分断
(すっ、すごい・・・)
対岸において、うつぶせで伏せているメイヒールは、ルークドのフレイムインパクトの威力を目の当たりにし、ただただ驚くしかなかった。
ゴォォォォ・・・という地が響く音とパラパラという礫が降る音が聞こえる。
砂埃に隊列は飲み込まれて、もはや見えなくなっていた。
その時、メイヒールの表情が凜々しくなる。
(・・・やるなら今ですね。)
絶好のタイミングと踏んだメイヒールは、自分に覆い被せていたカモフラージュシートをとって、伏せから膝をついた体勢になる。
その移行時に、体についた土や草が、ソワァと下へ落ちた。
「・・・・・・。」
そして、傍に置いてある矢筒Aから矢を1本とって、弓を構えると同時にフェアリーセンスを使う。
メイヒールの目は発光し、その目は砂埃の中を鋭く狙っている。
隊列の中から1人を適当に抽出し、的へと捉える。
そこそこ距離は開いているが、メイヒールにとって容易いことだった。
プシュン!
矢を放った。
一方、ルークドは腕で砂埃を遮りながら、ただ前を見ていた。
(・・・今のは直撃だ、やったか・・・?)
ヒドウに直撃したことを確信し、手応えを感じていた。
ちょうど先頭のヒドウが盾のようになって、後ろの200人のザコたちには、攻撃が及んでいなくても、少なくともヒドウは、仕留めたとルークドは思っていた。
そして、数秒間その状態で経過して砂埃が薄れてきた時だった。
「・・・・・・もっとも攻撃を受ける前面を、より分厚く強化するのは当然だよなぁ・・・?本能まるだしのクソガキよぉ・・・?」
「・・・くっ!」
ヒドウの声が聞こえ、ルークドは汗を垂らし、焦りの表情を見せる。
地響く音と、礫の降ってくる音も止み、視界も鮮明になってきた。
後ろのザコたちの多数の咳の音と腰が引けている姿を、ルークドは確認するが、そんなのは、もはやどうでもよかった。
「・・・オレは魔法が嫌いなんだよ、論理がなくて気持ち悪いからな。本能まるだしのクソガキも嫌いなんだよ、愛がなくて気持ち悪いからな。」
ヒドウが何かを言っているとき、風が吹き、ブオォと砂埃がなびく。
ルークドは、完全にヒドウの姿を確認できるようになった。
(チッ、クソ固ぇな!!なんて鎧だッ・・・!)
ヒドウの鎧を見て、圧倒されるしかなかった。
フレイムインパクトの着弾痕は、クッキリ残っているが、鎧の状態は、まったく変わっていない。
あの威力をもってしても、まったくヒドウにダメージを与えられていないばかりか、防御性能を崩すことすら出来なかったことを意味していた。
「・・・そして、オレの聖なる母(鎧)を傷つけるヤツは、この世でもっとも嫌いだアアアアアッ!!オオォォッイ!!」
ヒドウのゾッとするような叫びは、砂埃をなぎ払い、さっきまでの雰囲気を変えた。
「・・・女の腹にいる胎児がもっとも許せないことを教えてやろうか?もちろん、その女を傷つけることだよなァッ!?生まれた後なら、その女のことなんてどうでもいい。関係がねぇ・・・でもオレは、この女と一生、一体となって胎児で生きているんだァ!!・・・胎児は怒り、お前を殺しにいく・・・!」
ヒドウは、鎧を傷つけられたことに激怒し、完全に戦闘モードに入っていた。
「オレがよぉッ!!処刑してやるよおおッ!!クソガキィ!!おい!!フリン嬢とカンイン嬢を持ってこいッ!!」
部下に「フリン嬢」である両ブレードの巨大な斧と「カンイン嬢」である二段バリスタを指示する。
それに対しルークドは、次なる行動に移す。
「(・・・とりあえず、段取り通り進めるしかねぇな・・・!)かかってこいよ!!ヒドウ!!兄貴と同じように送ってやる!!」
ヒドウの言っていることをほとんど聞かず、挑発して後退していく。
門の穴を通って、ゲンエイガハラ村の敷地内に入っていくためだった。
「お前らは、オレに随伴しろォ!!いつも通りやるぞォ!オラァッ!!」
ヒドウもまたルークドの挑発を、ほとんど聞かず、部下を連れてゲンエイガハラ村の敷地内へ進もうとする。
部下は、ヒドウ直属のサポート要員で持ち運びやセッティングなどを担当するごく少数の精鋭だった。
その時だった。
「ちょっちょっと!!ヒドウさん!!待って下さいよぉ!!隊列が対岸から矢で攻撃を受けてますよ!!・・・先にあそこの、ヒイイイイィィィ!!助けてええぇぇ!!誰かアアア!!」
ヘッターレがようやく、さっきから隊列が攻撃されていることを伝える。
ヘッターレのすぐ隣にいたザコの頭に矢が刺さり、ヘッターレは、うずくまって怯える。
「あぁん!?知るかクソッタレ!!お前らクソ共で対処しろ!!オレは、このバカ共(部下)とクソガキを処刑しにいくんだよぉ!!・・・じゃあな。」
それだけを言い残し、ヒドウは後退していくルークドを追う。
残るは、ヘッターレ率いるザコだけが攻撃を受けながら門の前で立ち往生する。
(あぁ、クソクソクソ!!俺様がなんでこんなあああぁぁ怖い思いをうおおおぉ!!・・・・・・し、仕方ねぇ、や、やってやる。)
ヘッターレは、ついに覚悟を決め、立ち上がる。
「て、テメェら・・・!対岸の敵に向けて、と、突撃ぃぃ!」
兵隊共に弱々しい命令を出した。
「・・・・・・う、うおおおおおおぉぉ!!」
少し間があった後で200人未満の兵隊たちは、叫んで対岸のメイヒールに向かっていく。
ヘルドッグもリードを外されて放たれ、真っ先に走って行く。
(ふ、ふぅ、俺様もできるもんだな・・・。とりあえず突撃を出しておけば俺様は安全だな。せいぜいがんばれよ、消耗品たち。・・・さて、俺様はおもしろいほう、ヒドウのほうを観戦させてもらおうか。あっちは見応えありそうだぜぇ・・・・・・巻き込まれねぇように気をつけねぇと。)
ヘッターレは、そう考えると門の穴を通って、ゲンエイガハラ村の敷地内に踏み入れた。
そうしてルークドたちの段取り、すなわちヒドウと隊列の分断は成功した。
だが、それは決していいスタートとは言えなかった・・・。




