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キングテレトリー  作者: フクツノタロウ
ゲンエイガハラ村編ーⅠ
121/282

命令と使命

まだ夜が明けない頃のエングランド訓練所。


「・・・準備よし、っと・・・。」


ライネットは、最後に刀を腰に差して、1人小さく呟いた。

そして、その自分の姿が鏡に映り、何気なく見つめる。


昼に修練演習所でノルスと戦った後、ライネットは、医務室で治療してもらった。

ノルスとの戦闘は、両者とも手をまったく抜かず、派手で激しいものとなったが、逆にレベルが高い者同士であったため、致命傷を作ることなく、負ったダメージも治療ですべて治った結果となった。

なので今のライネットは万全状態だった。


「・・・(行こう。)」


鏡を見ながら、そう思うと、その自分の部屋の扉を開けて、外に出る。

部屋の扉に面したその廊下は、とても静寂としており、人影はない。

ポツポツとランタンの明かりが等間隔にまっすぐ廊下の先まで並び、後は僅かに外から窓へと差し込まれる光だけが、照らす。


ドタン・・・


ライネットは扉を閉めた。


ーーしばらくエングランド訓練所の建物内を歩いて、ある場所に向かっていた。

さっきの廊下と違い建物内は、パブリックスペースであるため、夜間警備の兵がランタンをもってうろついている。

建物内の大きな窓からは、何カ所かある灯台で勤めを果たす兵の姿も確認できる。

それらの兵たちは、ライネットが通ると、敬礼する。


ライネットは、それに軽く返しながら、昼のことを思い返す。


(・・・ただ単に、汗を流すためだけに私と戦ったわけではないと思う・・・。じゃあ、何のために。)


ライネットは、結局ノルスの行動の真意がわからなかった。

待機命令を出していながら、意味ありげな行動。

ただ、戦ったおかげでライネットの気持ちに、いろいろと整理がついた。

そこから自分のとるべき行動は、単純明快だった。


(私の役割は、護衛。なら護衛として果たすまで・・・。)


あれからいろいろと考えた結果、命令と使命は、かならずしも一致しないものだ。と決着をつけたのだった。

そう考えていると、執務室の廊下にさしかかる。


(命令が私の使命と一致しないなら、あくまで主張するまで。)


ライネットにとって、今回の待機命令、つまりノルスの命令を破ることは、初めてで、それは反抗すること事態が初ともいえた。


そして、いよいよ執務室の前にきた。

ライネットは、そこで少し深呼吸をすると、ノックする。


コンコン


「・・・入りたまえ。」


ノルスの声がすると、ライネットは、扉を開けて、中に入る。


「・・・・・・。」


その執務室の中は、本棚がぎっしり詰め込まれて、重厚感がある。

ノルスの個室でもある執務室は、こだわりからか、アンティークで紳士感が漂いおしゃれだった。

ノルスが指令を下したり、報告を受けたりする司令室とは違って、普段、そこに人がくることは少なく、とても静かなものである。

だが、執務室はキングリメイカーの核となる、未来に向けての行動を考えるもっともな場所であることには違いなかった。


「・・・ライネットか。」


ノルスは、書斎で座ったまま、顔を上げた。

書斎には、多数の紙と本が広げられ、ノルスのすぐ傍には、紅茶の入ったティーカップが置いてあった。

室内に、その紅茶の湯気だけが、静かにうごめいていた。


「・・・それにしても、随分と早いね。結構なことだ。」


ノルスは、執務室でしか掛けない眼鏡を外しながらそう、立ったままのライネットに言った。

夜ではあるが、超早起きといえる時間帯でもあった。


「・・・で、用件は何かね?」


「・・・ルークドの護衛に行ってきます。」


ライネットは、単刀直入に言い放った。

命令を破る宣言だった。


「じゃあ、しっかり頼んだよ。」


ノルスの返答にライネットは、驚いて言葉に詰まる。

まさかの予想外だった。


「と、止めはしないのですか・・・?」


「うん?・・・私が、止める理由などあるかね。あぁ、それよりもここに来たということは、終身時計しゅうしんどけいを取りにきたのだろう。今、渡すと・・・」


ノルスは、立ち上がって掛けてあったコートのポケットをまさぐる。

だが、見つからない。


「・・・そうだった、今はオックス教授にメンテナンスをしてもらいに預けていたよ・・・。フフッ、私としたことが如何な。」


ノルスは少し、笑いながら軽口を言った。


「なので、行く前にオックス教授のところに寄ってくれるかね。・・・どうせだ。終身時計はライネット、君がそのまま持っているといい。籠もることが多い私が持っていても、仕方がないだろうしね。」


そう言いながら、また書斎の椅子に座った。


「ぎょ、御意・・・。」


ライネットは、確かに終身時計を取りにくるためでもあったが、ノルスの立て続けの反応に動揺を隠せなかった。


バタン


そして、あっという間にして、ライネットは執務室を出た。

こんなにすんなり、受け入れられるとは思いもしなかった。

キングテレトリー時代の「有識」同士の立場で、絶対忠誠かつ命令 遵守じゅんしゅの元、護衛を務めた時とは、まったく違っていた。


(もしかして・・・)


ライネットは、ノルスとの距離が遠くなったと感じると同時に、それもノルスの狙いだったのではと、ふっと頭をよぎったが、とりあえず、オックス教授の所へ向かうのだった。

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