死の告白
「好きだー! 僕は君を愛してる!」
「私もー!」
二人は愛を叫び、谷底へ消えていった。
「悪趣味な行動ね」
見ていた女が呟いた。
「やり過ぎじゃない? いくら死なないって言っても毎回、毎回死ぬとか。少しは自重するべきよ」
「あらいいじゃない。私達は好きでやってるんだから。ねー」
「ねー」
「そんなことより貴方はどうなのよ。いい人見付かった?」
「いないからこうやってあなた達と一緒にいるんだけど?」
「探し方が悪いんじゃない? それとも、理想が高すぎるとか」
「そんなんでもないと思うんだけど。年収一千万、背が高くて会話が弾む人、その二つしか条件は指定してないわよ」
「一千万って。普通の会社員じゃ、きつくない? 芸能人とか大企業の社員狙い?」
「そんな訳ではないけど」
「なら半分の五百万にするとか考えようよ。五百万なら何人かは見付かるんじゃない。人生、妥協が大切だよ」
「えっ。まさか、君は妥協して僕を選んだの? 僕、そんなに収入ない」
「違う違う。私は自分と金銭感覚が同じ位の人を条件に探しもらったの。お金持ちでも貧乏でもないそんな人。だって、自分と違い過ぎると楽しくないじゃない」
「その中であなたが一番私の好みだったの。一緒にいて楽しいし、趣味も合うしね」
「そっかぁ。君は価値観を大事にして選んだんだ。収入じゃなくて良かった」
「あっ、でも。私も結婚して子供が出来たら変わるかもね。彼女みたいに収入が大事だーって」
「大丈夫。君は変わらないさ。子供の分も僕がしっかり稼ぐからね」
「それは何か違うと思う。子供の分は二人で稼ぐの。その方が夫婦って感じがしない?」
「二人でか。……そうだね、そうしようか」
「二人の世界に入っているとこ悪いんだけど、そろそろ時間よ。早く帰るわよ」
「もうそんな時間?」
「じゃあ、また明日」
「うん。また明日。この場所で」
「あなた、彼のどこがそんなに好きなの? 価値観うんぬんとは言ってたけど、そんな事であんなさえない人選ぶ?」
「冴えないからいいのよ。冴えなくてモテないから浮気とかしなさそうじゃない?」
「まあ、それは言えてるけど」
「私、二股男にばっか当たってもう嫌なの。だから結婚相手は堅実に行くって決めたの。それに、彼といると楽しいの。嫌な事を忘れて気持ちが楽になるっていうか」
「はいはい。のろけごちそうさま」
「早く会いたいな」
「最短でも二週間はかかるわよ」
「分かってるけど」
「明日も仕事なんだからそろそろ寝ましょう」
「うん。おやすみ」
「おやすみなさい」
二週間後
『どこにいますか?』
『公園の中の銅像の前です』
『分かりました。もう少し待っていて下さい。急いで向かいます』
携帯でのやり取りを終え、二人は現実での初対面を果たした。
初対面を終えた夜
「やっぱりあの機械すごいね。実際の彼とうり二つのアバター作れるなんて。目印とか決めなくても一目で彼だって分かったよ」
「それがあそこの売りなのよ。『現実の肉体を仮想空間にそっくりそのまま再現!』なんて、初めは皆疑うものよね」
「どうやってるんだろね。今はどこでも違法データのやり取りがあるってのに」
「詳しくは企業秘密です。そう言って教えてはくれなかったわ」
「聞いたんだ」
「当たり前じゃない。あんなに凄い技術、他の事に使ったらもっと稼げるのに、結婚相談所だけなんておかしいでしょうよ」
「やっぱりお金なんだね」
結婚相談所のパンフレット
『遠くにいる人とも気軽にお見合い。気にいった方がいたら私達へ。両者の合意の元、現実でのお見合いをセッティング致します。 結婚相談所』
中途半端は良くない。
VR技術の発展が引き起こす可能性のある事象
死の体験による恐怖心の欠如 それにより起こりえる事象