後退戦
(成功した・・・!)
対岸のメイヒールは、血気盛んに向かってくる兵隊たちを見つめながら、そう確信する。
ヒドウはルークドに任せることにし、後は自分の役目をしっかりこなすことにメイヒールは集中し始める。
ギギギィ・・・
真剣な表情のまま、続けて矢筒Aから矢をとると、弓がしなる音を立てて、鋭く狙う。
もはや誰を狙うなど余計な思考はいらなかった。
なんせ、草原に誘導するまでにどれくらいの数を減らせるか。
ただ、それだけで後は思いっきりやるだけだった。
プシュン!!
風圧を伴うような、渾身の矢を放った。
射貫いたことを確認することなく、また矢筒Aから矢をとって、弓を構える。
ギギギィ・・・
向かってくる兵隊たちは、浅い川をバシャーン!と激しく踏みしめて走ってくる。
その先頭には、一番速いヘルドッグがいる。
兵隊たちの武器は、本能的に扱うことができる打撲系の武器ばかりで、習得するのに時間を要する弓などの武器を持っている者はいない。
せいぜいボウガンがいいところだった。
「・・・。」プシュン!
メイヒールは、また矢を放って、見事1人を貫いた。
だが、完全に戦闘モードに入った兵隊たちは、まったくひるむことなく、メイヒールに向かってくる。
いくら練度が低いといえどもまったく恐れない様は、さすがだった。
その勢いのまま、突撃してくるので対岸のメイヒールとの距離は、近づいて来ていた。
(まだ、いける・・・!)
メイヒールは、放った後、矢筒Aから1本とって構える。
プシュン!
メイヒールは、速射の要領でほとんど対象を見ずに放った。
フウゥゥゥゥゥ・・・
風を切る音を立てながら、ボウガンを持った1人の兵に飛んでいく。
ちょうど矢の視点から見れば、どんどんと迫る爽快感がある。
貫く瞬間だった。
「ざけぇんなぁ!!」
ガキィン!!
兵は、怒鳴り声を発しながら、ボウガンとはもう一方の腕の、バックラー(=盾)で裏拳のように矢を弾いた。
「アイツをいつまでも調子に乗らすんじゃねぇッよ!!誰かさっさとたどり着けやアァァッ!!」
さっきから一方的に攻撃を受け続けていることに怒りを爆発させながら、メイヒールめがけて、ボウガンを撃った。
味方の士気を上げるような怒鳴り声は、その兵隊たちをより勢いづかせる。
「・・・・・・!」
メイヒールは、自分に飛んでくる矢を視界に捉える。
落ち着いた様子で、懐から針を3、4本指と指の間に挟み込んで出すと、シュッ!とそのまま飛ばす。
キィン!!
針と鏃が激突し、矢は地面に落ちる。
メイヒールは、その狭まる距離を実感すると、そろそろ後退兼誘導を試みる。
その対岸で、迎え撃つのはそろそろ潮時だった。
(・・・ただで引くわけには・・・!)
メイヒールは、矢筒Aを見て、最後の1本であることを確認すると、その1本をとって構える。
今度は、じっくり前を見て向かってくる群体を捉える。
「・・・・・・。」
メイヒールは、瞳に群体を写しながら、目を横に流していく。
それは、対岸での最後の1本をどこに放つかというのを探していた。
「・・・!」
目を流していき、瞳が通り過ぎていく時だった。
目標となる的を見つけると、行きすぎた瞳が戻って捉える。
それは、3歩過ぎた時の2歩目に戻るのと同じだった。
ギギギィ・・・
メイヒールは、片目を閉じて、しっかり狙う。
ぐっと溜めて、狙いをつける。
今度は、速射とは反対の精密な射撃といえた。
・・・プシゥゥゥン!!
最大の風圧を出して、放つ。
ブフウウゥゥゥ!・・・
厳つく風を切っていくその矢の先にいたのは、一頭のヘルドッグだった。
ブッシュン!!プッヂィ!!
血気盛んに先頭を走っていたヘルドッグの前足を勢いよく貫通する。
ドサアアァァン!!ズダァン!ズザザァァ・・・
走っていたヘルドッグは、前足を射貫かれたおかげで、派手に顔面から地面に激突する。
マウンテンバイクが斜面を下る際、転げ落ちてしまうかのように地面に複数回体を叩きつけ、砂埃が出る。
最後は、空中を回転して地面にズタズタに引きずる。
猪突猛進の走りがヘルドッグを、より痛めつけた結果になった。
メイヒールは、放った後すぐに、立ち上がって地面に置いてある矢筒Bをとって肩からぶら下げる。
弓も背にぶら下げて、そこから離脱し始める。
予定の草原まで誘導するため、兵隊から背を向けて駆け出し始める。
それと同時だった。
「クゥゥン!!」
さっき前足を貫かれたヘルドッグの、すぐ後ろを走っていたヘルドッグが、巻き込まれ鳴き声を上げながら、同じくして地面に激突する。
連鎖は治まらず、1人の兵も巻き込まれて、そこから次々と塊のように後ろが倒れていく。
砂埃を発生させ、最初のヘルドッグは、上に乗っかられた重みで遂に死亡する。
「・・・。」
メイヒールは、走りながら振り返って確認すると、また前を向く。
勢いを殺す牽制は想像以上に成功した。
後は、草原まで一行を誘い込むだけだった。
ーー「ハァ、ハァ、ハァ・・・」
それから10分間、メイヒールは、それなりのスピードで走り続けてうまく誘導できていた。
メイヒールが、トップスピードで走れば、追いつけず兵隊たちは、冷めて追うのをやめてしまうかもしれない。
だが、そこを調整して、追いつけるか追いつけないかという絶妙な距離感を保ちながら、そこまで来ていた。
逆に兵隊たちは、獲物を見つけた肉食動物の狭い視野のまま、走ってきており門から随分と離れてしまった。
(・・・もうちょっと)
メイヒールは、そう思いながら、後ろを確認する。
絶妙な距離感を保ってきていたが、兵隊たちの持久力が底を尽いた様子で、だんだんと離れてきていた。
中には、ゼェゼェと立ち止まる者もいる。
(ダメ押し・・・ですね。)
ズザアアァァァ!!
メイヒールは、足で急ブレーキをかけて止まりながら、そのまま体を反転させる。
間髪入れず、妖精魔法を使う。
「フェアリー・・・ファイアー!」
赤い妖精が出てきて、攻撃を放つ。
美しい弧を描きながら、炎の線は、固まっているところへ飛んでいく。
ブオオオォォン!!
「イギャアアアアアア!!」
見事、着弾し燃えさかると、その固まっていた数人が阿鼻叫喚で叫ぶ。
それと同時に、メイヒールは、すべての追ってくる者に言い放つ。
「さぁッ!・・・私のところに来て下さい!!」
自分の胸に片方の手の平を当てる、自身を指し示すジェスチャーを交えてそう挑発した。
言葉だけなら艶っぽく誘惑しているようにも捉えられる。だが、その状況で言われるならかなりの腹立ちを覚えるほかない挑発だった。
なんせ、それほど懸隔を見せつけられているに過ぎないからだ。
「・・・オラアァァァァァ!!」
怒り狂った兵隊共が、各個に叫びながら最初の勢いを取り戻していく。
「・・・その調子です。」
メイヒールは、そう呟くと、また反転して草原へ向け走り出すのだった。




