横に大きくローリングし避ける。
避けたと同時に脇腹を押さえていたほうの手をさっき光ったところに向ける。
マリは汗が止まらず、手の震えが止まらなかったがそうも言ってられなかった。
「・・・リッパーーウォーター!」
一直線に水圧カッターが飛ぶ。
バキィバキィバキィメキィ!・・・サァ・・ドサアァ!と手前の木の幹を削りながらエルフがいたであろう木の枝が切断され落ちる音が大きく立てる。
だが手応えは感じなかった。
(外した!?・・・間違いない、枝から枝へと移動しているわ!どうすれば命中させることが・・。)
マリは薄れる意識の中、必死に考えるがどうすることもできなかった。
顔も青白くなっていた。
プシュン!・・・・ガキィン!!
マリの反応が遅れ、手に持っていたメイスに当たり弾かれて、メイスは地面へと落ちた。
力が抜け握力も弱まってきていた。
プシュン!・・・・デュシュ!!
「っ!!」
マリは空いた手で手のひらを広げ、矢を止めて防いだ。
が、手のひらを貫通し激痛が走る。
そして出血量から遂にうずくまってしまう。
マリはそこで初めて冷静さを取り戻した。
(こんな状況になったのは私の慢心ね・・・。きっと向こうは最初からこの状況を狙っていたんだわ・・・。だから逃げるふりで私をここまで誘い込んだ。
少なくとも・・あの時、追いかけるのは得策ではなかったのよ・・・。
そしてあの小屋で気づくべきだったわ・・・・。矢筒が散らかっていたことをね・・・。
矢を補充したと・・。もっと冷静になるべきだったわ・・そうすればこんなの気づくのは簡単なことだったのに・・。)
マリはここまで自分の過ちをぼやける視界、意識のなか振り返る。
(私・・・こんなところで・・・・せっかく新しい・・・・。あい・・つら・・に謝ら・・ないとなぁ・・・。
ルークド・・・。)
その時、意識が鮮明になる。
(・・・・ルークド!・・・そう・・よ・・まだ・・よ。まだ死ぬ・・わけには!
あいつに・・・借りを返して・・ないじゃない。ツケがある状態で死ぬのはゴメン・・だわ。)
うずくまっている状態から震えながら立ち上がる。
すべてを振り絞る。
(移動しているなら、その移動場所ごと・・!!)
そしてまたキラッと鏃が反射して光る。
その場所に矢が刺さっていないほうの手を向ける。
「リッパーウォーター!!!」
一直線に水圧カッターが飛ぶ。
向かってくる矢ごと女エルフのいたであろう枝を切断する。
案の定手応えはない。その時、すでに女エルフは他の樹木の枝へ飛び移っていたのだろう。
だがそこからだった。
「はっああああああああああぁぁぁ!!」
マリは叫びながら、すべての魔力を使う勢いでリッパーウォーターを放つ。
そしてそのままそれを動かしたのだ。
樹木は次々と一刀両断されていく。
バキバキバキバキバキバキバキ!!!とものすごい大きな音と大量の木くずを出し、倒木する。
マリはその位置で一周することで360度、リッパーウォーターが届く範囲の樹木をすべてなぎ倒す。
同時に月の明かりが入り、女エルフの姿が視認できた。
女エルフは樹木が次々と倒木して移動先の樹木が無くなり、そのまま空中から地面へと後頭部を強く強打するように落下した。




