イツキ
残暑の厳しさを感じない曇り空の下、僕は、始業式という名の宴の始まりを待っていた。
準備は万全だ。今は、きっかけを待っているに過ぎない。きっかけ。校長がクラス担任だった男の名を口にすること。既に傀儡には命令を下してある。
太陽が隠れているのが実に残念だ。せっかくの宴を、見せ付けてやることが出来そうにない。
まあ良い。血の海くらいは確認出来るだろう。今日を契機に少しずつ世界を変革していくのだから、この先いくらでも機会はある。
粛清という素晴らしい行為。最期を迎えるのは月夜が良い。満月の夜を、永遠に。
「……イツキ?」
つい口元がにやけてしまう。僕の従順なる下僕が疑問を口にしたので、何でもないよ、と微笑んで見せた。
正面に目を向けると、校長がゆっくりと壇上に上がっていた。ゆっくりと、宴の開始が迫りつつある。
マイクの電源が入れられ、不快な音が轟く。もう少し、あと少し。ざわめきがわずかに収まり、校長が口を開く。
「えー、皆さん」
不快な声が校庭に響く。反吐が出るほどの平和な時間は、もうすぐ、終了だ。
「……既に知っているとは思いますが」
現はもう、終焉を願っている。常になることを望んでいる。
永遠を手にしたいと、切望している。
「三年生の担当の」
宴の開始を宣言する挨拶を、早く。
「島崎先生が」
校長が名を告げた。宴は、開始される。
闇夜に通じる宴。常世への土産物。死という概念を根本から取り去り、永遠の生命を手に入れる。僕が望み、僕が創る。
神の名にふさわしい改革を、今。




