五話
俺だってこの感じ悪いやつにおぶわれたくなんかない。
だから八の字眉毛の一声でそいつが急に静かになって
しぶしぶといった感じで俺の前にかがみこんでくるのにはゲンナリした。
そのまま突っ立っていると、肩越しに無言で睨んでくる。
あれだけ言われて、誰が乗るか。
思いっきり顔を背けてやると、今度は八の字眉毛と目が合った。
「俺、プリなんとかなんか行かないからな!
お前らだけで脱出でも何でも、すれば」
そういって睨みつけると、相手は自然なしぐさで、持っているものの柄に手をかけた。
「…君がそんなふうに非協力的なら、ここで死んでもらってもいいんだけど、どうかな?」
「え」
「俺の目的のためにはなるべく連れて行きたい。
が、どうしてもって程でもない。」
やっぱり殺すかな
据わった目をして囁かれて、思わず後ずさりする。
手袋をした手が、柄を握る。
音を立てて、銀色に光る刀身が姿を見せる。
それには赤いものがついていて、
ああそれは血なんだろうなと俺は思った。
風を切るような音。
飛び込んでくる、流れるような銀色の髪。
鋭い音を立てて、剣が弾かれた。
「どういうことかしら」
静かな、気持ちを抑えたみたいな声に、俺はうっすらと目を開いた。
目を開いて一番に飛び込んできたのは、長い銀髪の女の後姿だった。
剣とは違う、何か黒い紐みたいなものの持ち手で剣を受け止めている。
一瞬黙ってから八の字眉毛が剣を引くのを見て、女は斜め後ろへ一歩引いた。
「…プラナか。どういうこととは、こちらが逆に聞かせてもらいたいんだが」
「あなたがこの少年をプリウェンへ連れ帰ると言ったから、他の実験体たちは処分してきたのだけど。彼を殺して、責められるのはあなただけではないわ。エステラに依頼を受けているのは、私たちも同じなのだから。」
八の字眉毛の問いかけに、プラナと呼ばれた女はひとつ息ををついてからゆっくり、はっきり返答した。
「そうか…そうだったな。申し訳ないと思っている」
うつむき加減になった男を、銀髪の女は無表情に見つめている。
「申し訳ないと思っていようがどうだろうが、関係はないでしょう。
あなたが任務を果たす気があるのか、私には疑わしい。
彼を送り届ける役目は、私とトラシーボで果たします」
その言葉に男は八の字眉毛を吊り上たけど、すぐ表情を戻して、「わかった」とだけ言った。
「おい、その人狼野郎はどこだ」
今まで黙っていた赤毛が、立ち上がってそばへ来ていた。
女に聞いているんだろうけど、目は俺をしっかりとにらみつけている。
「…それはトラシーボのことを言っているの」
「他に誰かいるか?物好きに軍に飼われてる珍獣が?」
そういって笑うのを聞いて、女が眉をひそめる。
アシュレー!と、八の字眉が叱り付けた。
「何だ本当のことだろ?それよりさっさと脱出するべきなんじゃねぇのかよ。」
「そのとおり」
いきなり聞こえたほかの声に、全員がそちらを見る。
入り口に誰かが立っている。
「脱出経路を確保してきた。」
トラシーボ。と、銀髪の女がつぶやいた。




