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キングテレトリー  作者: フクツノタロウ
ゲンエイガハラ村編ーⅠ
122/282

終身時計

ライネットは、オックス教授の研究室の前に立つと、扉を開ける。


ガチャ


「失礼します、オックス教授。」


その研究室の中は、先ほどの執務室とは対照的に、雑多としており汚い。

床から平積みされた本の塔が、何棟か立っており、さらに本棚に入っている本には埃がかぶり、蜘蛛の住処になっている。


ライネットは、その研究室の中に入るのは初めてで、特殊な光景に、視線が思わず探索してしまう。

だが今回は用があって来たので、机に向かって、ライネットに背を向けたままのオックス教授に近づいて行く。


「・・・オックス教授、ライネットです。用があって来ました。」


おそらく何かに没頭したまま気づかないオックス教授に、ライネットは、そう呼びかけながら近づいて行く。

部屋の奥の方は、壁に魔物の解剖図や、人体型の見慣れない兵士の分析図、さらには魔導兵器と思われる設計図が無数に貼られている。


「・・・・・・やはり魔物の存在とは、自然的に発生したのではなく、人為的に生み出されたもの・・・このことが意味することは・・・あぁ、ということは、魔物の特徴を体に持つ者も同じくして、何かの~、例えば人為の実験操作の過程で生み出されたものということが考えられ・・・」


オックス教授は、机に向かって、独り言をさっきからブツブツと呟いている。


「オックス教授。・・・いいですか?」


その時、ライネットは真後ろに立って、ずっと背を向けたままのオックス教授に、ややプレッシャーをかけるように声を掛けた。


「・・・おっ!おっと、ライネットさんでしたか。没頭していて、まったく気づきませんでしたよ。申し訳なかったですね~。・・・あの、別にですね。私に悪気があって、ライネットさんの呼びかけを無視していたわけではなくってですね。好奇心が集中を生み、その集中が・・・」


オックス教授はやっとライネットに気づいて、振り返った。

その骸骨の顔を見合わせると、またしゃべり出していた。


「いえ、私の方こそすみません・・・こんな、早くから訪れてしまって。用件があって来ました。」


ライネットは、オックス教授の話を半ば強引に、終わらせ、用件に触れる。


「・・・・・・用件?ほう、珍しいですね。では今、お茶でも汲みますので。・・・いや~こういった来客に備えて、何かおもてなし品というのも置いておくものですね~。」


オックス教授が椅子から立ち上がりだした。

それと、同時に机の上にブラックキューブが3つほど、置いてあるのが見えた。


「いえ、そういった用件ではなく、終身時計を受け取りに。」


「・・・・・・あぁ、なるほど、そういうことでしたか。ついつい、私の悪いクセで、研究室に来る者はみな、問答をするものかと思いましてね~。・・・あ~えっと、終身時計ですね。確か、メンテナンスをし終わってどこかに・・・」


オックス教授は、やっぱり立ち上がって、引き出し、床や収納箱を漁り出す。

その間、ライネットは何気なく、世間話を振る。


「・・・研究は、はかどりますか?」


「・・・・・・えぇ、そりゃあ、もう生きていた頃より、断然にはかどりますね~。なんせ、このスケルトンの体になってから、生命活動をしなくてもいいし、さらに寝る必要もありませんからね~。研究に、生命は必要ないどころか、むしろ足かせになることを身をもって知る・・・限りで・・・。」


その時、ようやく終身時計を見つけて、手にとったみたいだった。

かなり、奥の方にあったみたいで、手を伸ばしてとった。


「・・・ふぅ、ありました。ノルスさんがいつになっても、取りにこないものですから、随分と奥のほうにありました。・・・と、まぁ、この研究ペースで進めば『キングテレトリーダーク』についての全容が解るときもくるでしょうね~。・・・どうぞ。」


オックス教授は、終身時計を差し出した。


「期待してます。」


ライネットはそう言って受け取ると、刀の鞘に終身時計のペンダント部分を通して、ぶら下げる。


「あ、ところで、ライネットさんが、それを受け取りにくるということは、ルークド君に何かあったのでしょうか。それとも、ノルスさんから当番を譲り受けたりとかですかね~?」


「・・・たぶん、後者です。」


「あぁ~そうでしたか。なら、一応言っておくと、その時計は定期的にメンテナンスが必要なので、私のところへ提出お願いしますよ。使用の注意点はそれだけですかね~。・・・それと!壊れると、二度と作れないのでそこはどうかお願いしますね。なんせ、私が個人で初めて、形にした道具でありまして・・・」


終身時計、「希望の羽」を身につけるものの生命力が特異点に達すると、その猶予を針で示してくれる。

動力源は、生命を司る魔物の血で動き、「希望の羽」と同じと言われているが、詳細は、発明者であるオックス教授しか知らない。


ライネットは、終身時計を見て、思わずデサン村での出来事が頭によぎっていた。


「・・・道具というのは誰でも使えるのが、道具でありまして、道具を使用するのにですね~、長年の訓練を必要とするもの。例を挙げるならば、キングテレトリー軍で使われていた魔導兵器とかですかね。戦術兵器とはいえ、人よりちょっと大きい鎧を動かすのに、使い手が何年も訓練しなければならない代物。そんな道具など欠陥品ですよ。あぁ、今になって初期段階で設計図を私、自ら処分しておくべきでしたね。私の哲学と合わないものを私の発明と認めるわけには・・・」


その間、オックス教授は、1人話し続けていた。

何か過去に道具を巡って、因縁があることを感じさせた。


「・・・確かに、受け取りました。それでは、私はこれで。」


ライネットは、軽くおじきして、研究室を出て行った。

オックス教授は1人になった。

椅子に座り、それとなく暦表を見る。


「・・・籠もりきっりで、忘れていましたが、そろそろゲンエイガハラ村の時期だったんですね~。これは非常にいいタイミングですねぇ・・・フフフ、ノルスさん、あなたのおかげでもっと研究が進みそうですよ・・・フフ。」


薄暗い研究室でオックス教授は不気味に笑った。

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