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新世界へ  作者: 戸雨 のる
陸-6-
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サクラ

 内からくる衝動。突き動かされる感覚。これは、私の中のもう一人の私の意志。

 目を開き、立ち上がり、そして。

「……実に残念だよ、倉橋」

 身動きのとれない樹を救い出す。それが、私の罪滅ぼし。

 マサキくんに気付かれないよう、静かに体制を整えた。どういうことなのかは判らないけれど、樹は今、蜘蛛の糸のようなもので雁字搦めにされている。白みがかった半透明の、不自然なほどに鈍く光った。それをしたのは、きっと。

「まあ、良い暇潰しにはなったかな」

 樹の視線がかすかに動く。私と目が合い、合図をするかのように瞬いた。

 屋上に張り巡らされた白い糸を避け、ゆっくりと進む。どうすればいいのかは、自然と判っていた。促されるままで大丈夫。間違いないと、判っていた。

 ――サクラちゃん、そのまま進んで。

 内なる声は、私のものではない。どうやって直接語りかけて来ているのかは判りようがないけれど、影からなのは明白だった。

 多分、私が死に近付いたから。だから、死者の声を拾えるようになったのだろう。間接的に、伝えたい分だけを。

 口を開かずに交わせる会話。半死半生の私の身体。するべきことは、ただひとつ。

 恐怖心を取り除き、目の前の目標を見据え。

 ――右手に……。

 マサキくんが握っている糸を巻きつけ、力の限り引く。私に出来るのはただそれだけ。非力な蜘蛛の糸を巻きつけたところで、どうなるのかなんて判らない。判りようがない。

 けれど。促されるままに。

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