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英雄は六回死ねる  作者: 占林北虫
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第四話 油断

 魔法で鳥の姿になり聖域を飛び立ち、要塞近くの洞窟の入り口まで移動する。

 この間俺の意識はない。

 やがて俺は人間の姿で意識を取り戻す。

 洞窟の入り口の前のごつごつした岩の上だ。

 体を起こし、土やほこりを払う。

 準備運動をし、装備一式を確認し、洞窟に向かう。


 洞窟の中は、それほどの危険はない。

 落ちると危険な地形は何か所かあるが、危険な生き物、敵は見かけない。

 洞窟を抜け、狭い亀裂から要塞の通路に入る。


 あの武器庫までたどり着いた。

 ここにたどり着くまでに戦闘は二度、いずれもトカゲ人間一匹。

 受けた傷は膝のあたりに小さな切り傷が一つだけ。

 身体能力の低下はない。

 ここまでは順調だった。


 真っ直ぐな通路を進んでいると、前方に二匹のトカゲ人間がいることに気が付いた。

 俺には分からない言語で、何やら会話をしている。

 二匹とも俺に背を向けていて、ゆっくり歩いているようだ。

 今までの俺なら、ここは戦いを避けて、他の道を探すところだった。

 だが、今回の俺は冒険に出ようとしていた。

 背を向けている二匹を倒せないようでは、この先やってられない。


 背をかがめて、音をたてないようにしながら、出来るだけ素早く奴らに近寄る。

 わずかに近い左側のやつを最初の標的にする。

 体が触れそうになる近距離まで近づき、一気にトカゲ人間の口を左手でつかむ。

 声を封じることには失敗した。シャアア、と言う感じの耳障りな声が通路に響き渡った。

 だが全力でぐいっと相手の体を引き倒し、右手の短剣で喉を掻き切る。

 もう一匹のトカゲ人間は曲刀を抜いたが、姿勢の軸が崩れているのが見て取れた。

 動揺しているのだ。

 いける。

 奴の首筋を狙って、体をめいいっぱい伸ばして短剣で切り付ける。

 ピピッと水色の血がしぶく。

 だが、これは浅かっただろう、手ごたえが少なかった。

 俺は盾を構える。

 トカゲ人間はわずかに後ずさり、曲刀と盾をしっかりと構えた。

 絶好のチャンスは逃してしまったか。

 俺は盾をやつに向けたまま、右手で短剣を鞘にしまい、長剣を抜く。

 キシャアアアア!

 まるで野生の動物が威嚇をするように、トカゲ人間は吠えた。

 俺の剣と奴の曲刀がガキンと音を立てて衝突する。

 つばぜり合いの形になった。

 トカゲ人間は一般に体が大きく、普通の成人男性よりも力が強い。

 体が成長しきってない俺では力勝負に勝ち目はない。

 ぐいぐいと押され、後ずさる。

 うまく受け流したいが、やつは力をかける方向を微妙に動かして、俺に受け流しをさせない。

 ここは蹴りか?

 その案が浮かんだ次の瞬間には実行に移す。

 身をかがめて渾身の蹴りを相手の胴に見舞う。

 蹴りは見事に決まり、相手は体勢を崩したが、瞬間不吉な予感があった。

 左手首に違和感を感じて視線を向けると、斬られていた。

 血が流れている。

 つばぜり合いを解いた瞬間に奴の刀が当たったのか。

 左手の指が動くかどうか、軽く動かしてみる。動いたが手首に鋭い痛みが走った。

 くそ。やってくれたな。

 目を向けるとトカゲ人間は蹴られた所から体勢を立て直そうとしていることろだった。

 させるか。

 素早く低い位置に剣を振る。

 相手の膝のあたりに命中、奴の防具の金具がはじけて宙に舞った。

 やつの顔に――顔と言ってもトカゲのそれだが――怯えが走ったのが見て取れた、気がした。

 奴が曲刀を振りかぶる。

 ここは勝負のタイミングか。

 思い切って奴の懐に飛び込む勢いでダッシュする。

 振り下ろされた刀を盾で受け、外したら後がないかも知れない突きを奴の首筋に放つ。

 肉を裂き骨を分かつ重い手ごたえがあった。

 俺の剣は奴の顎の下から入り、後頭部に抜けた。

 即死だろう。

 よし、なんとか二匹組を倒せた……安堵した瞬間。

 俺は何かが空を切る音を聞いた。

 

 その瞬間に体が動いていれば、何とかなったかもしれない。

 だが、戦いに勝って安堵していた瞬間だったのがいけなかった。

 何だろう、なんて悠長に考えていた。

 音がした方に視線を向けた時にはもう遅かった。

 二本の矢が、俺の首を貫いた。


 こうして俺は死んだ。

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