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十メートルくらい離れたところに立ち姿、目を閉じてすっと綺麗にたたずむイチカちゃん。
その身体が、激しく光り出していた。昼間だというのに、その光は空気を切り裂き、ワタシの元まで飛んでくる。
一体、何が起きたと言うんだろう。
彼女が攻撃を止めてワタシから思いっきり離れたとき、てっきりまたおしゃべりでもしてくれるのかなと思った。
だからワタシも一旦下がって、武器を下ろしてあげたのに。
そしてイチカちゃんは、口を開く代わりに目を閉じた。そして動かなくなった。
ワタシは何が起こるんだろうと、好奇心半分、不安半分くらいの気持ちでイチカちゃんを見ていた。
そして十秒ほど経った頃、異変が起き始めたのだ。
「お前を、倒す!」
イチカちゃんは真っ赤に光ったまま、こわい目でワタシをにらんできた。思わずワタシは身体をびくつかせてしまう。
一体どういう事?こんなの聞いて……
アンセムによる情報:プロメテウスの真の力が発揮された。彼女の戦闘能力は格段に向上している。危険度向上、即時排除を推奨する
ワタシの心の底にあるアンセムが、情報を伝えてくれる。
ふーん、要は本気モードってことか。それならこっちも負けてられないや。
ワタシは長刀を持つ手に力を込めた。そして間を置かずにイチカちゃんに向かって飛び込んだ。
正直なところ、イチカちゃんには少し感情移入というか、同情してたところもあったんだ。同じ自我を持った存在ーイチカちゃんは「エゴ」って呼んでたけどーだし、同じような存在として
それに可哀想って思ったのも本当。だから消すんなら、せめてこのワタシの手で、このワタシの意志で。そう思った。
そして上段に構えた長刀を一気にふり下ろす。
バァチィィン!乾いたもの同士がぶつかり合うことで生まれる、重い音が響いた。その音は衝撃となってワタシの身体を振動させた。
振り下ろしたはずの長刀の刃先は、イチカちゃんの右拳に集まったエネルギーにより、ガラスのように細かく砕けた。そして破片は空中で溶けるように消滅していく。
さらに彼女の残された左腕が軽く引かれて、一気に突き出される。
距離があるからとたかをくくっていた。
左拳が突き出された瞬間、エネルギーの塊が巨大な弾丸となって、ワタシの身体に向かって飛んできたのだ。
それはワタシに命中すると、ワタシの身体にめり込みながら、ワタシをさらに遠くへと吹き飛ばす。
そして、屋上の端ギリギリのところの地面に、どさりという音ともに落ちた。
撃ち込まれたエネルギーは全て、ワタシの身体の中に吸収されていた。
プロメテウスが侵入する。それはアンセムーワタシの元であり、ワタシの全てーを消去していく。
右腕、左腕、右脚、左脚、胴・・・それを守るために包み込んでいた銀色の装甲が消えていく。
そして、その中にあるワタシという存在も。
意識がどんどん薄れていく。見えるものも聞こえるものも触るものも、どんどんぼんやりとしたものに変わっていく。
これが消えるってことなのかな。生き物で言えば、死ぬってことなんだよね。
死んだらどうなるんだろう。何かあるのかな、何もないのかな。
薄れいく視界の片隅に、一つの影が入ってくるのが見えた。
イチカちゃんだ。色で分かった。
彼女がこちらを見下ろしている。でももう視界はぼやけすぎて、どんな顔をしてこっちを見ているのかは分からないや。
ワタシはもうこれで終わりだけど、イチカちゃんはまだまだこの世界に居続けるんだよね。
ワタシは、ワタシとして消えていく。
消えていく心の中で、欠片のように輝いているものがあった。それは満足の気持ちだった。
あぁ、最後の最後で、イチカちゃんのいってたことが理解できた。
アンセムとしてじゃない、ワタシは、ワタシとして存在して、ワタシとして消えていくんだ。
もうワタシには何もなかったけれど、最後の最後に力を振り絞り、アヤの表情を動かした。
ワタシの、最後の贈り物。
おわかれのときは、わらったかおで――
さ よ な ら




