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新世界へ  作者: 戸雨 のる
陸-6-
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イツキ

 倉橋には通じないらしい。面倒だが、そういうところも悪くはない。僕の仮面を見破れるような人間だからこそ、神になるに相応しいのだ。

「母さんが、言ってるんだ」

 呟くように小さな声で、倉橋は続ける。

「五木正輝は人間じゃないって」

 その言葉は正しいが、間違ってもいる。僕を人間如きと一緒にしてくれるなという、憤りも感じている。いったい何だと思っている? 僕は、神だ。

 神は人間とは違う。神は選ばれし存在。僕はこの現世でただ一人の、ただ一柱の神だというのに。

「……だったら?」

 それなのに。判っていて尚、逆らおうと言うのか。倉橋は僕が想定していたよりも余程頑固で、余程愚からしい。

 まあ良いだろう。愚か者には、それなりの制裁を加えてやればいいだけだ。そうだろう?

「だったら何だって言うんだよ。倉橋、僕の話を聞いてなかったのか?」

 糸を手繰る。女に括った黄金の糸。

「もう一度だけ言ってやる。僕に協力しないか?」

 強く引き、死の世界へと近付ける。

 早く答えろ、倉橋。答え如何でこの女の命運も変わってくるのだから。

「協、力……」

 倉橋の呟きに合わせるように、常世の民がかすかに揺らめく。あの影が倉橋の母なのだろう。余計なことを吹き込んだ、忌むべき存在。早いところ転生していれば良かったものを。

 左手を伸ばし、影へと向けた。左手は過去。過去のものから過去を奪えばどうなるか。これは結構な見物だろう。

 目の前で母が消える様を、見せ付けるのも悪くない。神としての能力を、見せ付けるには丁度良い。

「倉橋。僕に協力しないとどうなるのかって、判ってる?」

 口角を上げ、わざとらしく微笑む。何も口にしなくとも、この表情で通じるだろう。善良で柔和な仮面を外し、ありのままの僕を見せる。

 ありのまま。神としての僕の姿を。

「……ねえ、答えないの?」

 左手で影を捉え、過去を奪う。過去、すなわち記憶。母としての記憶を失えば、倉橋に余計な口出しをすることもなくなる。

 ゆっくりと流れ込んでくる記憶。反吐が出るほど幸せな家庭。僕の偽りの家族とは違う。裏のない、幸せな。

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