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英雄は六回死ねる  作者: 占林北虫
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第一話 魔王の要塞で

 鋼が鋼を撃つ。

 必殺の思いを込めて振るった俺の剣が敵の板金鎧に阻まれたのだ。

 だが僅かに敵――重装甲のトカゲ人間――の体勢が崩れる。

 腕が痺れるのにも構わず、全体重を乗せた蹴りを入れる。

 片ひざを地につけるトカゲ人間。

 チャンスと見て俺は大きく振りかぶり、再び全力の一撃をお見舞いする。

 重い鋼の剣の一撃は不完全に構えられた敵の盾を弾き、兜の側面に当たりながらも火花を散らし、奴の首筋に深々と食い込んだ。

 致命傷だろう。

 深く食い込みすぎて剣が容易には引き抜けなかったので、剣を持つ手に力を入れたまま相手の胴体を蹴飛ばして剣を引き抜いた。

 吹っ飛ばされたトカゲ人間が起き上がることは無かった。


 俺は辺りをうかがう。

 今の物音を聴きつけて、敵の加勢が来たりはしないか。

 それを警戒したのだが、どうやら今回は杞憂だったようだ。

 俺は警戒を解かずにゆっくり歩きだす。

 どれほど警戒しても、しすぎと言う事は無い。

 ここは世界を破滅に追いやろうとしている魔王の要塞。

 俺は、その魔王を倒さなくてはならない。

 まったく、とんでもない事だ。

 俺が何か月か前まで、平凡な鍛冶職人見習いだったことを考えればなおさらだ。


 さほど大きくない商業都市で、鍛冶職人の息子として生まれて、小さいころから父親の手伝いをしていた。

 南の方の国が「魔王」と呼ばれる存在に征服されたと聞いても、それは俺にはほぼ関係のない事だと思っていた。

 戦争になれば鍛冶屋はもうかるのかな、とぼんやり思っていた程度。

 ある日たくさんの兵士と一緒に、城から大臣や宮廷占術氏が俺を訪ねてやってきて、俺の運命は大きく変わった。

 

 「魔王を倒さなければ、この国はおろか、世界が壊滅する」

 「魔王を倒せる可能性がある者は、世界にただ一人、自分だけ」

 そんな突拍子もない事を聞かされた日の衝撃は今も忘れない。

 ろくに戦闘訓練も受けてない俺が?

 俺はにわかには信じられなかったが、問題なのは、国王がその話を信じているという点だった。

 一般市民の俺が王様の命に逆らうことなど出来るはずもなく。

 その次の日から、俺は特別な場所に連れて行かれ、妖精のような謎の少女たちによる、戦闘などの訓練を受けることに……。


 不意に意識が目の前の現実に引き戻される。

 瞬間、すね当て越しに、足首のあたりに微妙な感触があった。

 ワイヤートラップか!?


 俺はとっさに大きく跳び退った。

 着地と同時にもう一度後ろに跳んで距離を取り、盾を構える。

 毒矢が飛んでくるか、天井が落ちてくるかと警戒したが、何も起こらなかった。


 足首に微妙な感触を感じた地点を凝視する。

 確かに、低い位置にワイヤーが張ってある。

 うかつに踏み出した右足がそのワイヤーに触れたのは間違いないようだった。

 罠を動作させるためのワイヤーだろう。

 ワイヤーを強く引っ張らなかったから罠が作動しなかったのか。

 もしかすると今俺は九死に一生を得たのかもしれない。

 額に嫌な感じの汗が流れていた。


 壁に印をつけるための赤い石を取り出し、壁にこすり付けて目印をつける。

 一度見つけた同じトラップに引っかかって死ぬなんてごめんだ。

 たとえ、「生き返ることができるかもしれない」と言われていてもだ。

 俺は別の方向の通路に足を踏み入れる。

 警戒を怠らずに、一歩一歩、歩を進める。


 歩いているうちに、ふと、赤毛の少女の姿が脳裏に浮かんだ。

 俺を訓練した、謎の少女の一人。

 一番俺と親しくなってくれた少女だった。

「ユーゴ、おはよう。何か楽しい夢は見た?」

 ユーゴは俺の名前。

 あの娘は朝会うと、いつもそう話しかけてきた……。

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