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英雄は六回死ねる  作者: 占林北虫
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第二話 隠密行動

 俺が戦闘などの訓練を受けた場所。

 あの場所が何なのか、俺は今でも詳しくは知らない。

 分かっていることはそこが人里離れた山奥だという事。

 俺を除くと、5人の少女だけが暮らしていたという事。

 地図には載っていない場所だという。

 5人の少女たちは、その場所をただ「聖域」とだけ呼んでいた。


「ユーゴ、おはよう。何か楽しい夢は見た?」

 聖域の片隅にある小屋を出て、この地の中央にある「礼拝堂」へ向かう俺をつかまえて、赤い髪の少女、アルアがそう言った。

 何かで染めているのではないかと思える赤い髪。

 その髪は短く、起伏の少ない体と合わせて少年のようにも見える外見。

 顔だちは少し子供っぽい事を除けば完璧な造形。

「見なかったよ」

 俺は多少不機嫌そうに答えた。

「じゃあどんな夢を見たの?」

 アルアはあくまで人懐っこく、そう聞いた。

「夢自体見なかったんだよ。昨日の訓練きつかったもん。夢も見ないでぐっすり寝てた」

「そっか……行こう?」

 アルアは俺の手を取ると、礼拝堂に向けて早足で歩きだす。

 若干引っ張られる形になる俺。

「ちょっと早い! ……もう」

 仕方なく俺も早足になる。


 俺は脳裏に浮かんでいた回想を振り払った。

 思い出に浸っている場合ではないのだ。

 今、俺の前には扉があった。

 多分、魔王を倒すという目的のためには、俺はこの先に進まなければならない。


 この要塞にいる敵は、そのほとんどが武装したトカゲ人間だが、奴らは一匹でも俺にとっては侮れない強さがある。

 特別な訓練を受けて、奴ら一匹ならまず倒せる強さを得た俺だが、同時に二匹以上と戦うのは危険すぎる。勝てない公算の方が強い。

 だから、この扉の先に二匹以上のやつらがいるなら、俺はこの扉を開けるわけにはいかないのだ。

 いつかは突破しなければならないところだろうが……。

 まず、俺は聞き耳を立てた。


 気配はある。

 わずかな足音。

 少なくとも一匹のトカゲ人間はいると見た方がいいだろう。

 会話の気配はないから二匹以上はいないかもしれない。

 音からはそれ以上の情報は得られそうにない。

 扉を開けるしかないか。

 俺はまず扉のちょうつがいに油をさす。

 開けるときにきしむ音が出ないようにだ。

 それがすむと、慎重に、少しだけ扉を開ける。

 隙間から覗き込む。

 居る。一匹のトカゲ人間が、こちらに背を向けている。

 空気の感じから、扉の向こうが意外と広い空間だという事が感じられた。

 正直、今見える一匹以外の敵がいるのかどうかの確実な判断はできない。

 俺はリスクを冒して突入することを決意した。

 あらかじめ、複数の敵と遭遇してしまって、逃げることになることも考慮して、自分の逃走経路をイメージしておく。

 それからおれはすっと扉を開けた。

 見える視界が広くなったが最初から見えて居る一匹を除いてほかの敵は見えない。

 念には念を入れて、おれは短剣を抜き、そのトカゲ人間に背後から忍び寄る。

 俺の着ている鎧は金属製だが金属のふちに革が貼ってあり、音を立てにくい、隠密行動仕様だ。

 奴の頭に手が届く距離に近づいた時、奴はぴくっと動いた。俺の気配に気づいたのかもしれないが、もう遅い。

 左手で奴の口を閉じさせて大声が出せないようにし、後ろに引き倒し、右手の短剣で首筋を掻き切った。

 動かなくなった奴の体をそっと地面に横たえる。

 そうしてから改めて俺がいる場所がどういう場所なのか確認する。


 危ないところだった。

 ここはベランダのような場所で、手すりの先を見ると一階下の回から吹き抜けになっているのだが、階下を見るとそこには2匹のトカゲ人間が居たのだ。

 無音で事を片付けておいてよかった。

 剣戟の音など立てて居ようものなら、おそらくその二匹が加勢として駆けつけてきて、俺は撤退を余儀なくされただろう。無傷では済まなかっただろうし、最悪俺がここで死ぬことさえあったかもしれない。


 見つからないように階下の様子をうかがう。

 曲刀、槍など、たくさんの武器が並んでいた。

 武器庫なのだろう。今までこのような場所にたどり着いた事はなかった。

 俺は息をのんだ。

 ここから先は一段と要塞の中枢に近いのだろう。

 今まで進んできた場所は、あまり重要な場所ではなかったのだろう、通路ばかりで見張りの敵も少なかった。

 たぶん、ここからは違う。

 危険も増すだろうが、魔王を倒すという目的にほんの一歩でも近づけたのだと思った。

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