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新世界へ  作者: 戸雨 のる
惨-3-
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イツキ

 新学期を迎えるべきか否か。明後日に迫る始業式を無事に済ませた方が、僕の存在は誤魔化しやすい。判ってはいる。しかし、大粛清は既に始まっているのだ。

 最初の実験は成功だった。次に行った、幼稚園児を使った実験も成功を収めている。さすがに加害者が幼稚園児というのは誰にも想像がつかなかったらしく、強盗殺人事件として処理されているようではあったが。

 僕は知っている。たとえ子供であれ殺意を剥き出しにした存在に、ぬるま湯に浸かった人間如きが勝てるはずはないのだ、と。

 油断を招くのは悪くない。学校内で括りつけた多数の糸を使い、白昼堂々と宴を始めるというのも興味深かろう。何より、太陽に見せ付けるには丁度良い。

 問題はただ一点。怪しまれることなく巻き込まれずに済む手段が、存在しているか否か、だ。

 貧血にでもなり保健室に逃げるという方法はある。しかし、そうしてしまうと保険医を動かすことが出来なくなってしまうのだ。大した道具が揃っているわけではないが、宴には余興があった方が良い。そして保健室には、余興の道具が揃っている。使わせないのは勿体ない。残念ながら、却下だろう。

 当日に休むという方法はどうだろう。怪しまれないよう、僕以外にも数人を休ませて。しかし学校に行かなければ、この目で確認することは出来ない。それでは、勿体ない。

 せっかくの宴なのだ。存分に堪能しなければ。

 ああ、そうか。ひとつ良い方法を思い付いた。邪魔な愚民を処理しつつ、僕の身を安全に保つ手段がある。簡単なことではないか。

 身を呈して、この僕を護らせる。

 実に人間らしい、愚かな方法。不自然にならない程度に人心を掌握しておいて良かったと、心から思う。安心して使い捨てられる駒を、僕はたくさん持っているのだ。

 天に与えられし才能。月光よりも美しく、陽光よりも眩しく。全てを惑わす、至上の美貌。

「……月夜の晩に」

 かぐや姫は、僕の仲間か僕の前世か。見目麗しく、人心を惑わし。帰っていくのは黄泉の国。永遠を手にする秘薬は、僕の目指すそれと同じはずの。

 使用していれば良かったものを。そうすれば、僕がこんな風に労する必要もなかったろうに。

「常世を夢見る……」

 常なる世界になっていたなら、僕がこうして宴を催すことはなかったろうに。生命が増えている分、宴は盛大なものになってしまうではないか。

 全く。愉しくて仕方がないよ。

 僕には、情けはない。くだらない感情に惑わされるほど、僕は愚かではない。育ての親に感謝するほど、僕は落ちぶれてなどいない。

 生命の螺旋を絶ち、停滞を迎える。ゆっくりと確実に、まるで現世を蝕むように。

 僕の世は、もうすぐやってくる。

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