第六話 復活と不安
俺はゆっくりと体を起こした。
体の節々が痛む。
この痛み方は、経験したことがない。
小鳥に変化してから人間に戻った時の感じとは違う。
まるで、自分の体が大きくなったり小さくなったりしているかのような不思議な感覚。
意識がしっかりしてくるにつれて、不意に最後の記憶がよみがえる。
矢が飛んできて、それが自分の首を貫いた……。
思わず手が首に伸びる。
しかし矢は刺さっていないし、傷も無い様だった。
「怪我はないはずだよ……でも、ユーゴ、あんた一回死んだんだよ」
ジェージャさんの声がそう言った。
声のした方を見る。
ジェージャさんは、今までに見たことがない表情をしていた。
その顔に浮かぶのは悲しみと……諦め?
表情が読み切れない。
微妙に吹く風が彼女の鮮やかな茶色の髪を揺らしていた。
自分が横たわっていたのは、鳥変化でこの聖域に帰ってきたときと同じように、礼拝堂近くの祭壇の上だった。
石造りの祭壇から、ぴょんと飛び降りた。
少しだけ着地でふらついてしまった。体の感覚がまだちょっと完全ではないようだ。
あたりを見回す。
今ここにいるのは、トラップの対処法などを教えてくれたジェージャさんと、投擲攻撃などを教えてくれたキルリさん。
それに、魔術関係の知識を教えてくれたミキミさん、髪も肌も真っ白なこの子が陽の光の下に来ているのは珍しい。
それから、剣術を教えてくれたアルア……。
今ここにはキリーラさんがいないのか。
鳥変化で戻った時は、一番迎えに来てくれるキリーラさんがこの場にいないのは、少し不思議な気がしたけど、とりあえずその事には触れないで、
「そうか……俺、死んじゃったんだな」
何を言って良いか分からず、それだけを言った。
「そうなのです。ユーゴさん、体は大丈夫ですか?」
「ん? うん」
ミキミさんの質問に、あいまいに答えた。
「剣を振るのも、走るのも、戦うのも、普通にできますか?」
ミキミさんは、その白い髪の下の白い瞳で、真っ直ぐにこっちを見つめて、そう重ねて聞いてきた。
何だろう。
こんなに必死なミキミさんは初めて見た。
「ユーゴ、軽く訓練しよう、あたしと」
会話の助け舟か、どうか分からないが、アルアがそう声をかけてきた。
アルアの方に顔を向けると、彼女は額の赤い髪のあたりをちょっとポリポリと掻いて、
「えへへ」
と笑って見せた。
何故だろう、彼女の立ち振る舞いにも、違和感を感じる。
俺が、一度死んだから、だろうか?
生き返ることは出来たみたいなのに……。
何気なく、キルリさんの方を見ると、彼女も少し目をそらす。
おかしい。
恋愛感情こそないけど、僕はこの「聖域」で、五人の少女の訓練を受けながら、友情もはぐくんできたつもりだった。
一緒にこの聖域で暮らして、家族みたいになれたつもりだった。
それなのに、今はここにいる四人は、まるで何か隠し事をしているようだ。
「キリーラさんはどうしてるの?」
僕は気になっていることを聞いた。
姉のような優しさを持っている、あの人に会いたい。
そう感じたのだ。
四人の少女は、しばし、何も答えなかった。
「キリーラは……ちょっと」
ジェージャさんが言いにくそうにしている。
俺は急に不安になった。
「『ちょっと』? 何ですか?」
俺はジェージャさんに、それからほかの子の方を見て、聞いた。
「聖域からいなくなったの」
アルアが、そう言った。
「いなくなった?」
おうむ返しにしてしまう俺。
「旅に出たのです」
ミキミさんがそうつぶやく。
そんな事があるなんて、思いもしなかった。
この人里離れた聖域で、世間とかかわりを持たず暮らしている神秘的な5人の少女。
彼女たちはもしかしたらはるか昔から、今の姿のまま暮らしていたのではないかとか、そんな想像さえしていた。
そんな彼女たちの一人、キリーラさんが、旅に出た……?
「いずれもっと詳しく話せると思うよ、だけど……」
アルアがうつむいてそう言った。
「……いまは、ユーゴの体がちゃんと復活してるかどうかが心配なの。だから訓練しよ」
俺は少しだけ迷った。
俺の疑問も不安も、解消されてはいない。
けど、アルアの提案も断りにくかった。
「わかった。訓練よろしくお願いします」
「うんっ!」
ようやくアルアは笑顔を見せた。
そして彼女は剣術訓練の広場の方に駆けて行った。
後を追おうとした時、
「あの……後で、渡すものがあるのです」
ミキミさんが、小さい声で、そう言った。
「分かりました、後で」
それだけ答えて、あとの二人に会釈して、俺はアルアの後を追った。