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イツキ
世界の境は崩壊しつつある。既に、校舎内は繋がり始めていた。混沌はこの場から始まるのだ。傀儡が散り、世界を広げる。全てが常に覆われるまで、僕は高みの見物でもしていようか。
「空が……」
雲がゆっくりと、崩壊の序曲を奏で始めた。姿を隠す太陽を僕の宴へと導き出す。眩い光が校舎を照らし、赤黒い海に反射する。
生存者は、どのくらいいるのだろう。
操り、殺め。半数は既にこの世界の住人ではなくなっている頃合いか。もっとも、生存者が何人かなど、僕にはあまり興味がないのだが。
ただの餌の生死など、いちいち構ってやる必要もない。使える人間の方が少ない。残したいのは、ただひとり。
あいつは、利用できる。
右手をおもむろに伸ばし、黄金色の反物を撫でた。愛しい、僕の宝物。艶やかで滑らかで、眩く妖しく美しく。
目を細め、一本の糸を摘まむ。仄僅か、特別な糸。僕はそれを慈しむように、丁寧に手繰り寄せた。