八月の物語
どうも皆さんこんにちは藤武です。
今回はかなり短めに終わらせたいと思ってます。
経験されてきた高校受験を思い出しながら読んでいただけると嬉しいです。
コメントや、主人公応対する援ななど、いただければ幸いです。
ミンミンとうるさい蝉の声、鬱陶しい程に流れ出る汗。
真夏の太陽が照り付ける中、塾への道のりを爆走する一台の自転車。
動かずとも吹き出でる汗は、この状況のせいで、洋服内で大洪水を起こし、シャツを水浸しにする。
それでも足を止めるわけにはいかないのだ。
現在の時刻は正午十二時、塾の授業が始まるのは午前八時。
完全に寝坊した。
なぜそんなことになったのか、理由はある。
両親共に働いてい、妹は連日のように朝から友達と原宿や渋谷ヘ、家にいたのは俺一人。
起こしてくれる人などおらず、頼みの綱は目覚まし時計。
それなのに、宿題を終わらせるのに力を使い果たし、セットして寝るのを忘れた。
今の時間だと、普通に遅刻なんていうレベルではない。
必死にペダルを回しながら言い訳を考える。
寝坊なんてのは通用しないだろう。
しかし、事実寝坊したのだから、それ以外に理由が見当たらない。
いっそのこと交通事故にあっていたお婆さんを助たってことにしてしまおう。
いや、駄目だ。
クラス担当の飯田はそういう嘘を見破るのに長けているから、一瞬で見破られる。
暑さが思考を妨げる。
腹をくくって寝坊にしよう。
それ以外に無い。
塾についた俺は塾頭の笹塚に見付からぬようにそろりそろりと階段を上る。
階段を上り、右手にある教室を窓からこっそり覗き込む。
当然、俺以外の生徒は皆揃っていて、ほとんどの生徒が真剣な眼差しで講師の鳥観と黒板を見つめている。
入りづらい雰囲気に尻込みしていると、つまらなそうに欠伸をしていた友人の岡嶋が俺に気がついたようで、おかしそうに笑っている。
なにも面白くないぞ、そう叫びたいがそうもいかず、教室に入るタイミングを伺う。
独りでに笑う岡嶋を鳥観が注意し、授業が止まった瞬間を狙って、勢い良く扉を開ける。
岡嶋と鳥観に注がれていた視線は一斉に俺へと注がれる。
俺はあえて声を張って元気良く答えた。
「おはよう!」
他の生徒から笑いが漏れる。
ああ、くそ、死にてえ。
鳥観の顔が次第に強ばって行く。
鳥観から発せられる怒りのオーラを感じ取った、生徒たちは、うつむき、ノートを懸命に見つめた。
「後で話があるから。」
俺に向けられた鳥観のにこやかな笑顔からは憤怒と殺気が感じられ、笑顔などと呼べるものではなかった。
俺はなるべく反省して見えるよう、肩を落として返事をする。
正直、肩を落としたのは反省しているように見せるためだけではない。
純粋に疲れたのだ。
数学の授業はすでに終了していた。
鞄から英語のテキストとノートを取り出す。
遅れていった罪悪感と一緒に、数学の授業に出られず、周囲においていかれたという不安が込み上げる。
数学は苦手分野だった。
汗は止まらず、授業中もただただ暑い。
しかし、一時間が過ぎた頃、突然寒気に襲われた。
汗が冷えてきたのだ。
風邪を引きそうな程の寒気に身を震わせた。
休み時間、廊下に出た俺に、教室で隣にすわる壺内綾那がなにも言わずにタオルを差し出してくれた。
お礼を言って汗を拭き取る。
「サンキュ、綾那。」
再度お礼を言ってタオルを差し出すと、綾那はそれを拒んだ。
「いや、お前の汗つきタオルとか要らんから。」
親切なのか意地悪なのか理解できない。
ていうか、どーすればいいの?
迷っていると綾那は笑いながら言った。
「あげるよ、誕生日プレゼント。」
綾那のその優しさに歓喜の声をあげる。
なんだかんだ良いやつなのだと、自己解決し喜びに浸る。
「毎回汗まみれでこられちゃ、臭いやばくて皆が可哀想だし。」
そう止めを刺すと、綾那は笑って教室へ戻った。
すぐに先程呼ばれた鳥観のもとへと向かう。
悪いのは完全に俺だ。
どのような罰も甘んじて受けよう。
そう覚悟を決める。
案の定、こっぴどく叱られ教室に戻る。
昼食を食べ終え、午後の授業に入る。
午後十時、授業を終え、帰宅するとそこでは母と妹が壮絶なバトルを繰り広げていた。
どうやら妹の帰宅が遅かったことに母は怒っているらしい。
そんな怒号もよそに自室へと戻り、宿題に取りかかる。
宿題は膨大な量で気が遠くなる。
模試も近くに迫り、受験生としての意識が一層強くなっていくのを感じた。
八月。
それは、受験生にとって長く苦しい初めての壁。
塾に行き、帰って宿題に受験勉強、そしてまた塾。
この無限ループが一ヶ月間続く。
さあ受験生よ、その壁を乗り越え合格をつかめ!
ご愛読ありがとうございました。
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