勃発
グールフが、片手で寝ているルークドの首をやさしく包み込むように掴み、そこから持ち上げようとした瞬間だった。
「・・・ぅッ!」
ルークドが、目を開ける。
そして瞬時に、自分の首がグールフに掴まれているこの状況を理解し、抵抗するように両手を掴んでいる手に持っていく。
ブウオォッ!!
ファイアーブロウを使って、グールフの手を燃やした。
「ぐぉッ!!」
それによってグールフの白い毛並みは延焼し、ちょっとした火事になる。
その燃える痛みと驚きのあまり、僅かに持ち上げていたルークドの体を、そのまま部屋の扉側へと放り投げた。
ドタアァン!!
ルークドの体は扉へ激突し、そのまま突き破って、廊下の壁へ打ちつけた。
首に、鋭く爪の後が残っていた。
だが、すぐに顔を上げて、グールフを視認する。
(クソッ、ダメだったか・・・仕方ねぇッ!)
ルークドは寝起きの頭から即座に戦闘モードへと切り替わる。
この状況からグールフの勧誘、説得に失敗し、遂に自分を殺しにきたのだと、把握するしかなかった。
そして、即座に立ち上がって、大広間に向けてその廊下を走っていく。
一方、グールフは、手に延焼している炎を、もう一方の手でパタパタとはたいて鎮火する。
突然、攻撃を受けたことに、怒りを感じて瞳孔が開く。
「あいつッ・・・!」
鎮火させると、部屋を飛び出し、自分に背を向けて走っているルークドの姿を捉える。
「おいッ!!待て!!」
一応、呼び止めてみるが、ルークドはまったく振り返ることなく、遠ざかっていく。
(我とやる気かッ・・・!)
グールフも戦闘モードに入ってしまった。
「いいだろう!!八つ裂きにしてやるッ!!・・・サイクロンブレード!!」
そうと決まれば、グールフは即座にサイクロンブレードを勢いよく放つ。
ズゴゴゴゴゴゴゴゴ!!
円盤状の風の刃が、廊下の壁を削り取りながら、ルークドへと飛んでいく。
少し弧を描くような軌道だった。
「・・・!」
ルークドは、攻撃が飛んでくるのを察知すると、そのまま走りながら、壁に目をやる。
そして、タイミングを計ると、動きに移す。
ダッダッダッ・・・ダアァン!
両足で壁を蹴って駆け上がっていくと、最終的に大きく蹴って、ジャンプする。
そして、パルクールのような動きを見せ、その滞空においてサイクロンブレードを顔面スレスレに避ける。
ヅヅヅウウウゥ・・・ブオオン!!
風の厳つい音が至近距離で鳴るのを聞いて、何とか触れることなく、避けきった。
外れたサイクロンブレードは、軌道が外れるようにして、大きく曲がって風圧に変わって消えた。
それと同時に、グールフの方を向いて着地する。
着地すると、間髪入れず、攻撃を放つ。
「上等だぁッ!!ファイアーブロウ!!」
ファイアーブロウがグールフ一直線に飛んでいく。
しかし、ルークドは、その着弾を見ることなく、すぐに背を向けてまた大広間に向け走り始める。
「・・・!」
飛んでくるファイアーブロウを視認すると、グールフは、暴風の目を使う。
バアァァン!!
渦巻く風と火がぶつかり、激しい音を上げた。
火は風に乗って、火の粉を散らして消えた。
「くっ・・・」
グールフは、ファイアーブロウをかき消すと同時に、すぐにルークドの後を追いかける。
ルークドは、大広間まで来ると、くるっとターンして、廊下からやってくるグールフに対して、迎え撃つ体勢を整える。
ファイティングポーズで構える。
「・・・ファイアーフィースト!」
ルークドの拳に火が纏う。
その時、グールフがついに大広間にやってきた。
ちょうど、対立の構図となった。
グールフは、ナタは抜かず、手の平を広げて爪を鋭く光らせる。
すでに冷静さを取り戻しつつあった。
ルークドに呼びかけてみる。
「おい!話を聞け!!」
「・・・そんな状態で言われても、なぁッ!!」
ルークドは、聞く耳を持たない様子で、そう言い放つと同時にグールフとの距離を詰める。
そこからは、インファイトが繰り出される。
ブオゥゥン、ブオゥゥン・・・
ルークドの攻撃一発ごとに、拳の火が振られて音を立てる。
火が曲線を描くようにうごめく。
グールフは、防衛するようにして後ろにジリジリと下がって避けていく。
こんなことをやっている場合じゃないことを把握していた。
差し迫った危機が近づいており、そのことに関して聞く必要がある。
そうちょっと考えた時だった。
「どうしたぁ、集中・・・しろ!!」
ドゴォン!!
「ぐぅぉ!!」
ルークドの力の入った拳が、グールフの顔面を捉えた。
ファイアーフィースト状態の攻撃は、強烈だった。
火と打撃の両方がグールフにダメージを与える。
「おのれぇ・・・!」
グールフは、挑発されるかのように怒り心頭の形相を見せる。
ルークドに向けて、手の平精一杯広げて、爪で切り裂こうと試みる。
スウウゥッ!!
だが、ルークドはバックステップして、見事に避けた。
さらにもう2回バックステップをして、今度は距離を開けた。
グールフは、バックステップしたルークドに対して、ドン、ドン、ドンと大きな歩幅で迫り、爪で攻撃しようとする。
その時だった。
「させん・・・!」
ルークドとグールフの間に誰かが突如、割り込むように現れた。
「・・・!」
青いオーラを全身に纏ったその人物は、ルークドに背を向けて守るように、すなわちグールフに正面を向き、2人の間に入り込んだ。
すると拳を握って、手の甲ではじき飛ばすようにグールフに攻撃を繰り出す。
ズドッ!!
グールフは、その攻撃を咄嗟に腕で受け止めるが、その惰性で後ろへ下がった。
そのため距離が開いた。
顔を前に向ける。
「坊主頭・・・!」
その時初めて、グールフは、目の前に突然現れた人物を把握する。
そう瞬の闘気を纏ったヤンだった。
グールフが、それを認知した時だった。
「動かないで!!」
「・・・!」
間髪入れず、女の声が響き渡ると、グールフを目標にした空中に氷の矢が何本も現れた。
10本を超えるかのような数で、360度グルッと取り囲む位置づけだった。
それが意味していることは、明らかだった。
「ぐっ・・・!」
グールフは、氷の矢を視認すると、じっと動きを止めるしかなかった。
なんせそこから動けば、その矢が自分に刺さるのは目に見えていた。
「そのままにしてなさい・・・。動けば、死ぬわ。」
そうその声は、マリだった。
氷の矢は、マリの「アイスクル」によるもので、その本数には本気が表れている。
グールフを生かすか殺すかという際どい状況と緊張が伝わる。
「ふぅ・・・助かったぜ。ナイスタイミングだ、ヤン、マリ。後は・・・」
とりあえず動きが止まった瞬間に、ルークドはそう呟いた。
そして、手の平をグールフに向ける。
さっきのルークドとグールフのぶつかり合いの音で、ヤンとマリは飛び起きて、そこに駆けつけたのだった。
そして今、グールフを包囲する事となった。




