四話
「アシュレー」
さっきまで斬り殺してきた奴らと同じ顔―黒髪に青い目―のそいつは、
唇をわななかせて呟いた後、なぜか呆然としたような顔をした。
そして口をつぐんだ。
アシュレー、俺の名前だ。
どうしてこいつが知っている?
「…知り合いか?」
「アホか」
兄貴の相変わらずずれたボケを軽く流し、あらためて目の前の奴を見つめた。
その顔に、間近で見た死に顔がだぶって、口の中にいやらしい酸味が広がる。
俺はそれを飲み込んだ。
確かにこいつは今まで斬ってきた奴らと全く同じ顔立ちをしている。
が、その目には光があった。
―問いただしてみる価値はある…か?
「おい、アシュレー?」
眉を顰めたまま黙り込んだ俺を不審に思ったのか、兄貴が再び話しかけてくる。
任せろとだけ言ってそれを黙らせ、剣を突きつけた相手を真っ直ぐ見据え、
慎重に言葉を選び、言った。
「おいガキ、なんで俺を知ってやがる。答えねぇーと例によってブッ殺す!」
「チンピラかお前は!!」
兄貴はボケはまるで駄目だが、突っ込みだけは立派にこなす。
結局、兄貴に任せることになった。
十分ほどの尋問―兄貴に言わせれば質問―の成果をまとめると、
こいつは小さなパイプベッドしかないこの狭い部屋で、物心ついた時から飼育されていた。
名前はウルで、その名前をくれた女性は先日死んだ。と、クレメンザとかいうオカマからさっき聞いたと。
だいたいこんな内容のことを、悲痛さの欠片もなしにあっけらかんとそいつは語った。
ただし、最も肝心な、俺の名を知っていたことについては、「わからない」の一点張りだ。
「もう一度聞かせてもらうが、なぜ弟の名前を君が知っているんだ?」
「だからぁ、よくわかんないっていってるだろぉ。なんか先生の声がしてさー。」
「先生?」
「そう。でもそれは夢なんだよ。先生は死んだから…」
「あぁもう意味わかんねぇことばっか言ってんじゃねぇぞ!不思議チャンかてめぇは!」
俺は耐え切れなくなって口を挟んだ。
夢?声?先生?
確かにこいつは喋れるようだし、会話もできる。
しかしさっきから内容が支離滅裂で、意味が通じない。
俺はいい加減に苛ついてきていた。
なんとか情報を引き出そうと、下手に出た態度をとっている兄貴も気に入らない。
「なぁなぁ」
「うん?なにか思い出したか?」
と、身を乗り出さんばかりに兄貴が食い付く。
「お前らくさいぞ」
言いながら思いっきり顔を顰めたクソガキに、俺はキレた。
「あぁ臭ぇだろーよ!てめぇのお仲間の血をたっぷり浴びてきたからなぁ!」
兄貴の呆れ顔が視界の端に入ってくるが、それは無視することにする。
「は?俺仲間がいるの?」
兄貴がため息をついて首を強く横に振った。これも無視だ。
「おんなじ顔したお仲間だろうが!なんならてめぇも一緒のところに」
「アシュレー」
肩をつかんで制止される。
「止めんなクソ兄貴!こいつは細胞からむかつく!!」
「落ち着け馬鹿、プラナから連絡だ。
俺達の潜入がばれたらしい。」
俺は振り向いて兄貴と、お互いに青ざめた顔を見合わせた。
「なんでだ?」
「わからない…ばれるような行動はとっていないはずだが…。」
なら、エリュシオンの連中がヘマをやったのか。
だからあいつらと組むのはいやだったんだと俺が毒づくと、兄貴もそれを諫めはしなかった。
「とりあえず合流するぞ。彼らを責めるとしても、ここを脱出してからだ。」
それに異論は無かった。
だがその前に
俺達は一緒に黒髪のガキを見つめた。
「こいつは…ここで殺っとくよな?」
もうたいして有力な情報も引き出せそうにない。
第一、此処で研究されている『モノ』は始末しろということだった。
「……いや、連れて行こう。プリウェンに引き渡す。」
「プリウェンに?」
なるほど、そういえばあそこは此処のものを欲しがっていた。
敵を知るためだとか言っていたが…。
「いいのかよ?命令違反になるんじゃねぇのか。」
「うん、報告にはエリュシオンの二人に行ってもらおう。
俺達は先にプリウェンに寄っていく。」
そこまでする価値がこのガキにあるのかと思ったが、
一応ヒョードルは俺の上官でもある。
俺は逆らわずにふぅんとだけ言っておいた。
「よし、走るぞ。俺は敵に備えて剣を抜いておくから、
お前はそいつをおぶって走れ。」
俺が異論を唱えまくったのは言うまでもない。




