サクラ
内からくる衝動。突き動かされる感覚。これは、私の中のもう一人の私の意志。
目を開き、立ち上がり、そして。
「……実に残念だよ、倉橋」
身動きのとれない樹を救い出す。それが、私の罪滅ぼし。
マサキくんに気付かれないよう、静かに体制を整えた。どういうことなのかは判らないけれど、樹は今、蜘蛛の糸のようなもので雁字搦めにされている。白みがかった半透明の、不自然なほどに鈍く光った。それをしたのは、きっと。
「まあ、良い暇潰しにはなったかな」
樹の視線がかすかに動く。私と目が合い、合図をするかのように瞬いた。
屋上に張り巡らされた白い糸を避け、ゆっくりと進む。どうすればいいのかは、自然と判っていた。促されるままで大丈夫。間違いないと、判っていた。
――サクラちゃん、そのまま進んで。
内なる声は、私のものではない。どうやって直接語りかけて来ているのかは判りようがないけれど、影からなのは明白だった。
多分、私が死に近付いたから。だから、死者の声を拾えるようになったのだろう。間接的に、伝えたい分だけを。
口を開かずに交わせる会話。半死半生の私の身体。するべきことは、ただひとつ。
恐怖心を取り除き、目の前の目標を見据え。
――右手に……。
マサキくんが握っている糸を巻きつけ、力の限り引く。私に出来るのはただそれだけ。非力な蜘蛛の糸を巻きつけたところで、どうなるのかなんて判らない。判りようがない。
けれど。促されるままに。




