一直線の追っ手
ピーーーーーーーー!!!
笛の音は、野郎共全員を目覚めさせた。
酔いつぶれていた者も喧嘩していた者も、笛の音が鳴った方向に注意を向け、急いで武器を手に取っていく。
さすがに、その笛を聞くとスイッチが入るようだった。
そして全員が、その笛の鳴った森林へ血気盛んに、個々で突撃していこうとした時だった。
「クソ共!!」
その言葉が、エコーするように野郎共全員に響き渡った。
かなり、体の底から声量を張った声だった。
野郎共全員は、その発せられた声の主のほうへ驚いた様子で見る。
「追うな。クソは、クソらしく道端でうずくまっていろ・・・。」
そう、その声の主はヒドウだった。
そして、次の瞬間だった。
「えぇぇぇぇぇっ!!追わないんですかッ!?」
ヒドウの横にいたヘッターレが間抜けな声を出す。
「当ったりめぇだ・・・。」
「絶対、ゲンエイガハラ村のやつらですよ!!ついに気づいて攻撃を仕掛けてきたに違いないですぜぇ!!追撃しましょうよッ!!」
「うるせぇ!!腐乱ゴミッ!!」
「ヒッ・・・!」
ヒドウの暴言に、ヘッターレはびくついて固まってしまう。
そんな二人が会話している間、野郎共はどうしていいかわからず、ただ立ち尽くして見ていた。
「・・・オレはな。すべてここまで読んでるッんだよ・・・いいか?腐乱ゴミ野郎に教えてやる。今、小バエを追えば、奴らの思うツボなんだよッ!!ほら見てみろよ。笛がなったあの森には何があると思う?」
「なんでしょう・・・。」
「ハエを呼び寄せるためのクソが置いてある。そこに突っ込むことはバカのすることだ。だから・・・な。よし、ジンツウカンツウ弾を持ってこいッ!!」
そこまでヒドウは、説明すると、さっきまでメンテナンスをしていたバリスタの前に立ち、部下に何かを持ってくるように指示を出す。
「つまり、罠ってことですかい?」
「あぁ、そうだ。やつらは村から逃げることはできない・・・引きこもりの陰気バカ共なんだよ。だからな、攻め込まれる前にオレたちを奇襲して少しでも数を減らそうっていう浅はかな陰気の策。つまりなぁッ!オレたちは、ちょっかいを掛けられたんッだよ!」
その時、ヒドウの部下が極太の矢を持ってきた。
ヒドウは、それを強引に取ると二段機構のバリスタの2段目にセットし始める。
「まさか・・・」
ヘッターレは、おそるおそる尋ねる。
「ちょっかいを掛けられたら、ちょっかいを仕返すのが、この世界の礼儀だ・・・。今から、最高の、エクスタシーをお前らに見せてやるよ・・・立ち会えることに感謝しろ。」
ヒドウのその行動と言動は、間違いなかった。
カンイン嬢を撃つ。しかも、今度はホモゴブの群に襲撃された時に使われた1段目ではなく、2段目。
野郎共は、2段目の部分がどんなものかわからなかったが、極太の矢を見る限り、想像は容易だった。
慌てて、そのバリスタ・・・カンイン嬢の射線を空けていく。
伝言リレーでヒドウから離れた野郎共にも伝わっていくのだった。
射線上にいれば、お構いなしに巻き込まれてしまう。
そう身に染みていた・・・。
ーートサカ頭は、目を開けた。
(あれ・・・オレは、何してたんだ・・・。)
トサカ頭は、状況を飲み込めない様子だった。
ぼやける視界で、何とか起き上がる。
「いっ!いてっっっ・・・」
トサカ頭の顔は、メイヒールのフェアリーロックを食らったおかげで、鼻血が出ていた。
さらに、頭がズキズキと痛む。
(あぁっ・・・クソッ!いってぇ・・・なぁ・・・。オレに何があったんだッ・・・!)
トサカ頭は、頭を押さえながら自分がこう至った出来事を思い出す。
(確か・・・弟たちと逃げてる途中だったよな・・・。森まで全力疾走して、それから・・・それから・・・森を歩いていたら、上から・・・何かが・・・。あれは・・・つーか、なんだこのぬめりは?)
その時、地面が血でいっぱいであることに気づいた。
「・・・血!?」
慌てて辺りを見渡す。
ようやく気づいたようだ。
「・・・おいおいおい、おいッ!!う、嘘だよな・・・?なぁ、や、やめてくれ・・・あぁ、そんなやめてくれ・・・!!」
周りで転がっている弟たち3人の死体に気づいたのだ。
1人1人の死体に目をやり、まざまざとその死体を焼き付ける。
「うああああああああああああああ!!」
トサカ頭は、発狂の叫びを上げた。
急いで1人1人の死体に近づいて、揺さぶる。
しかし、もちろん反応はない。
その時、受け入れざるを得なかった。
ドサッ・・・
トサカ頭は、膝から崩れ落ち、四つん這いになる。
「そんな・・・うっうっ、うぅぅぅぅぅ・・・」
大量の涙を流し、声にならない声で嘆く。
悲しさに溢れていた。
(なぜっ!なぜっ!弟たちがぁ・・・!!クソッ誰だ・・・こんな姿にしたのはッ・・・!!)
すると気絶する前の記憶が戻ってきた。
(・・・エルフ!!)
弟たちを殺した犯人がわかったことで、地獄の底からの怒りが湧いてくる。
トサカ頭は、四つん這いのその手の爪を立てて、土をひっかきながら、拳を作る。
そして、全身に力を込めて立ち上がる。
「・・・・・・オレはこれほど、世界を憎んだことがない。」
(弟たちよ・・・この兄貴が仇をとってやる!!)
力を入れて体を震わせて、怒りの目で、上を見上げる。
その時、トサカ頭は、自身で何かが覚醒したような気がした。
無限の力が湧いてくる気がする。
「はあああああああああああああっ!!!」
男の一生に一度あるかどうかの、全身全霊の叫びをする。
すべてを失ったトサカ頭の怒り、復讐心に天地が荒れ始めそうな勢いで、とてつもない力が今、解放される。
トサカ頭は、そう感じながら全身を踏ん張っていた・・・。
ーーメイヒールは、高速で森の中を駆け抜けていく。
(追っ手は・・・なさそうですね。これなら逃げ切れる。)
後ろを少し一瞥して、また前を向いて駆けていく。
自分の足の速さと、これほどの距離が開いたことを考えて、もう誰も追って来られないだろうと、メイヒールは確信していた。
ーーヒドウは、セットを終えて発射体勢に入る。
「さぁあああああああ!!いくぜえええええぇぇぇぇ!!新たな、犠牲に乾杯ィィィィィ!!」
ヒドウが、バリスタの前に立って笛が鳴った森に向けて、狙い始める。
バリスタには、極太の矢が2本セットされている。
その外見は、いかつい。
「ちょっ、ちょっ、まだ射線が完全確保できていま・・・!」
ヘッターレは、まだ野郎共が完全に、射線を空けられていないことを知らせるが、ヒドウは、まったく聞く耳をもたない様子で、バイザーを上げる。
チュッ・・・
そのバリスタ(カンイン嬢)にキスをすると、バイザーを下げる。
「・・・ジンツウカンツウ弾!!発射ァァァァァァァァッ!!!」
ドオオオオオオォォォン!!
ジンツウカンツウ弾が発射された瞬間、あまりの衝撃にヒドウの周り、つまり発射点周辺は、衝撃と風圧で音がすべて消え、爆発したかのように、砂埃が舞う。
ヘッターレ含める、ヒドウの周りにいた部下や野郎たちが、叫んで吹っ飛んでいく。
ピシュン!!ズドドドドドッ・・・!!
放たれた矢は、レーザー兵器のように飛んでいく。
速すぎて、見えない矢が通った後は、衝撃が続き、地面がえぐれ削れていくのが後に続く。
ジンツウカンツウ弾は、その森まで一瞬で到達する。
ーートサカ頭がまだ、踏ん張っているときだった。
(なんだ・・・このとてつもない物が近づいてくる音は・・・。)
トサカ頭は、地鳴りのような音を感じた。
(・・・まさか、これは、オレの力が解放されたものによるもの・・・!こんなにオレは力を秘めていたのか・・・!怒りがオレを覚醒させたんだな・・・。)
次の瞬間だった。
ピシュン!!ズドドドドドッ・・・!!
トサカ頭の肉体が消えた。
不運にもジンツウカンツウ弾の射線上に立っていたトサカ頭は、跡形もなく消えたのだった・・・。
ーーメイヒールは、順調に森林を駆け抜けていた。
村に着実に近づいている。
「ハァ、ハァ、ハァ・・・」
トップスピードで、ずっとここまで走り続けているため、息を切らしていた。
すると、突然のことだった。
「・・・!」
なんと白色の妖精が勝手に出てきて、メイヒールの視界の前に激しく浮遊する。
メイヒールの意思に関係なく白色の妖精が出てくる。
その意味をメイヒールは知っていた。
(妖精のお告げ・・・!)
「妖精のお告げ」は治療魔法が扱える白色の妖精が持つ力のひとつだった。
主人に、危機が迫ると知らせに来る。
その危機は、向かってくる攻撃に対してなどの今、この瞬間を意味していた。
ピクッ・・・
メイヒールの耳が反応した。
すぐ、後ろに何かとてつもないものが追ってきている。
それも、真っ直ぐに。
フゥン・・・
メイヒールは、考えることなく、フェードアウトするように横に向けてダイブした。
そのコンマ後だった。
ピシュン!!ズドドドドドッ・・・!!
「うぅ・・・!」
ものすごい衝撃と風圧がメイヒールを飲み込んだ。
何が起きたのかわからないまま、飛ばされ、地面へと激突し、視界が暗くなる・・・。
ーーメイヒールが、目を開ける。
砂埃が立ちすぎていて、よく見えない。
(一体・・・何が・・・)
倒れていたのは、時間にして10秒ほどだった。
「ケホッ、ケホッ・・・」
新鮮なすり傷がある足で、立ち上がり、砂埃を払う。
「そんなっ・・・。」
驚きのあまり、固まってしまう。
ついさっきまで走っていた風景が変わっていた。
横幅10メートルほどの地面のえぐれが、ぱっと見、数百メートル先まで続いていた。
直線上に伸びるその地面は、例えるなら巨大スコップで削り取っていったような荒れ方で、そのラインだけ木が消滅していた。
道を形成するかのように、はげていたのだ。
メイヒールは、その有様を引き起こした原因をすぐに理解できた。
(攻撃・・・!)
攻撃であることは明らかだった。
攻撃ということは、放った人物がいる。
もちろん偵察を終えた今のメイヒールには、すぐに、それが誰なのか推測が着く。
(やはり、あの者は・・・)
メイヒールは、バリスタをいじっていた人物、つまりヒドウという男に留意して、村へまた駆け出す。
ーー放ったヒドウは、バリスタの前で満足げに立っていた。
全身鎧のおかげでまったく飛ばされていないばかりか、コーティングでもしてあるのか、全身の鎧はまったく汚れていない。
「あぁ~最高、最高だったぜ・・・。」
ヒドウは、吹っ飛んでいったヘッターレに向いて、バイザーを上げる。
「おい!!ヘッターレ!!」
そう叫ぶと、地中からヘッターレが出てきた。
生き埋めになっていたようだ。
全身、土まみれだった。
「は、はい・・・(もう、泣きたい・・・。)」
「これでちょっかいの掛け合いは済んだ。・・・後は、本番だ。やつらの村にこのまま向かうぞッ!!オラァッ!!」
そのヒドウの合図に野郎たちとヘッターレは、土まみれでも動かざるを得なかった。
いよいよゲンエイガハラ村に、最終局面が迫ろうとしていた。




